第23話 新しい日課。
尾久先生とトェイさんから多くのことを聞かされたあと、別室で待機していたリン母さんとシオン母さんを呼んでの改めて家族向けの説明。
姉妹の今後の日常生活について、サキュバスハーフと主従における注意すべき点と、家族が配慮出来たらいいことがかいつまんで話されて。
その中でも私がサキュバス覚醒時に多めの飲食or精気でエネルギーを補給する必要性・手段についても理解を示してくれて「たくさんご飯作るのは任せて! そして私の夢の中にもどうぞ~」「お腹が減ったら私にところ (夢) に来ていいよ」とのこと、でも正直両親に”いかがわしい夢”を見せて精気を吸うのはいよいよ最終手段な気がするので、その前段階として私は”──暴飲暴食のユリ──”にならざるを得ないかも。
そういえば下十条家の複雑な事情”一族が全員女性”については両親もある程度把握している一方で、リン母さんが「トェイさんってクイーンだったんですね~」「驚きだね、すごいね」とシオン母さんなど両親としても初耳なこともあったのだとか。
病院が出来る対応としては、私が病院を訪れて多重シールドによる調整をしながら、同意を得た対象者からの精気吸収・場合によってはかなりの人数のいる病院スタッフから微量ずつ吸収する形になるみたいで。
トェイさんが明かしたサキュバスクイーン同等クラスとされる私の精気が枯渇する”飢餓状態”の危険性に関しては、国家存続が脅かされるレベルということで病院的にも政府的にも最優先されることになった……と。
両親に対して迷惑をかけることでも色々思うところがあるのに、病院・政府を巻き込むレベルになるのは本当に申し訳ないというか罪悪感が半端じゃないし、自分でやれることはしたいよね……。
そうこうして病院の一件は午前中の間に終わりを迎える。
本当なら私と両親で通院して診断してもらって~……のハズが、私の異能の暴発の結果お姉ちゃんをサキュバスの眷属にしてしまって・私が主になるような事態になって、異能発動による異常数値を検知した異能対策課によって意識のない私たちを確保・病院に搬送・その流れで各種検査を行ってからトェイさんからの説明を受けるという結構な大事になってしまった。
それでも尾久先生とトェイさんが居たからこそ私の現状の把握・今後の方針を立てられるようになったので、私が取返しのつかないことをしてしまう前に病院に行けて良かったと思う……ほんとに。
国家規模の催淫・嫌悪の異能を暴発させるというほぼ災害レベルのことを起こす前で本当に良かった。
あらためて、サキュバスは精気を吸うことで自身のエネルギーとし、更に”溜める”ということが出来ること。
飲食や光合成など他の種族や動植物にみられるエネルギー補給に依存しない”精気”によるエネルギー補給・貯蓄としたのは、他種族との差別化・競合を回避・共存する為だったりするのかもしれない。
もちろん毎時毎分毎秒精気を吸っていたら地上の生物が干からびかねないからこそ、エネルギー吸収効率のいい他人の夢に入って精気を吸う”夢魔”的側面を活用することで上手いことやってきたのだろう。
……私が知らないだけで”吸い尽くしちゃった事件”とかがあった可能性もあるけど。
ちなみに今の私はお姉ちゃんから精気を吸い尽くしたので精気に関しては十分な貯蔵量がある。
そういうのも”精気残量”みたいなことを脳内で考えれば確認することが出来て、とりあえずは未吸収でも八日ほどはエネルギーを摂取する必要性がないっぽい。
むしろお姉ちゃんに関しては精気が心許ない、今は私もお姉ちゃんも人間状態なので精気を摂取する必要がないもののお姉ちゃんの”精気残量”は主従関係後に私からわずかに逆流した分だけなので、むしろ私の方から供給する必要あるかもしれない。
サキュバスの眷属は自力での精気吸収は出来ないのに私ほどではなくとも”催淫”と”嫌悪”の異能が発動する可能性があり・飢餓状態になると異能の発動と空腹による苦痛が生じることもあり得る・サキュバスの主からの精気受け渡しと大量の飲食からしかエネルギー補給が出来ないという……地味に両親への説明時にサキュバスの眷属についても一部新情報が私に知らされた、ただそこはお姉ちゃんには既に知らされていたらしい。
だからこそ私のエネルギー補給に猶予があっても、お姉ちゃんに関しては…………ということで。
まぁその、お姉ちゃんとは”ある日課”が出来たわけで。
「「…………」」
それは休日、昼を控えた私の部屋にお姉ちゃんがやってきて一緒に過ごしている。
といっても今はベッドの端に並んで腰をかけているだけで、私はスマホで趣味活動をしているしお姉ちゃんはタブレットで週明けの授業の予習をしている……お姉ちゃん真面目だなぁ。
それでも二人の肩は触れ合っていて、その接点からなんとなく私からお姉ちゃんへの力の流れのようなものを感じる。
その感覚はなんだろう? 吸われてるううう! って感じでもなくてイヤな感じがあるわけでもない、むしろ心地いい・気持ちいいまであるのかも…………?
新しく増えた日課はお姉ちゃんとの触れる時間。
それは手と手でもいいし、腕を組む・肩がぶつかる・背中同士でもいいらしいしので、ようは身体の一部同士が接していれば条件は満たすっぽい?
それでも最効率とは言えなくても私からお姉ちゃんへの精気の供給が可能とのこと、サキュバス覚醒状態でなくとも私たちの主従関係は維持されているのでエネルギー供給の手段として結果的に触れる時間が増えた。
ただ最効率なのは”粘膜接触”、ようはマウストゥマウスや……………………せ、性交渉も含めて。
トェイさんがこっそり教えてくれたけどさ~、いや~、それは~、流石にどうなんだろう? お姉ちゃんとそういうことををする私、想像出来ないんだけど。
本当に関心がないのかどうかって? …………そういうことに興味がないといえば嘘になりますけど!? 正直傍から見る分にはいいけど私は上手く出来る自信がないわけで!
色々失敗して失望された結果お姉ちゃんから主従関係の破棄! 私は追放されて隣国で過ごすことになったらどうする!?
……という冗談はともかく、主従関係の破棄は純愛神でさえ干渉出来ず・色々な契約上手順を踏まないと出来ないらしいけどね、それもかなりややこしいもので前提として両想い状態でなくなることもあるみたいで。
そもそも私がお姉ちゃんを嫌いになるわけないんだが? でもなー、お姉ちゃんが急に私に冷めることもあるかもなわけで…………想像しただけで辛いけど!
ちなみにお姉ちゃん相手の性交渉が嫌なわけでは断じてない、潔癖症とかそういうことでもない、正直お姉ちゃんに求められれば────って何思ってるんだろうね私!?
なので、だから、お姉ちゃんにもそのことは言っていないので”キス”止まりとしておきたい、粘膜接触には違いないわけだしね!
ちなみにこの世界の最も最優先されるルールの一つに”お互いの同意”の必要性があって、言うなればお互いの同意さえあればどんな年齢でも・性別関わらず・種族間・動物植物・有機物無機物間でもキスも性交渉も可能ということ。
だから私の友人の一人で同い年のギンコは彼氏 (?) の扇風機のろくくんとの子供が産まれる? 生まれるのを控えているし、それだけ今の医療技術・科学技術でかつて出来なかったことがカバーできるのだというし・法的にも問題はなくなった。
お姉ちゃんは子供二人欲しいって言ってたなー…………精気供給の延長線上で”デキちゃう”なんてこともあるかもなんだよね。
ちょっと今は想像できないかもしれないし、心の準備的にもムリかもしれない。
「ねぇ、ユリ」
「なーに?」
ずっと続く沈黙の時間、でもそれは変わらず居心地のいいもので。
こうして毎日一時間ほど一緒にいる時間を設けることにした最初のタイミングだった。
「キスしてもいいかしら」
「…………ちょっとだけね」
なんとなく自室の扉が閉まっていることを目視して、振り返って手を伸ばして気恥ずかしさからベッド横の窓にあるカーテンを閉めた。
粘膜接触は精気の摂取効率が高い、いわゆるスマホの急速充電のようなもので私の貯蔵している精気は普通に触れている以上の速度で減っていくことになる。
本当なら急を要する場合に解禁したかったけど、お姉ちゃんとしては”したい”らしい。
それは純粋な愛情故か、性的欲求なのか、サキュバス的に精気を求める習性ゆえか、お姉ちゃんは明確には答えてくれなかったけど……少なくともこの行為に好意的には違いないみたい。
私はスマホを置いて、お姉ちゃんもタブレットを傍において。
お姉ちゃんは私の頬に片手で触れる、そして私に顔を近づけて────唇同士が触れ合う。
近づいたことで前髪同士が触れ、さっきお姉ちゃんが飲んでいた紅茶の香り……(茶葉とかはよくわかんない) がまず鼻に抜けて、そして湿り気と熱。
お姉ちゃんに私の精気がさっきよりも多く流れている感覚と、なんだか身体がむずむずするこそばゆい感覚と”気持ちいい”という感覚たち。
「はいっ…………おしまい!」
「…………わかったわ」
私の方から口を離すと名残惜しそうにお姉ちゃんも身体を戻す……その表情卑怯だよ!
でもまだ私の精気供給手段を試せていない・確立出来ていない以上この貯蓄で数日は過ごせる用意がする必要があって。
だから毎日キスはどうなんだろう? 今のほんの十数秒ぐらいならいいのかな? でもやっぱり心許ない気持ちはあって。
「(一応純愛神に相談した上で、次の覚醒状態の時に”夢魔”としてやってみようかな)」
精気の枯渇かまたは私が…………その、ムラっとしたタイミング。
その基準がよく分かんないんだけどね!
つまりはとりあえずはしばらく人間として過ごせるっぽいけど、主従的にお姉ちゃんとの日課は続けて様子をみることになった。
……そういえば私がお姉ちゃんの精気を吸い尽くしたという深夜の出来事、その間の私はどうなっていたのだろう?
そうして私は数日後、夢を見ることになる。
それはとある友人との夢で、そして私はその夢の中で────花になっていた。
<カクヨムでも連載中>
姉妹百合良き。
次の編に進む前に姉視点の回想が数話続きます。




