第18話 気持ち……いい?
「ねえユリ」「今、付き合ってる子はいる?」「好きな子とかはいない?」
「お姉ちゃんは……ダメ?」
「ユリにとって私は家族としか見れない? ダメ、かしら…………」
「愛しているわ、ユリ。私の妹になったその日からずっと」
………………。
ど、どういう状況だこれはーーーーー!?
就寝タイムに入ろうとしたらお姉ちゃんが一緒に寝ようと言ってきて、懐かし味から頷いたら──こうなった!
私の現在の交際状況・好意を抱いている人物の有無の質問、そして…………もう誤解の余地なしな愛の告白!
え、まって? 私お姉ちゃんに面と向かって愛してるって言われたの? それも多分これはライクじゃなくてラブで、家族愛的じゃなくて恋愛対象のラブであって!
私にとってはお姉ちゃんの今回の行動はすべてが唐突で、いきなりで、不意打ちで。
何かしらの伏線・布石・フラグ……前日譚・前置き・前フリがあったのかどうか! あったかなぁ!?
確かにお姉ちゃんは私と妹のアヤメ以外とは明確な線引きがあったとは思う、多分可愛がってくれたし愛してくれていたとも思う。
だけどまさか恋愛対象だとは思わないじゃん! それなら私じゃなくてアヤメはどうなるの……? 両方好き的な、選べない的な…………スズラン×アヤメは見たい気がします。
……じゃなかった! 思い出せ、私! そして既にこれは思い出しているけど────これ夢で見た内容ほぼそのままだよね!?
”いかがわしい夢”という輪郭しか残ってなかったのに、いざそのシーンに入ろうとした時にフラッシュバックですよ!
正夢……? それとも”異能”的なものが関わってる……?
…………。
でもこの状況でそう考えを巡らせているのは一種の現実逃避をしてるのかもしれなくて。
私としてはお姉ちゃんのことは好きだけど恋愛対象として見れな……見れは……最近私もお姉ちゃん相手にドキっとしてたなぁ!?
でもですね、でもですよ? 私ごときがお姉ちゃんと吊り合うかどうかって話なわけでして。
家族だから姉妹だから許せてたことも、恋人関係なら一気に許容出来なかったり・冷めちゃうなんてことあるかもしれないわけでして。
正直お姉ちゃんに嫌われるのだけは絶対にいやだ。
だから私としてはお姉ちゃんへの、お姉ちゃんの愛の告白への返答が思いつかない。
でも拒絶したいわけじゃない、でも受け入れることが出来るかというと今の私にはハードルが高くて。
だから私としては何かを言おうと、口を開きかけては閉じるを繰り返して、結局お姉ちゃんの告白のあとは沈黙が続いて。
「困らせてるわ……ね」
「えっと……」
それは間違いないけど、でも……でも……。
「お姉ちゃんの……ユリは私のことは嫌い?」
「好きだよ」
ノータイムで返す、でもその好きの種類はたぶんお姉ちゃんとは違って。
でも絶対にお姉ちゃんを嫌いとは私は言えない、言いたくないし、言うような状況になるなら私は──
「……ならよかった」
「でも、私はお姉ちゃんとは──」
愛し合えない? 付き合えない? 結婚出来ない?
そんなことはないはずなのに、この世界でも……私の気持ちとしても。
「ごめんなさい、ユリを困らせることはわかっていたの」
「…………」
否定できなかった、そしてそれをお姉ちゃんは予測出来ていたという。
じゃあ、なんで──
「抑えきれなかった。ずっと隠し通すつもりだった、でもあなたの顔を見たら声に出してしまったの」
「……っ」
私を困らせていることにお姉ちゃんは困って、そして辛そうにしている。
そんな……そんなお姉ちゃんの顔、私は見たくないんだけどなぁ……それを私のせいでなんて、絶対に嫌だったんだけどなぁ……。
お姉ちゃんを悲しませてしまうような私の考え方、そんなことに私はそこまで固執する必要があるものなのかな……?
嫌われたくないのも、失望されたくないのも、私の自衛手段でしかなかった。
私を守る為にお姉ちゃんを傷つける────ありえない、ありえないよそれは、ありえちゃあっちゃいけないことだよ。
そして薄々思い当っている、最近のお姉ちゃんの変化とお姉ちゃんが行動を起こした理由についても。
私のせいだ、私のこの”サキュバスハーフ”の異能がお姉ちゃんに影響を与えているんだ。
それなら私はどうする? 体質のせいだと、私は悪くないと言い切れるのかな。
────責任は取らないといけない、だからお姉ちゃんに”それを”聞くことにした。
「……お姉ちゃんは私とどうなりたい?」
ある意味無機質で、感情が載っていなくて、事務的すら感じるその質問……本当ならそこは私の方から察する必要があるはずで。
でも私にはそれが分からないから、お姉ちゃんの本心を聞くことでしか知ることが出来ないから、卑怯にもそう聞くことしか出来なかった。
「…………」
沈黙、葛藤かもしれないし私のそのあんまりな質問に言葉がないのかもしれない。
無言の時間が怖い、お姉ちゃんとの無言の時間は本当なら心地いいものだったはずなのに…………私が怖いんだから、お姉ちゃんもさっきのその時間が怖いのに違いなかったのに。
そうしてお姉ちゃんの答えが返ってくる────
「…………特には?」
…………えっ。
お姉ちゃんは私に愛の告白をしたけど、その先は…………特に考えてない!?
「えっと私のことがお姉ちゃんは…………好き、なんだよね」
正直誰相手だろうと絶対にしたくなかったこの質問!
でも確認作業だから仕方ない、これで全てが間違いだったら一生のトラウマと一生の笑い話にして……!
「好きよ、愛してるわ」
「それは……姉として? それとも恋愛対象として?」
「…………どちらも?」
どっちもかー。
「恋人関係とか結婚相手とかでではない……的な?」
「それもいいわね」
あっ、これ墓穴掘ったパターンですか?
ってことは私が聞かなかったら愛の告白をして終わりで、姉妹関係が続いた可能性がある? うそだー。
「それとも何がしたいとかは……」
「そうね……一緒に学校に行きたいのと、一緒にご飯を食べたいのと、一緒にお風呂に入りたい、一緒に寝たいとかはあるわね?」
け、健全だったーーーーー!?
それ姉妹でも出来るやつ! そういうことね、なるほどね! ちょっと自意識過剰だったというか、私の脳みそがピンクだっただけなわけですね!
なんだか安心したなぁ!
「ならこれまで通り──」
「子供は二人は欲しいわ」
じゃなかった! 結婚願望というか、そういう願望はあったーーーーー!
「お姉ちゃんそういうのは、特殊な例を除けばごにょごにょしないと出来ないわけでして……」
「それも興味あるわ」
あるんだ!? あれ、お姉ちゃんのそういう面見れてショッキングではあるけど新しい一面見れて嬉しかったり……複雑!
そうして私はついに、というか……更に、というか……案の定口を滑らせてしまうわけで。
「キスとかは!? 頬とかは昔は良くお互いにやったよね!」
「それもいいけど、唇同士も興味あるわ」
あるんだーーーーー!?
「私のことをその……性的にも見ていると?」
「…………否定は出来ないわね」
そ、そうなんだ……私、性的に見られてるんだ。
まぁサキュバスハーフ種で異能が覚醒しているからそういうこともあるのかな……?
「ねえ、ユリ」
「な、なんでしょう」
「キスをしましょう」
「な、なんですと!?」
これ刺激しちゃったやつ!?
「大好きなユリとの行為全てに興味あるのよ」
「え、わぁ……はい」
”大好きなユリ”というワードがズガンとくる。
なにこれ、破壊力すごいな!
「キス、ダメかしら」
ダメ……ダメな要素あるんだっけ?
親と小さい子同士とかならまぁあることだし? 姉妹も家族だし、実質同じみたいなものかもしれないし?
いやでも、寝る前に歯磨きはしたけど……不十分かもしれないし、ちゃんとやってるつもりだけどね? でも唇を重ねる前提でマウスケアなんてしていないわけで──
「ユリは私とのキスは無理かしら……?」
「無理じゃないよ」
お姉ちゃんを否定できない! ただでさえ答えられる要望の少ない私にとって、出来ることなら答えたい!
そして一方で冷静な私が居て、まだ家族の延長線上だからセーフだと、キスならまだ言い訳出来ると考える私が居て──
なら、いいかな……?
「ええと……じゃあ……するわ」
「……はい」
私を押し倒した状態のお姉ちゃんは覚悟を決めた表情のあと、しだれた髪をかきあげるようにしてお姉ちゃんのいい顔が良く見えるようになり……接近してくる。
近いしなんかいい匂いするし息遣いが分かるし、想像以上になんかなんかなんか……ドキドキするんだけど!?
いやでもこれは家族のスキンシップ、たぶん私の”催淫”にあてられただけで、本音は漏れたかもしれないけどキス衝動とかは多分私のせい……私のせい……。
ついばむような感じでチュっとして終わるはず、それがいい! それでも私の幸福ゲージが加算されるだろうし良いと咄嗟に目をぎゅっと瞑る────
「ん……」
「ん!?」
なに、これ。
熱い。
柔らかい。
湿っぽい。
気持ち……いい?
舌の先に私のものじゃない水分……きっとそれは唾液で、お姉ちゃんのもので。
だんだんと唇の重なりが密接になっていって、最初から繋がっていたような、二人で一つだったようなお互いの微妙な違う体温がならされていくような。
お姉ちゃんのシャンプーの香り、ほんの僅かな歯磨き粉の残り香のような、あとはしょっぱいようなとろっとしているようなよくわからない!
何秒経った? 何分経った? 正直体感では何時間も経ってますが!?
これっていつまで続ければ……続いてもいいんだっけ……?
思考が朧げになってきて、ちゃんと呼吸出来ていないこと気づいて、私が酸素を求める言い訳にお姉ちゃんから逃げるように口を離した。
「ぷ……はっ……はぁはぁ……」
「…………」
危うく死ぬことはありえないにしても酸欠で意識を飛ばすところだった。
すーはーすーはーと深く呼吸、心臓もバクバクしてるし、汗もかいてる気がする。
……キスって危険なものなの!?
「お姉ちゃん……?」
この世界におけるルールに準じた脳内ナノマシンの挙動は正確で、私が不同意ならばキスする直前に相手が”ピリッ”としていたわけで。
そう、私が口を離したのも酸素補給ゆえにで──この行為自体を嫌がってはいない。
そして自分以外に意識を向ける余裕が出て目の前のお姉ちゃんを見据える────
「…………」
そこにはまだ目が据わったお姉ちゃんがいる。
むしろ目はさらにとろんとしてるし、顔全体は真っ赤だし、全体的な艶めかしさは増してるし。
そう、続き──
「むぐっ…………」
再びのキス、交わす度時間がかかる度濃厚になっていく気がする。
思考能力が低下していき、未知の快感とも呼べるものに占められていって──
あ、これ…………ダメなやつ。
そこで私は意識を失った。




