第6話ー⑤
ぐちゃぐちゃになった感情が、校門を飛び出した縄手を追い越していく。
声にならず繰り返す久米の名は、体中を反射しながら駆け巡り、感情の速度を上げて行く。
気付けば橿原神宮前駅を目指していた。
徒歩二十分の距離が、それ以上に遥か遠くに感じたことはなかった。
交通量も徐々に増え始める。
駅に向かっているものの、どうすればいいのか。
あがった息を整えながら速度を少し落とし、縄手は考えた。
その時、突然―――――
ドスン!!!
お互いに吹っ飛び、地面に転がる体。
「痛っったぃーなぁ‼」
怒号が上がる。
久米へ繋がる道筋を思案しようと、視線を空へと向けた瞬間の出来事だった。
自分の不注意で体当たりしてしまった縄手は慌てて立ち上がり、アスファルトに転がっている影に急いで駆け寄った。
「本当にすいません!怪我はありませんでしょうか?」
気遣うように両手を差し出しながら、頭を深く下げ謝罪をする。
「お前‼気ぃつけろやボケが‼殺すぞ‼」
痛そうに目をつぶりながら叫ぶ。
「本当に申し訳ありません‼」
ドスの効いた言い回しにビビりながら、更に低く頭を下げる。
ーーー「あれ?縄手やんか。」
上半身を起こしながらその影が言った言葉に、縄手は顔を上げた。
「ん??葛本!」
息が上がったまま驚き顔でこちらを見る姿に何かを感じ取った葛本は、いたずらっぽくニヤつき、
「なんで、そんなに急いでるんすか?」
と笑った。
「いや・・別に何もない・・・悪かった葛本、怪我してないか?」
差し出した縄手の手を掴み、片手で足に付いた砂を払い立ち上がる途中
「ふーん。行ったんや。」
縄手に表情が見えないように俯き、葛本はニヤリと呟いたが、縄手は聞き逃さなかった。
「どういうことやねん!」
「久米やろ。」
ニヤついたまま視線を合わせる。
「お前‼何を知ってるねん‼」
掴まれた手を引っ張り返し、縄手は体を近づけて睨んだ。
「こりゃホンモンやな。キモッ」
一度視線を横に外した葛本は
「そう慌てんなって、縄手先生よ。」
「知ってることを全部言え!お前!まさか、また久米に何かしたんか!」
激しく突っかかる縄手に
「そんなに久米の事が心配なんや。」
口元を歪ませニヤつく。
瞬間、殴りつけたい衝動を抑え、縄手は葛本の胸ぐらを鷲掴みにしてしまった。
「お前いい加減にせえや‼大体謹慎中やろーが‼」
目をむき、顔をギリギリまで近づけ怒鳴る。
縄手の灼熱の息と唾を浴びせられた葛本は、顔を最大限にしかめ
「わーった、わーったって。言うから、とりあえずこの手を離せよ、せ・ん・せ・い。」
両手のひらを、降参と見せた。
グイっと上げられた体が地面につき、手が離れる。
シャツの襟を直し、大きく溜息を吐いた葛本は
「はぁ・・・・・チィッ。」
「・・・・・・・あいつのおやじに会いに行ったんやって。」
舌打ちと共に小さくつぶやいた。
驚いた縄手は眉を寄せ
「は?久米のお父さん、生きてるのか!」
「だから、言っとるやんか!おかまと駆け落ちしたって!」
「お前なぁーーー‼」
拳を振り上げる。
「しゃーないやろ。口悪い家系やねん。」
その拳に一歩後ずさりしながら言い訳をした。
「じゃあ、久米はまた不幸なことをしようとしてるわけやないんやな。」
自殺の二文字がどうしても離れなかった縄手は、少し安心感が生まれ、大きく溜息をついた。
緊張がほぐれた表情をした縄手に、葛本は東の方角へ顔を向け告げる。
「あいつは今頃、花の都大東京の新宿や。」
そんな縄手を安堵などさせまいと、言葉が襲う。
「え?あいつ一人で、新宿へ・・・?」
唖然となり頭に両手を置く。
「まあ新宿は怖い所やから、愛しの久米くんに何かあったら知らんでぇー。」
からかうように葛本は笑う。
「お前‼」と一喝する。
しかし、
「よし、わかった‼」
と気合を入れ直すように、大きく息を吐いた縄手は
「葛本!ありがとう‼」
「お前謹慎中やねんから、早よ家帰れや!」
少し頭を下げ感謝を示しながら、葛本に一言を残し、駅へと勢いよく走り出した。
そんな後ろ姿を見送り
「なんや、この青春ホモドラマは。おとろしすぎやで。」
両肩を抱き、葛本は身震いをした。
「今、葛本から聞きました!久米は新宿にいるそうです。」
走りながら学校に連絡を入れる。
「なんで葛本がって・・・・それはわからないですが、どうやらお父さんに会いに行ったようです。」
腕時計を確認する。
「生きているようです。」
「今から俺が向かいます‼」
すれ違う歩行者を横跳びで避ける。
「いや!俺が何とかします!久米を見つけます!」
「無事に連れ帰って来ます‼」
点滅する信号を突っ切る。
「絶対何とかします‼」
「見つけたら連絡しますので!では!」
スマホを切った縄手は、一気に駅の階段を駆け下りた。
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