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詩詠み騎士の夢想曲《トロイメライ》  作者: 小日向 ななつ
第1章 夢へと駆ける序曲《ウヴェルテュール》
22/34

22、あなたのために私は祈る

◆◆◆◆◆


 楽しい笑い声が溢れている。星が満天の空の下、少年は出会いを果たしたその日のこと。


 王城の中庭。本来ならば入ることを許されない場所。そこに一人の老婆と少女が楽しげに何かを話している姿があった。見た目からして二人は血縁関係があるように思えない。しかし、少女の話を聞く老婆の姿は孫を愛でているような優しい目をしていた。


 小さな少女。自分と同じぐらいの少女。

 少年はそんな二人に思わず声をかけた。


「誰?」


 楽しげに話していた少女は、警戒心を出して老婆の背中へ隠れる。だが老婆は、もう一度優しい目をして少年に声をかけた。


「王様の紹介だね。なるほど、これは優しい色をした魂をしてるねぇ」


 老婆の言葉を少年は理解できなかった。そういえば昔から星を見る魔女が王城にいる、という話を聞いたことがある。もしかしたらこのおばあちゃんはその魔女かも、と少年は考えた。


 しかし、魔女にしては優しそうな雰囲気がある。よくおとぎ話で聞く魔女はもっと恐ろしい人物のはずだが、老婆はそんな風に見えなかった。


「怖がらなくていいよ。この子はあなたの遊び相手。お父様が選んでくれた子だよ」

「お父様が? でも……」

「大丈夫。バアバも一緒に遊ぶから。それなら安心だろ?」


 老婆がそう問いかけると、少女は「うん」と渋々返事をした。

 それから少年は老婆を交えて少女と遊んだ。単純にかけっこしたり、笛や弦楽器を使って音楽を奏でたりした。


 楽しい時間を過ごす中、少女が少年に心を開いていく。いつしか二人は親しく話し笑い合う仲になっていた。

 ある日、いつものように王城へ遊びにいくと少女しかいなかった。話によると老婆は遠い場所に行ってしまい、いつ帰ってくるかわからないと告げられる。


 そうなんだ、と少年は単純に感じた。しかし説明してくれた少女の目はどこか悲しそうな色に染まっている。


「ねぇ、詩を詠んでくれないかな?」


 唐突に、少女はお願いごとをしてきた。少年はいつものことだと思い、そのお願いごとを聞く。

 ただ楽しげに、少女達と遊んだ日々を詩にして詠む。またいつか、三人で遊びたいな、と思いつつ詠んでいくと突然少女は涙を溢した。


「どうしたの?」

「なんでもない」


 少女は不機嫌そうな声で返事をした。突然のことに少年は戸惑う。少女はというとただ泣くだけで、それ以上の反応はしなかった。

 本当にどうしたんだ、と少年は考える。とにかく泣き止んでもらわなきゃ、と思い仕方なく秘密のまじないを唱えた。


『星は美しい。一つ一つ小さな輝きだけど、宝石のように美しい。君の笑顔はその一つだ。だから、笑って』


 いつの間にか少年の手には羽ペンがあった。その羽ペンを使い、黄金に輝く文字を空間に書き記していく。

 それを見た少女は泣くことをやめ、代わりに驚いた。それは才ある者にしか使えない魔術。少年はそれを少女の目の前で扱っていた。


「魔術が、使えるの?」

「中途半端だけどね。バアバのようにはいかないよ」


 少年は気恥ずかしそうに笑う。少女はそんな笑みを見て、クスクスと笑い始めた。

 確かにバアバの魔術と違い、力を感じない。だが、黄金に輝く文字はこの闇に染まった世界ではとても美しかった。


 だから少女は決める。一生懸命に励まそうとしてくれる少年のために、祈りを捧げると。


「ねぇ、クロノくん。あなたの詩を歌にしていいかな?」


 それはどんな意味があるのか、少年は知らない。だから簡単に承諾した。


「うん、いいよ」


 それから少年は詩を作り、少女はその詩を歌にして歌った。

 輝く黄金文字は少女を照らす星となり、その隣にいる少年にも微笑んだ。どんどん星が生まれていくその光景は、まさに幻想的で美しかった。


 それは楽しい夜だった。

 少年にとっても、少女にとっても忘れられない夜だった。


◆◆◆◆◆


 暗くなった空。目を覚ましたクロノは、あちこち痛む身体に顔を歪めながら起き上がった。

 なんだか夢で懐かしい思い出を見ていた気がするが、よく思い出せなかった。


「グルルル」


 妙な声が耳に入ってきた。振り返るとそこには青いドラゴンがクロノ達を見下ろしている。

 だが、その目は優しさで染まっており、敵意はない。だからクロノは驚くことなく優しく笑い返した。


「守ってくれたんだね。ありがとう」


 何気に隣に目を向けると、気絶しているヴァンの姿があった。傷らしい傷はないが、妙な黒いモヤが身体を包んでいる。

 クロノはたぶんヤバい状態、と感じつつ彼にかかった異常を治す方法はないかと探し始める。


 ふと、目に石碑が入ってくる。それは不思議なことに黄金の輝きを放っており、クロノは思わず惹かれてしまった。


「これは――」


 運命とは残酷である。だが、それは真実を示し未来へ繋げる道標だ。

 だからこそクロノは知る。


「なんで、フィリスと王女様の名前があるんだ?」


 真実へ繋がり、伝説によって縛られた二人のことを。



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