34話 2人ぼっち
久しぶりのまともな戦闘シーン…。
深淵の樹海に入って10日目。
カインとメルトは最深部にたどり着き、神樹の守護獣レイバトリオに遭遇した。
そして、メルトの試練が始まっていた…。
「…叩き潰す…。」
メルトがレイバトリオに向けて2つのメイスを同時に振り下ろす。
だが、力はあるものの速度はそれ程出てない為、完全に見切られて回避される。
バァァンッ!!バァァンッ!!
叩き付けた場所の地面が抉れていく。だが、レイバトリオに当たらないので意味が無い。
「メイスという事はユセルの娘ですか…。
力はありますが、その程度では私に一撃を入れる事は不可能ですよ。」
「まだまだこれから…。」
レイバトリオの言葉を聞いてギアを一段階上げるメルト。
さっきよりも速くメイスを叩き付けていく。
バァァンッ!!バァァンッ!!バァァンッ!!バァァンッ!!
怒涛の連撃をメイスで繰り出し続けるが、全てをレイバトリオは躱していく。
それでも、メルトは連続攻撃を続ける。
バァァンッ!!バァァンッ!!バァァンッ!!バァァンッ!!バァァンッ!!
「ただの攻撃では、いつまで経っても当たりませんよ。私の回避より速い攻撃をするか、範囲の広い攻撃に切り替えないと無駄打ちです。」
メルトの攻撃を避けながら、余裕の顔でアドバイスをするレイバトリオ。やはり、かなりの実力差があるようだ。
「それなら…[地嵐双撃波]…。」
風の闘技を発動させたメルト。風の闘気を纏わせた2つのメイスを地面に叩き付けた。
すると、叩き付けた地面から衝撃波が発生して地面を抉らせながらレイバトリオに向かって行く。
ゴォォォォオオッ!!!!
ゴォォォォオオッ!!!!
物凄い轟音とともに、急速にレイバトリオに迫る。
2つの衝撃波は広範囲で発生している為、今度は躱せない攻撃だったが…。
「中々の攻撃ですが…[ホーリーバリア]。」
レイバトリオは、無詠唱で光系統の防御魔法を発動させた。眩い光が、レイバトリオの半径3mでドーム状に形成されていく。
そして、メルトの闘技がそのバリアに直撃した。
ドォォォォンッ!!!!
ドォォォォンッ!!!!
当たった直後、物凄い音が2回聞こえる。土埃を発生させて視界が悪くなる。
その様子を見ていたメルトは更に追撃を仕掛けた。レイバトリオがいた地点に走り寄っていき、その手前で上に飛んだ。
そして、レイバトリオがバリアを貼っていた上空まで来ると闘技を発生させる。
「[双嵐豪衝破]…。」
風の闘気を2つのメイスに纏わせてそのまま叩き付ける。そして、視界が悪くてよく見えないが、何かに直撃した。
ドォォォォンッ!!!!
ドォォォォンッ!!!!
再び風の衝撃波が発生して、辺りの土埃を吹き飛ばした。
そして視界が良くなり、そこには…。
「追撃も見事ですが、まだまだ合格点はあげられませんね。」
平然とした顔で立っているレイバトリオがいた。バリアでメルトの攻撃を受け止めたようだ。
先程レイバトリオが発動させた[ホーリーバリア]は、何事も無かったかのように存在していた。2つの闘技を受けても、バリアの光の輝きは衰えていない。
「……全く効いてない…。」
メルトは攻撃した反動を使って、レイバトリオから距離をとった。そして、自分の攻撃が全く通用しない事に思わず呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それを離れた所で見ていたカインは……。
(あれはを光系統の最上級防御魔法の[ホーリーバリア]か…。
流した魔力だけ硬度と光が強化される魔法の筈だ。レイバトリオは相当魔力量が多いな。さっきのバリアは俺の闘技でも受け止めるほど魔力が、無詠唱で一瞬の内に込められていた。
このままの状態では、メルは一撃も与える事は出来ないだろう。だが、レイバトリオは多分魔法師タイプの筈だ。俺から見れば回避はそれ程速くはない。どちらかと言えば、一瞬であのレベルの魔法を使える事が脅威と言える。
一撃さえ与えれば合格点という事は、近接戦闘の苦手な魔法師の一瞬の隙を付くしかない。
だとすれば……。)
カインは、レイバトリオに一撃を与える為にはどうすれば良いのかを理解していた。しかし、今回は試練なので口は挟まないつもりである。
(メル、頑張って乗り越えるんだ…。)
メルトを見守りながら、心の中でエールを送るのであった…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
メルトは、闘技を繰り出しながらレイバトリオに果敢に攻めていくが、全く攻撃が当たらない。かれこれ30分以上同じ状態が続いている。
表情は変わらないが、メルトの顔には汗が滲み出てきている。
その様子を見たレイバトリオは……。
「……別にエレメントを顕現させても良いのですよ。いまのままでは、私に一撃を与える事さえ出来ないでしょう。」
「お母さんも…エレメントを顕現させないで試練を乗り越えたと言っていた…。
私も…顕現させるつもりはない…。」
エレメントを顕現しても良いと言ってきたレイバトリオに対して、顕現させるつもりはないと答えるメルト。しかし、息は少し上がってきている。
確かにエレメントを顕現させれば、今よりも身体能力が遥かに上昇して戦いやすくなるだろう。
しかし、ユセルがエレメント無しで乗り越えた試練をメルトも同じように乗り越えたいと思っていた。
そもそも、メルトにはユセルと同じようする事に、こだわる理由がある…。
「どうして、ユセルにこだわるのですか?メイスを使用しているのも同じ理由ですか?」
「……なにを言ってるのか、分からない…。」
「貴方は本来、私と同じ魔法師ですよね?かなりの魔力を貴方の身体から感じます。それも、ミストラルと同じレベルの魔力を持っていますね…。」
「……………………。」
レイバトリオの発言を聞いて、黙ってしまうメルト。
通常のエルフは魔力の高い種族で、魔法師として活躍する事が多い。たまに、剣や弓などを魔法と合わせる者もいるが、基本的には杖を使う。
エルフが身体能力主体でメイスを使うなど、本来ありえないスタイルだ。それは、魔力量は多いが身体能力が低く、闘気量も極端に少ない種族だからである。なので、エルフが闘技を使うなど絶対に無いと言われている。
「ユセルは、エルフなのに魔力量が非常に少なく、昔から異端児扱いされていましたね…。だから、精一杯努力してメイスを扱うただ1人のエルフとなりました。
ですが、貴方の魔力量はエルフの中でも最上位の筈です。なのに、種族的に低い身体能力でわざわざ闘技を使ったり、メイスを振るったりする理由が分かりません。
魔法師になれば、貴方なら簡単に上を目指せる筈です。」
メルトは、エルフの中でも最上位クラスの魔法師になれる素質を持っているのだ。しかし、その才能を無視してまで、メイスを使うのには理由がある…。
「……………お母さん、1人だった…。」
「どういう事ですか?」
突然、呟いたメルトの発言が理解出来ないレイバトリオ。
無表情な顔で、メルトは淡々と語り始めた…。
「お母さんは、1人だった……。
昔は、他のエルフ達に陰口をたたかれていた。エルフなのに、魔法を使えない異端児だと…。
しかも、お母さんは天族ナタリシア家…。代々優秀な魔法師として活躍するのが当たり前な家だった…。
そんなお母さんは両親からも見放され、唯一面倒を見てくれたのはミストラルだけだった…。
だからお母さんは、ナタリシア家の一員として見てもらう為に、必死で頑張っていた。本来なら15歳で入団出来る七星天兵団だったけど、深淵の樹海の試練を乗り越えてないから、ナタリシア家として入団できなかった。
そして、何十年かけて鍛錬をした…。身体能力を鍛え闘技を習得して、ようやく試練を乗り越えた時には40歳を超えていた…。七星天兵団に入団したのも唯一の40代…。
でも、一人前と認められてもお母さんは1人だった……。普通のエルフじゃないとか、そんな奴は1人だけと言われてきた。他のエルフから自分と違うからと言われて、ずっと1人ぼっちだった…。
私がその話を聞いたのは、4歳の時…。
私は考えた…。
お母さんが1人ぼっちだったのは何故か…。
お母さんが異端児と言われたのは何故か…。
どうすれば、お母さんは1人ぼっちじゃなくなるのか……。
考えて考えて…考え抜いて、私が出した答えは…。
私もお母さんと同じ存在になればいい…。
私も闘技を使い、メイスを振るう…。
そうすればお母さんは、エルフでただ1人の存在じゃなくなる…。
私もエルフなのに闘技やメイスを使えば、2人目になる…。
お母さんと私、2人のエルフが同じ存在…。
これで、お母さんは1人ぼっちじゃなくなった…。
だから、私はメイスを振るい続ける。
魔法の才能なんていらない。精一杯頑張って、自分のしたい事をやり遂げる。前例が無いとか関係無い。お母さんが1人目、そして私が2人目…。
これからも、ずっとメイスを振るい続ける。
ユセル・ナタリシアの娘、メルト・ナタリシアとして…。
大好きなお母さんを1人ぼっちにしない為に…。」
メルトは、無表情で淡々と語った。
しかし、目には見えない熱い想いと、耳には聞こえないメルトの思いやりが、とても伝わってくる内容だった。
黙って聞いていたレイバトリオは…。
「……貴方の思いは伝わりました。才能とは関係無く、ただ自分のやりたい事を貫き通すという事ですね…。
では、貴方の思いの強さを戦いでも私に見せてください。」
「……分かった…私の攻撃を届かせる…。」
メルトはレイバトリオに向かって走り出した。先程までと変わらない速度だったが…。
「[飛一嵐破衝]…。」
ビュッ!!!!
突然、右手に持っているメイスを投げ付けた。
風の闘気を纏わせながら投げたメイスは、レイバトリオに向って物凄い速さで一直線に向かって行く。
「っ!!!」
武器を投げるという行為に、レイバトリオは驚きながらも咄嗟に回避していく。そして、かなりの速度で投げられたメイスをギリギリで躱していく。
バァァァァンッ!!!
レイバトリオの横の地面に深く突き刺さるメイス。そして、回避した後でメルトを探すが…。
「なっ!!!」
レイバトリオは再び驚いた。
20mくらい距離があったのに、いつの間にかレイバトリオの2mまでメルトが接近していたのだ。
そして、左手に持っているメイスで闘技を発動させた。
「[一嵐爆撃]…。」
咄嗟にメルトの追撃をギリギリで躱すレイバトリオ。そのまま、外れた闘技は、地面へと向かっていき…。
ドォォォォンッ!!!!
爆音とともに、地面が爆ぜた。爆風が襲いかかりレイバトリオのバランスを崩れる。
「……これで決める…。」
一瞬の隙を付いて攻撃を仕掛けるメルト。
「まだですっ!貴方の速度では…っ!!!」
決めると言ってきたメルトに対して反応したレイバトリオだったが…。
「今までとは違う…。」
メルトは今までより1番速い速度で、レイバトリオに一瞬で詰め寄っていく。
さっきまでのメルトより、2倍以上に速い速度だったのでレイバトリオの反応が遅れた。そして、目の前まで接近を許してしまう。
しかも、メルトは……。
「メイスを持っていないっ!!!」
レイバトリオに詰め寄ったメルトの両手には、何の武器も持っていなかったのだ。
まさかの行動に驚くレイバトリオ。
このまま、素手で攻撃するのかと思っていたが……。
「メイスは、ここにある…。」
レイバトリオのすぐ横にはメイスが突き刺さっていた。このメイスは、さっき右手でレイバトリオに向けて、闘技で投げ付けた物である。
一瞬でレイバトリオの懐に入り、近くに突き刺さっていたメイスを右手で握りしめる。
そして、握る前から右手に溜めていた闘気を使い、直ぐに闘技を発動させた。
「[一嵐豪衝破]…。」
「くっ!!![ミニバリア]っ!!」
ドォォォォンッ!!!!
物凄い衝撃波がレイバトリオに襲いかかる。咄嗟にバリアを発動させたレイバトリオだったが、完全には防ぎ切れなかったみたいだ。
衝撃波によってバリアを消し去り、レイバトリオの身体が吹き飛ばされる。
「これで…どう…。」
メルトの息が上がっているが、レイバトリオを吹き飛ばした方向を見ながら呟いた…。
今までで1番手応えのあった一撃である。
ズサァァァーッ!!!
30mほど吹き飛ばされたレイバトリオだったが、身体のバランスを上手く立て直し、地面に足を出して土を削りながらも静止した。
そして、メルトを見ながら告げる…。
パチパチパチパチッ。
「……合格です。確かに今の一撃は、ちゃんと私に届きましたよ。」
レイバトリオは、拍手をしながらメルトに優しい笑顔を向けている。最後に放った渾身の一撃は、ちゃんとレイバトリオに届いていたようだ。
「……良かった…。」
その言葉を聞いて、安心したメルトは地面にへたり込む。今までの戦いで、相当無理をしたので疲れていたようだ。
「今のが貴方の考えた攻撃ですか…。
重量のあるメイスを投げる事によって、その分身体が軽くなり、今までより速い速度で詰め寄る事が可能になりました。
そしてメイスを投げるという行為に驚いて、咄嗟に躱した私の隙を付き、残った方のメイスで闘技を発動させました。しかし、それも囮の攻撃で私のバランスを崩す為でしたね。
闘技を放つと同時に、もう1つのメイスも手放します。2つのメイスを手放した事により、貴方の身体は本来の軽さを取り戻しました。それにより、今まのでの2倍以上の瞬発力を見せ、一瞬で私の懐へ入ります。
そして、本命は一番初目に投げたメイス。2回目の闘技の発動は、私をこのメイスの場所へと誘導する為の布石でしたね。そのまま誘導された私を、予め右手に溜めていた闘気を使ってメイスを握ると同時に闘技を放った……という訳ですね。」
「全く攻撃の当たらない貴方に一撃を入れる為には、一瞬の隙を付くしかなかった…。」
「お見事です。私の裏をかいて、よく一撃を入れました。
メルト・ナタリシアを深淵の樹海の管理者と認め、神羅石を渡す事にしましょう。」
レイバトリオの手元が光り始める。そして、その手の中には、黄金に光る綺麗な石があった。
その黄金の石をメルトに渡していく。
「これが神羅石…。」
神羅石を受け取ったメルトは感動して泣いて……はいない、いつもの無表情なので喜んでいるのか分からない。
「メルは、相変わらず無表情だな…。」
いつもと変わらないメルトに苦笑するカイン。ずっと試練を見ていたカインだったが、試練が終わるのを確認すると側に寄ってきたのだ。
「お兄ちゃん…私は喜んでいるよ…。」
「メルトは無表情だから分かりにくいのですよ。その顔も何か訳があるのですか?」
カインの発言に、少し不満そうに答えるメルト。そんなメルトに対して、レイバトリオが質問をした。メイスの件と同じく、なにか理由があるのかと思ったのだが……。
「………無表情だと強くなれる…。」
「メル、それは無いと思うぞ……。
もしかして、誰かに教わったのか?」
「これも、私が考えた…。」
「よし、帰ったらお兄ちゃんが色々と勉強を教えてあげよう。ソフィと一緒に頑張ろうな。」
カインは、作った笑みでメルトに勉強を教えると言ってきた。メルトがソフィアと同じ匂いがしたので、色々と勉強させる事を決めのだ。特に、常識とか常識とか常識とか……。
ちなみに、もう1人のアルディオは勉強をさせると絶対に寝てしまうので完全に諦めた。
天族や皇族には常識を教えない風習でもあるのだろうか……。
「……始祖様、少しよろしいですか?」
様子を窺いながら、カインに話しかけるレイバトリオ。まだ、始祖だと思っているらしい。
「俺は始祖じゃない。どこにでも居るただの凡人だ。」
「貴方様が凡人なら、世界は終わりです。
まだ名前を聞いてなかったので、教えて欲しいのですが…。」
「そういえば、まだ名乗って無かったな。
俺の名前は……………。」
レイバトリオに名乗るのを忘れていたので、改めて自己紹介しようとしたカイン。だが、途中でいきなり黙り込んでしまった……。
「……どうかしたのですか?」
そんなカインを不思議に思ったレイバトリオが話しかける。
しかし、次の瞬間…。
ゾワァァァァァッ!!!
「「っ!!!!!」」
物凄い死のオーラを感じて、戦慄が3人の身体を突き抜けた。この感覚は絶対的な死を彷彿とさせるものだ。
カイン以外の2人が驚いている中、カインは呟いた……。
「久しぶりだな……ナニカ…。」
次回、新型ナニカ現る…。
読んで頂きありがとう御座いました┏○ペコッ
ブクマ登録、感想評価もよろしくお願いします。
誤字脱字などのご指摘ありましたら、お願いします(;•̀ω•́)