エピローグ 今日も雨が降る中で
一年の時が瞬く間に過ぎた。『群狼』ブームも一応の落ち着きを見せてはいた。映画の大ヒットを受けて、テレビドラマ化という流れは、存続していて、『群狼』のブームが落ち着くのは、もう少し後になりそうだ。
篠原紀子は、二年の同棲関係を経て、神崎修一と結婚した。
この結婚式は、静かであり(紀子と修一がそう望んだから)ながら、その望みは打ち砕かれたのである。
それは時の宰相高瀬真由美によってあった。
☆
街の教会で、神崎修一と篠原紀子は結婚式を挙げた。そして、その式が終わろうとした時、教会のドアが開かれ、高瀬真由美が立っていたのだ。
「修一!私の目を盗んで結婚式を終わらせようなんて、そうはいかないわよ」
神崎修一は慌てふためいた。
「真由美、今お前はサミットに出席していたんじゃないのか」
「ふん、今、現代には飛行機もあることを忘れていたようね」
「イタリアの女性首相と友達だから、特別にサミットの後の晩餐会を抜けたのよ。あなた、お転婆真由美を忘れたとは言わせないわよ」
傍らにひそやかに立っていた秘書官と公邸の七十を過ぎた同名の真由美さんが、頭を下げていた。
「ごめんなさい。せっかくの結婚式なのに。高瀬さん。少しは大人になりなさいと十年前から言ってるのに、少しも成長していませんね」
高瀬真由美は首をすくめた。
高瀬真由美は姿勢を正すと、紀子に「神崎紀子」に花束を渡した。
「おめでとう、紀子さん。修一のことよろしく頼むわね」
紀子は泣き笑いの顔でうなずいた。
☆☆
今年は雨が多い。紀子は思った。
暑い夏が過ぎ、季節は秋なのに、涼しさは感じられず、蒸し暑さだけがあった。
修一と紀子は夕食を終えた。雨の日の日曜日だ
椅子が仕舞われ、夕食の洗い物をしようとした時。甲高い泣き声がダイニングに響き渡った。
紀子と修一は、その泣き声に駆け寄る。
二人の間にできた息子だった。
両親の顔を見て安心したのか笑顔になった。そして、二人の大人を抱きしめることができるかのように、腕を思いっきり広げて父と母の顔に触るのだった。
(完)




