第37話 そして……
「うーし、とりあえずこんなもんかな」
大きなクレーターのど真ん中に、聖王国(建設予定地)と書かれた巨大な立て看板を突き刺し、リオンはユナと共に満足げに頷く。
ただその隣でリーリアは不安そうな顔を見せた。
「本当によいのでしょうか?」
「他の国の連中にも伝えてるんだし、別にいいだろ。やっぱ大陸のど真ん中にあった街が急に消えると、どこも辛いんだって。しかもリーリアもユナも、聖王国の正当な後継者。それも魔王を服従させたというおまけつき。誰も文句なんてつけないさ」
「私としては、むしろ住人候補のほうが心配ですが」
頭上から聞こえてきた声。
その主は見るまでもなく分かっていた。
「レイリか、よく来たな」
「……本当によろしいのですか? 魔族が聖王国に住んでも」
それはリオンが提案したことだった。
浮遊島に住む魔族の食事をどう賄うかは、頭の痛い問題だった。
ダルルグは広いが、さすがに規模を考えると全員の移住は難しい。
結果、新しく作る街の住人になってもらおうと考えたのだ。
もちろん人間にも大量に移住してもらう必要はあるが。
「まあ、気にするな。魔族は空を飛べて何かと便利だからな」
「……ああなるほど。作業員としてですか。そういうことであれば、たしかに優秀ですよ。食事の用意さえしていただければ、ですが」
「むう」
リオンは呻いた。
現状は新生聖王国には立て看板しかなく、当然絶望を出せるような人間など住んでいない。
いざとなれば魔法で一気に建物を作れはするが、どういった街づくりをするか、リオンが決めかねていたのだ。
「やっぱ、昔の聖王国を基本的に再現して、部分的に最新の施設を作る感じか」
ぶつぶつとつぶやき、そしてハアとため息。
「ただ、仮で作ったとしても人が住みだすと、取り返しがつかないんだよなあ。当面はダルルグで図面でも作るかね」
対ミャオの戦いが終わり。
世界は結局のところ、落ち着くべきところに落ち着いていた。
ベルは導き手の引退を撤回し、リオンと二人体制でこの星を管理することになった。
彼女は基本的に銀河の書庫にいて、なにか問題が起きればリオンに連絡を取り、エラーが起きている現地に向かって解決を目指すという形だ。
そして魔王の座は――いまだにリオンが保有していた。
譲ろうとした全員に魔王代行であれば受けますと言われてしまったせいだ。
もっともだからこそ三天魔全員に魔王代行の肩書をつけることにしたわけだが。
「あとの気がかりと言えば、ニャオですね」
レイリがぽつりとつぶやく。
「ああ……主従契約は切れたんだったか」
「ええ、今の彼女は使い魔ではなくごく普通の人間です。そのため、浮遊島にいることができませんので、まもなくどこかに下ろそうかと」
「まあ行き場がないのなら、ダルルグの俺の家で預かるさ。もちろん本人次第だけどな」
「伝えておきましょう」
「ああ……うおっ」
強風にあおられ、突き刺したばかりの立て看板が空に舞い上がった。
リオンは苦笑しつつ空を飛び、空中で受け止める。
(この程度の風で外れるとは……予想外な出来事なんていくらでもあるな)
そう。
きっと想像もしないような問題はこれからも起きることだろう。
けれど。
リオンは眼下に目を向けた。
そこにはリーリアもユナもレイリもいて。
そして銀河の書庫にはベルもいる。
心強い味方なんていくらでもいるのだ。
たとえどんな問題が起きたとしても、きっと大丈夫だろう。
リオンは立て看板を再び地面に突き刺すと、さっそく補強に勤しむのだった。




