第七話
都の北門を出てから仙北山麓までは、人の住む集落は存在しない。
以前は村や町が点在していたが、近年水を求める獣に襲われ、人々は強固な結界に守られた【神楽京】の都か、水源に近くまだ生活できる水が残っているという仙北山麓の村へと移り住んだ。
獣に荒らされた道を駆けながら、四人は周囲に警戒の視線を走らせる。
人はもちろん、魔獣の気配も感じられない。だが、警戒を緩めることなく駆け続ける。
不意に、陽向が短く叫んだ。
「何か来る!」
その言葉に三人は戦闘態勢に入り、身を低く屈めてそれぞれの武器を構えた。
ズルリ、と這うような音が響き、右手前方の藪から何かが出てきた。
人間一人など軽く呑み込めそうなほどの、大蛇であった。
「……っ!」
五十鈴は体の前に構えた刀に神通力を込める。薄く白銀に光りだした刀身が夜の闇に浮かび、大蛇の黒々とした目が向けられる。
指先が痺れる。目の前が暗くなる。呼吸が上手くできない……。
「五十鈴、待て!力を入れ過ぎだ!」
異変に気づいた陽向の制止する声と同時に、駿河が大蛇に向かって矢を放った。南家の力が込められた、火矢である。
その火に照らされて、大蛇の姿がはっきりと見えたところへ、楓が呪を唱える。
「風の精霊よ、我が呼びかけに応え、力を貸し給え!
風刃!」
風の刃が駿河の火矢を追って大蛇に向かっていく。
二人は急所である首を狙ったが、僅かに外れた。大蛇の目に怒りが籠もり、こちらへ向けて大口を開けてきた。
「ちっ!外したか!」
「任せて!風刃!!」
再び風の刃を放つ楓。駿河も矢を番え、大蛇から視線を逸らさない。
二人が戦っている間、五十鈴は陽向に体を押さえられていた。
「陽向!離して…っ」
「ダメだ!神通力を一気に刀に込めただろう。お前の体が保たない。大蛇は二人に任せろ」
冷静な陽向の言葉に、それでも五十鈴は戦おうとする。
「五十鈴、落ち着け」
「でも…っ」
楓の放った風刃が大蛇の首をドサリ、と落とし、駿河の火矢がその落とした首に命中して燃え始めた。辺りに首の焼ける匂いが漂う。
「撃退した」
焼かれる首の様子を確認していた駿河が短く告げる。
五十鈴が何もできないまま、戦闘は終わりを迎えた。自身の無力さを表すように、刀身から輝きは消えていた。
唇を噛む五十鈴に、陽向は何も言わなかった。




