第五話
大剣を背に負い、足早に駆ける陽向の後ろを遅れないようについていく五十鈴。
都の人混みを抜け、静まり返った北の通りに差し掛かった頃、眼前にそびえ立つ北門が迫ってきた。
ふと、陽向が足を止める。
「…どうしたの?」
陽向にならって立ち止まりながら、五十鈴が尋ねた。
「誰かいる」
「北門の衛士ではないの?」
「いや、違う」
警戒した声を出し、陽向が五十鈴を背に庇う。民家の陰に隠れ、北門を窺っている。
「視える?」
問われた陽向はその青い瞳に神通力を込めた。
本家に次いで力の強い東家の血を継ぐ陽向。その本質は水の力であり、先を見通す瞳を持っている。竜神に近い力であり、東家が一族の中でも強い立場を持っている所以である。
「あれは…」
北門に見える人影に鋭い視線を向けていた陽向が、体の力を抜く。
「駿河と楓だな」
「南家と西家の?」
「ああ」
五十鈴も肩の力を抜き、ふうと息を吐く。
そんな彼女を背に庇ったまま、陽向がゆっくりと北門に向かって足を進めはじめた。その後を五十鈴も続く。
近づいてくる二人に気づき、北門の側に佇んでいた人影もこちらへと歩んでくる。
「よぉ、二人とも」
声を出したのは黒い髪を短く刈った、赤い瞳の青年だった。南家の駿河である。
陽向より一回り大きいがっしりとした体に、存在感のある長弓を肩にかけて腕を組んでいる。家の色を表す朱色の刺繍が施された、黒い修練着を着込んでいた。
隣に立つ少女は西家の楓。編み込んだ白髪を背中に垂らし、黄色の瞳を細めている。小柄な彼女が駿河と並ぶと、まるで親子ほどの体格の違いがある。腰に二振りの短剣を差し、駿河と同じく黒い修練着に身を包み、薄黄色の羽織を風になびかせていた。
二人とも、陽向と同じく五十鈴に年の近い一族の若者であった。
どちらも、旅支度を済ませた佇まいだ。
「どうして二人がここに?」
五十鈴の問いかけに、二人は顔を見合わせた。
「仙北山に行くんだろう?ついて行こうと思って準備してたら、山頂の異変の報せがあった」
「北に向かうならこの北門から出発すると思って、駿河と待ってたの」
「だから、どうして…」
「五十鈴、問答している暇はない。とにかく都を出よう。二人の話を聞くのはそれからでもいい」
陽向の言葉に、それもそうかと頷く。
「わかった。行こう」
竜神の身に何か異変が起こっているのなら、それを突き止めなければ。
決意を新たに、五十鈴は北門をくぐった。




