第94話 騒々しい新年。
Side:実依
とーしのはーじめの……何て歌っていたらうるさいと言われた実依です。
母さんのお手伝いをしながら、私特製のおせち料理を用意していたら、
「ところで、この肉って何の肉?」
実家へと訪れた夏音姉さんがチラッと顔を出した。
私は鼻歌を歌いつつ問いかけに答えた。
「魔物肉」
「ふぁ?」
このお肉は姉さんと深愛が昨年末、ティルの未確認召喚⦅言わないでぇ!⦆に巻き込まれて、現地で一年間狩りまくった魔物から得た代物である。
それをそのまま腐らせるのは惜しいので、この際だからとおせち料理として提供する事にした私であった。しかもこのお肉。血抜きして直ぐだっていうのに美味いの!
熟成したような風味が既にあって、少し焼いただけで両頬が落ちるかと思ったよ。
「魔物肉をおせちにしたの?」
「それが?」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。味の保証はしてあげるから」
「そ、そう」
見慣れぬ色をした肉だからか、私達の世界を旅してきた夏音姉さんでも引いてしまうか。肉ならピンクか赤色が多いが、目前にある肉は青とか緑とか食欲を減退させる色彩をしていた。焼く前の色合いがそれだから、ドン引きしたのかも?
私は引き気味に離れて行く夏音姉さんの、
「そんなに気になるなら、味見だけでも……」
お口にドーンと揚げた後に冷ました唐揚げを転送してみた。
「うっ! ほ、ほっと! ふゅーに……ん? ほいひい?」
ダイニングにて伊達巻きを詰めていた結依が⦅怖い者知らずだ⦆ってドン引きした表情で私を見ているが、こういう食材は食べてこそだと思うな。
「でしょ? このお肉、下味要らずだったんだよ」
「へぇ〜。見た目的に食べられるのって思ったけど、イケるわね?」
「母さんなんて同じお肉を焼肉にして提供したらビールを十本も空けたしね」
「十本? へぇ〜。珍しい……そんなに飲むなんて」
「それくらい美味しかったって事でしょ」
「ところでこの肉は……何の肉なの?」
「魔物肉だよ」
「いや、種類を教えてほしいのよ」
こればかりは知らない方がいいと思うな。
聞かれたから教えようと思う⦅止めなさい!⦆母さんからストップがかかったよ。
「内緒!」
「内緒?」
「世の中には知らない方がいい事もあるんだよ」
「意味深ね?」
「世の中には知らない方がいい事もあるんだよ」
「二度言ったし」
いつもなら私も教えるけど、母さんから止められたらね。
何て話し合っていると背後から現れた姉さんが、右手をおせちに伸ばして、ひょいぱくと自身の口に放り込んだ。
「うん。美味しい!」
「姉さん! 行儀悪いよ!」
「あの肉はこのように調理してもイケるね。流石はオー」
「言っちゃダメ!?」
「ふぇ? あー、あー……うん。ごめんね」
私が食い気味に止めたから間一髪、聞かれる事はなかった。
「オー? オーから始まる魔物? 実菜は何か知ってるの?」
「さーて、私は残りの唐揚げを作らないとね!」
「私も果菜の成長具合を確認しようっと!」
「逃げたし! 実依、教えなさい!」
「「「思考封鎖!」」」
「こ、この姉妹は……その術も教えなさい!」
教えろと言われて教えると思う?
何はともあれ、おせちの準備は滞りなく終わったのだった。
◇ ◇ ◇
「あけましておめでとう!」
「はい。おめでとう」
本日は珍しく我が家の家族が勢揃いした。
総勢、二十四人の大所帯。七姉妹の末っ子も⦅こんなの聞いてないよぉ!⦆大変ボリューミーなエロ体型となって「言い訳どうしよう」と新年早々、身悶えていたよ。
「果菜も成長したわね。今後はその体型で居た方がいいんじゃない?」
「無茶言わないで! この身長でこの胸は無いって。どう言い訳したらいいのよ」
「そこは成長を促した姉さんに文句を言うことね」
「私だって不可抗力だよ!」
果菜の嘆きはともかく⦅ともかくじゃない!⦆姉妹が珍しく揃って成人組は楽しくお酒を飲んでいた。
「私なんて、いきなりお尻が成長したから、スカートが破けて酷い目に遭ったもの」
「芽依はいいわよ。私なんて手術中に胸がドンよ。注目を浴びてしまったわ」
「芽依も結凪も大変だったのね」
「いやいや。吹有だって危なかったでしょうに」
「そうそう。聞いたわよ? 運転中にシートベルトが食い込んだって」
「そんな事もあったかしら? 記憶に無いわね」
「「お酒飲んで忘れたわね。この子」」
亜衣を筆頭とした七姉妹もワイワイガヤガヤと舌鼓を打っていた。
「これがあのお肉か。本当に美味しいわね」
「でも原材料を知ると反応に困りますけど」
「でも、言うほど強くなかったわよ?」
「そうなの? こちらだと脳筋かってくらい強いけど」
「実菜の一刀で首が飛んだし」
「それは実菜姉さんのレベルが異常だから」
「ですです。実菜姉さんのレベルは異常ですから」
「異常じゃ無いよ! 世界に合わせて制限したし!」
「上限が100だしね。下げないと壊すし」
「100!?」×6
「それは何て言うか、ドSが過ぎるわね」
「ですです」
上限レベルが100か。その中では姉さん達も最強の部類に入るね。
こちらでも強過ぎる部類に入るけど、それなら制限も納得だよ。
「先日もその脳筋女性を危うく殺しかけていましたもんね」
「ああ、リニアの工事でね。あれには参ったよ」
「こちらの脳筋は食えないけどね。食べようとも思わないけど」
「自我の無い魔物と種族の差ですね。でも美味しい」
「別物と思うしかないね。こればかりは」
「脳筋? 強い? 種族? このお肉が?」
「おっと、思考封鎖、思考封鎖」×7
「だから、その術を、私にも、教えなさいよ!」
「まぁまぁ。お母様、落ち着いて!」
危うく夏音姉さんにバレそうになったね。
魔物の同族が眷属の中にも居るから言葉選びが大変だよ。
「くぅ……このお酒、美味しいわね。これも他世界産?」
「そうですね。母から伯母さんへ送られてきたお酒ですけど」
「そうなのね。あー、叔母さんの超絶ドSぷり味わいたいわぁ」
「そ、そうですか? 恐ろしいと思いますけど。私は」
「こらこら、シオンちゃん。貴女、飲み過ぎよ?」
「そうかしら? カナンちゃん。もっと注いで」
「はい、ここまで。悪酔いが過ぎるよ。姉さん」
「そんなぁ!?」
本来の末っ子こと若結達は晴れ着姿で父さんからお年玉を貰っていた。
「今年も学業に励むようにな」
「「「ありがとうございます」」」
ここだけは毎年変わらないよね。
お爺さんではなくお父さんが正しいけれど⦅父さん嬉しい⦆はいはい。
そんな賑やかな食事会の後、
「はーい。お待ちかねのお年玉だよ!」
「お年玉?」×6
姉さんが寛ぐ妹達の前にデデーンと複製神核が収まった神器を置いたのだった。
「実菜ってば。早速、与えるのね」
「いや、母さんから許可得たし。そうでないとこれは持ち出せないもの」
「でも大丈夫なの? いきなりは使えないけど?」
「そこは最初に与えた深愛に期待って事で」
「ああ。深愛だけには先に与えたのね」
あの姉妹の中で使い方を直ぐに覚えたのは深愛だけだよね。
深愛の次に使えるようになるのは由良だと思う。
「私のようになりませんように。特に玲奈」
「わたしぃ!?」
「ああ。座敷童の琥珀化か……あれはウケたわね」
「ええ。思い出すだけでも……ぷぷぷぷっ」
「そこ! 思い出し笑いしないで!」
すると姉さんは騒がしい妹達を一瞥したあと、
「では始めるよ」
各複製神核へと三属性の力を宿した三つの神聖力をあてがった。
「えっ?」×6
直後、六人の身体が神々しく輝き、個々の属性光が身体の周囲に切り替わりながら現れた。与えられた属性力が安定するまでこの状態が続き、しばらく眩しいのよね。
「これが出来るのは姉さんだけよね」
「あとは母さんくらいよね?」
「と、父さんは? 私も使えるのだが?」
「忘れてた。父さんもか」
「父さん、悲しい」
「はいはい」×6
我が家はどういう訳か父さんをおざなりにする傾向があるよね。
これは、それ相応の理由があるから仕方ないのだけど⦅成長記録とか⦆あれね。
兄さんだけは父さんを慰めているけども。
「ウチの女性陣は誰もが強いから仕方ないよ。父さん」
「そ、そうだな」
レベルというか力量で言えば私達よりも男神である二人の方が強いのだけどね。
レベルと大人しい性格は一致しないって事で。
「いいなぁ。母さん? 私には?」
「私も欲しい。そこの飲兵衛は放置で」
「マキナちゃん酷い……頭、痛い」
「痛みは本望でしょ。このドM!」
この母子は。幹菜ちゃんも何気にSだぁ。
お屠蘇をティルから受け取った母さんは端っこで福笑いに興じる、
「そんなに欲しいなら、あの子達を鍛えてあげて」
「「「ビクッ!」」」
若結達を一瞥して若結達に地獄を与えようとしていた。
「鍛えるって?」
「まだ力の制御が出来ないのよ。年齢イコールな新神だから仕方ないけどね」
「という事は、制御が出来たら?」
「使えるようになるわ」
そうだね。あの子達の制御が叶ったら管理世界への認証も通るからね。
今のままでは神器を壊してしまうから認証を通せないだけだし。
「それならゴミ掃除の合間に鍛えましょうか」
「そうですね。お母様?」
「「「お、お手柔らかに」」」
そんなビクビクしなくてもいいのに。
単純に管理世界で魔物を屠るだけだと思うな。
神力だけで屠るから周囲へと驚愕を与える事になるかもだけど。
一方、輝きが収まった妹達はというと。
「あー! やっぱり、やらかしたぁ!」
「流石は玲奈ね」
「見事な琥珀だわ」
「出られないからって神魔体から離脱したし」
『びっくりした! これって、私? 綺麗』
「「「「おいおい」」」」
玲奈だけが固まったが、
「氷が出来た! 直ぐに溶けたぁ」
「亜衣は仕方ない。体温が高いし」
「電圧を弄って……充電、出来たぁ!」
「やっぱり由良が先に覚えるか」
「ミスリルがこんな簡単に?」
「本当にイメージって大事よね」
「若干、自分の属性と被っているから油断しそうになりますが」
「それは仕方ない」
妹達は深愛の教え方が良かったのか最小出力で行使していた。
「稀少金属のドロップ品が沢山用意出来そうです」
「良かったね? 仁菜」
「はい。実依さん!」




