第92話 意外と図太いのよ。
Side:由良
姉さんと実菜姉さんが旧第零で白い乗り物に乗って空を飛んでいる。
「何アレ?」
「ここで戦闘機ときたか……しかも、雷属性の魔導ステルスか。考えたね」
私の隣には代理で訪れた結依さんが居て訳知り顔となっていた。
「戦闘機? でも、あんな機体は見た事が無いですよ?」
「そうか。由良達は知らないよね……」
「どういう事です?」
「深愛は姉さんから知らされたっぽいけど、アレはステルス機なのよ」
「すてるすき? どういう事ですか?」
「この世界では役に立たないけど、レーダーに映らない的な?」
「はい?」
どういう意味なの? 映らない?
「管理神器越しで見たら分かるかも……今は消えているけど」
「管理神器……あ! 居ない!?」
「使用中は神器や魔道具越しだと見えないのね」
「これって危険物ではないですか? また創ったのですか?」
「まぁ、燃料が魔力由来ではないから、奪われたとしても問題は無いと思うよ」
「あ、そうか。神力が燃料だから?」
「それと属性変換が出来る者でないと乗れないのもあるね。今の夏音姉さんや幹菜ちゃんでは絶対に乗れない。ステルス結界に風結の雷属性を使っているからね。そういう意味では深愛も乗れないはず?」
「どういう事です?」
私は結依さんの言っている意味が分からなかった。
すると戦闘機からの通信が入った。
『神託を発したから戦意喪失者の選別して!』
それは姉さんの声音だった。
私は疑問に思った事を姉さんに問いかけた。
「それはいいですけど、今の姉さんって何属性なんですか?」
『え? 属性数? えっと……実菜、答えていい?』
『いいよー。追々だけど由良にも足す予定だし!』
た、足す予定? どういう?
『えっとね。召喚前かしら? 私だけ本拠地に上がって、追加してもらったの』
「「はい?」」
『い、今は十属性あるわよ? そうしないと乗れないって聞いてさ?』
『結依は気づいていると思うけど、最新鋭の魔導ステルスは雷属性の帯電を用いているからね。形状でも妨害しているけど、帯電させて魔力的な探知を完全妨害しているのよ。母さんの世界では絶対に使えないけども!』
「それは使えないって。もしかして複製神核から追加したの?」
『そうだよ〜。これに乗る以上は必要だしね〜』
『あ! ごめん、亜衣達から叱責が飛んでるから! またあとで!』
「それは飛ぶでしょ? 自分だけってなるし」
結依さんの言葉に私も同意だよ。
『夏音姉さん達からも追加しろって要望がきたから私も切るね!』
「姉さんもか。逃げるのは……まぁ、分かるけど」
結依さんの呆れの一言の後、ブツリと通信が途絶えた。
それから数分後、
「あっ。旧第零の大地が消え去った?」
「そういう弾頭まで積んでいたの?」
戦意喪失者が居ないと判明して物理的に滅したらしい。
幸い、以前のような海上の大嵐は起きず、静かな海が北極海に出来上がった。
『今回撃ったのは聖域弾頭だよ』
『嵐は起きないから安心してね』
そしてよく見ると、海域全体に悪意ある者を拒む聖域結界が展開され、何人も侵入が許されない場所へと成り果てた。あくまで悪人だけね。善人は受け入れるようだ。
「二人分の神聖力をぶっ込んだのね。だから聖域と化したか」
「邪神が寄りつかない海域ですか。近づいたら最後」
「消滅確定だね。怪我人が居れば即座に治るようだけど」
「一種の治癒空間でもあると。とんでもないですね」
範囲は浮遊大陸の規模と同程度、超広範囲結界が存在していた。
ゲーム内イベントなど、やらせるものかって意思も感じられた。
『大掃除完了! 帰投するよ!』
帰投するって何処に帰投するの?
『帰ったら由良のおっぱい揉みまくるわよ!』
それは止めて?! 揉むなら自分のおっぱいを揉んでよ!
◇ ◇ ◇
Side:実菜
初飛行は無事成功!
試験飛行自体は父さんの世界の神界で行っていたけどね。
「このまま南下して魔王国へ降りるよ。基地があるのはそこだけだし」
『了解!』
操縦しながら魔族に変装し、違和感を持たれないよう減速した。
「お、おい。何だ、あの機体は?」
「空中で停止してる? あ、降りてきた」
違和感は機体の方にあったよ。
科学的な垂直離着とか無かっ⦅何ですってぇ!⦆この分だと夏音姉さんが魔王国に現れそうだな。早々に離脱しないと。
着陸して機体に近寄らせないよう積層結界で周囲を覆った。
「うがっ」
「な、何だ? 壁?」
「見えない壁があるぞ!」
着陸直後は不用意に触れられると危険だからね。
バチって音が響いてどうにか降りられるまでになった。
エンジンを停止させ、神聖力の聖域結界で全体を覆う。
ガラス面ではない神素結晶のハッチを開いて外に出る。
飛行中は内外から見えるよう投影していたけどね。
「このステルス結界の注意点はこれだよね」
「そうね。利用直後はどうあっても感電死するし」
「放電するまで待って何て言っても、属性持ちが居ないから分からないし」
で、周囲の魔族達はバンバンと積層結界を叩いている。
大剣を持ちだして傷つけたり。剣身が折れるけども。
「何だとぉ?!」
「こ、この壁は何なんだ!」
空間そのものと言えば理解は容易いが、無理だろうな。
すると同じ空間内に由良が転移してきた。
「姉上! おっぱいは揉ませませんからね!?」
「育ったおっぱいを確認するのは姉の務めよ?」
その何とも言えないやりとりを聞いた魔族達は驚愕した。
「「「「姉!?」」」」
由良の容姿は有名だから魔神様が何故って感じだけど。
姉上発言で女神様にも姉が居たのかって感じになった。
「務めって。ちょ、何処に手を!?」
「うーん。柔らかいわね。モチモチだわ」
「はいはい。姉妹百合は上でやろうね。野郎共の視線が由良の巨乳に吸い込まれているから」
「「はっ?!」」
私は二機の機体を〈空間収納〉へと片付け、わちゃわちゃする姉妹を抱き寄せて転移した。積層結界も転移と同時に消したため、突然の消失で転けた魔族達であった。
「「「「わぁ!?」」」」
◇ ◇ ◇
転移先は浮遊大陸側の管理室。
結依が一人で待っているから当然そこに向かうよね。
「ここでなら好きなだけ姉妹百合したらいいよ」
「そうね。由良、おっぱい出して!」
「嫌ですって!?」
「冗談よ」
「冗談!?」
これはどちらかと言えば一年もの間出来なかったスキンシップだと思う。
こちらでは一週間だけど、私達の主観時間は一年が過ぎているからね。
「一年か。それだけの期間、深愛も人恋しい感じだったのかな」
「一年……」
「一年間、一人で寝て、一人で不寝の番だったからね。人恋しいのは当然だよ」
「「おぅ」」
「時々、私も揉ませてあげて……冗談だよ。結依ちゃん、嫉妬しない」
「姉さんの冗談は冗談に聞こえないよ!」
そうかな?⦅でもモチモチだったわよ⦆寝てる隙に揉まれていただけね。
「深愛?」
「ごめんなさい」
「ま、人恋しいから触れただけだし、いっか。姉さんも気にしていないし」
「減るものでも無いしね。逆に大きく育ったけど」
「急成長の理由はそれもある?」
「それは分からないけど」
それなら深愛の胸が育った理由はどうなのってなる。
私は深愛の胸を揉んだ覚えは無いし。
揉んだのはお尻とゴワゴワだけ⦅実菜!?⦆事後報告、ごめん。
「何気に姉妹百合していたのね。この二人?」
「人恋しい故のスキンシップだったのですね」
「「そうかも?」」
私は結依同様、百合だと自覚しているしね⦅同志!⦆姉さん?
それに私達の姉妹は医師の結凪と座敷童以外は百合だと思う。
実依も何だかんだ言って⦅それが?⦆自覚しているもの。
芽依と吹有は否定する側⦅⦅否定してないわよ⦆⦆ではなかったか。
「私の姉妹って」
「そういうものと思っておこう。そもそも同性で子作り出来る時点でお察しだし」
「「「確かに」」」
「気にするだけ損だよ」
それはともかく、私はこの一週間で世界がどれだけ変化したか調査した。
浮遊大陸から地底、地底から地表にかけてね。
「大人転生が、三十億か。結構居るな……」
「先の戦闘で消えた者達が十億くらいだから、残り二十億がまだ潜んでいると」
「今は聖域と化しているけど、超長距離から浮遊して訪れる手段が出来た以上、こちらでも迎撃手段を用意しないと不味いね。先ずは……」
私はそう言いつつ、地底各地に広範囲転移させたミサイルランチャーを稼働した。
「「え?」」
「いきなり使うのね」
「照準はこちらで行って自動追尾で撃破するよ」
「え? え? え? 何をするので?」
「墜落が出来ないなら、海上から撃墜すればいいだけの話だからさ」
そう言いつつ発射指示を出して、衛星軌道上まで全弾転移と自動追尾を行った。
「一時的に通信断になるけど、代替手段は構築しているし、どうにかなるでしょ」
「もしかして弾頭と一緒に飛ばしたのは?」
「最新型の小型通信衛星。魔導ステルス完備のね。撃墜されている方には無いから」
「自動追尾で撃ち落とされて、神素還元されていくと」
「完全に消え去ったら、小型通信衛星に自動で切り替わるよ」
「対処出来ないって言っていたのに」
「いつの間に?」
「「召喚前!」」
「あの時かぁ」
急に案が浮かんだからね。それならイケるかもって用意した。
邪神共は私達の神聖力を忌避したり拒んだりする性質がある。
それもあって深愛にも手伝ってもらったのだ。
ティルが使いものになるなら呼び寄せていたかもだけど。
「ティルは使いものになりそうにないしね。酷だけど」
「そんなこと言ったら闇堕ちしないかな?」
「「闇落ち?」」
「闇落ちって言っても私や由良寄りに落ちる訳ではないよ?」
状況次第ではなるかもだけど、気色悪い人族から忌避しただけだしね。
私は実家の一室に籠もっているであろう従妹を転移で呼び寄せた。
『スースー』
「「「寝てるし」」」
精神的な負荷がかかったから眠る事にしたのだろう。
私はティルの神体に触れ、状態異常が無いか検査した。
「自然回復してる。まぁ私達の属性って超回復するからね」
「それって精神的でも?」
「精神的でも。深愛がその証拠」
「「あー」」
「何よ?」
苦痛を自身の力で癒やすから。




