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ポンコツ女神達の多忙なる日常!〜勇者ではないので、お構いなく〜  作者: 白ゐ眠子
第二章・今度は別の世界を管理するの?

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第32話 子育ては散々だよぉ。

 Side:吹有(フウ)


 母さんに呼び出された私と若結(モユ)達は時間遡行の大扉前で困惑した。


「戻るとしてもいつ頃なのかしら?」

「母さんはお婆さんから聞かされてないの?」

「こちらは十七日。姉さん達が居るのはおそらくだけど一週間前くらいだと思う」

「「え? 一週間前?」」

「そんな前に……どうやって?」


 そういえば時間遡行するとは言っていなかったわね。

 大扉前でどうするべきか悩んでいただけだから。

 これも神の権能ですと言うしかないのだけど簡単に過去へ戻れると分かると何をしでかすか分からないのがこの子達なのよね。


「過去の私達が地下神殿に入っている間なら出くわさないから問題は無いわね」


 丁度、結依(ユイ)の指示でしっちゃかめっちゃかしている頃合いだと思う。

 思い出すだけでも神経をすり減らしてしまうけれど。

 それだけ大変だったのよね、微調整が。

 私が遠い目で時期を指定すると、


「え? それってどういう意味で?」


 風結(フユ)が心配気に問うてきた。


「遭遇すると色々と面倒が起きるのよ」

「バ、バタフライ・エフェクト的な?」

「そんな感じの面倒が私達の身に起きるわ」

「「「おぅ」」」


 これくらいの脅しで使わなくなるなら問題は無いか。

 単に記憶の齟齬が出て大混乱するだけなんだけど……勿論、個人差はあるけどね。

 遡行に慣れている実菜(ミナ)は平然と過去の自分とフォークダンスするし。

 結依(ユイ)は過去の自分とチェスで遊んだりするからね。

 実依(マイ)は時間移動が苦手なのか好んで遡行する事は無いけれど。

 おおよその時期を見計らった私は大扉に触れて中に入る。

 若結(モユ)達も恐る恐る背後から付いてきているわね。

 いざ外に出てみれば変化の無い、過去の神界が現れるけど。


「あれ? 入ったのに出て?」

「「どういうこと?」」

「スマホの時計を見たらいいわ」

「「「ふぇ?」」」

「一週間分だけ遅れているでしょ」

「「「あっ!」」」


 つまりここは過去の世界。

 私達が地下神殿へ入って右往左往している頃合いの神界だ。


(本来なら何人か残る必要があったけど、改善後だから出られるようになったのね)


 この過去では全員が勢揃いしているので気にする必要は無い。

 これが出来なかったら一人だけ置いてけぼりを喰らうだけだ。

 私は三人を連れて母さんの世界に通じる門を通り抜ける。

 そこから先は見慣れた光景よね。


「「実家だぁ!」」

「懐かしの我が家だぁ」


 数ヶ月ぶりの帰省よね。

 家の背後に見慣れない建物が追加されているけれど。

 これはいつもの如く実菜(ミナ)が用意したのかもしれないわ。


「我が家の裏手にアパートが建っているのは見なかった事にしましょうか」

「「「アパート? あっ」」」


 部屋数から察するに妹達の家なのだろう。

 残り一部屋は管理人室のつもりでしょうね。


「ところで誰が管理人なの?」

「おそらく兄さんが管理するかもね」

「兄さんっていうと……伯父さん?」

「三人にとっても兄さんよ?」

「「「あっ、そうだった!」」」


 ついつい忘れがちになるわよね。

 私も母親である前にこの子達の姉だもの。

 騒がしい子守をしつつ家の敷地に入ると、


「こらこら。髪を引っ張らないで!」

「キャキャ!」


 別の意味で騒がしい光景が目前に飛び込んできた。


「そこで漏らさないで! ケーキあげないよ」

「ハーイ!」

「高い高い!」

「ワーワー!」


 とても見覚えのある光景なのに、とんでもない事になっているのだけど?

 私は縁側で佇む父さんへと問いかける。


「ただいま。父さん」

「ああ。戻ったか」

「これは何?」

明日華(アスカ)さんの提案で始めた子育てだ」

「か、母さんの提案? にしては……多くない?」


 数にして九十二人の赤子と幼子。

 それだけ数の子供が庭先で実菜(ミナ)達を相手に翻弄している。

 子育てに慣れているであろう芽依(メイ)結凪(ユナ)も疲れが顔に……。


「より正確に言えば……」

「言えば?」

夏音(カノン)の提案だな」

「は?」


 それは聞き覚えの無い名前。

 父さんは事の経緯をつらつらと語り始める。

 何でも学校設立に際して不都合が生じたらしい。

 その理由が無人島国有化の問題と住民不足によるものだった。

 それを解消するため夏音(カノン)という人物が提案した住民移住計画を母さんの主導で行っているそうだ。


「お前にとっても他人事には出来ないからな」

「えっと、それって?」

「分割体達のやらかしの後始末でもあるから」

「ふぁ?」


 この子供達は私達と統合する別人格の世界へと召喚された異世界人との事だ。

 それも大規模失踪事件の被害者が赤子達と。

 実行犯はお股緩い妹と頭が弾け飛んだ妹だ。

 私達姉妹は追々関わるからと、他人事には出来ないとの言い回しで言いくるめられたらしい。私はあまりの事に混乱してしまった。


「ね、姉さん達は理解しているの?」

「ああ。理解して尻拭い中だ」

「そ、そうなのね」


 すると芽依(メイ)が私に気づき声をかける。


吹有(フウ)! 戻ってきたなら手伝って!」

「え、ええ。分かったわ」


 疲弊しているのか語気が荒いわね。


結依(ユイ)果菜(カナ)が居ないけど、あの子達は何処に居るのやら?)


 そう、思って振り返ると居間で寝ていた。

 それもお疲れ気味なのか頬が痩けていた。

 パンツが丸見えになろうが気にしていない。

 そんな余力すら感じられない有様だった。



 ◇ ◇ ◇



 Side:果菜(カナ)


 多人数の子育ては慣れていない若結(モユ)達も巻き込んで行われた。


「子供は好きだけど、この人数はちょっと」

「分かる。めっちゃきついね。特に男の子」

「女の子は本を与えておけばいいもんね?」


 男の子達は興味本位であれこれとイタズラしてしまうから本当に大変だった。

 私を座敷童と呼んだら拳骨を飛ばしてあげたりしたけども。


「これって何才まで続けるの?」

「何才だっけ? 果菜(カナ)さん」

「小学校に上がる前かな?」

「小学校……幼稚園って事は五才?」

「大体その辺だね」


 この子達もある程度育つと時の首相が動く前の過去へと移動して私達が面倒を見る事になるんだよね。記憶を適当なところで改ざんしたりする必要もあるから。


「当面は無認可の託児所と思えばいいよ」

「あー。私達が保母さんと」

「それなら給与が欲しいですぅ」

「タダ働きは嫌ですもん」

「それならあとで申請してくれたらいいよ」

「「「!!!」」」

「どうかしたの?」

「か、母さんに怒られませんか?」

「うんうん。神の仕事は無償とか言いそう」

「但し、実菜(ミナ)は除く!」

「大丈夫でしょ。これはアルバイトだし」

「そういう扱いと?」


 無償の場合もあるにはあるけど本人の気持ちが萎えたら碌な事にならないからね。

 実菜(ミナ)も父さんの世界で「マンション建てた!」と、気持ちを維持しているし。


(これが私達の尻拭いだとしてもね)


 なお、この子達の戸籍は島で生まれた事として過去に飛んだ結依(ユイ)達が顔を声を筆跡を変え、変装した亜衣(アイ)達を母親に見立てて手続きをしている。

 こちらに亜衣(アイ)達が居ないのは集落の住居を複数拵えているからだ。

 年数が経過しても壊れない不思議な建物が複数建っていそうな気がするけども。



 ◇ ◇ ◇



 Side:結凪(ユナ)


 私はある程度の年数を過去で過ごした。

 時々、未来に戻って仕事を熟したけどね。

 その対応は時間の猶予が無い社会人組だけだが。


「父さんも母さんも気をつけてね」

「ええ。行ってくるわね」

「げ、元気で頑張るんだぞ」

「うん!」


 本日はある意味での別れの日だった。

 私の目前には大きく育った娘が居て海外出張に出る予定の私達を見送っていた。

 私の隣には男性に扮した芽依(メイ)も居る。

 平面族、再びって感じよね?


⦅ちょっと結凪(ユナ)。平面族とか⦆

⦅思考を読まないでよ。本当の事でしょ⦆

⦅男の身体でも中身は女の子よ! 私は⦆

⦅御年ゲフンゲフンの女の子が居るの?⦆

⦅失礼ね。私は母さんよりは若いわよ!⦆


 それを母さんに聞かれると怒られると思う。

 案の定、乗っていた船が母さんの怒りの嵐で沈没して死亡扱いになってしまった。


『こういう死に方ってどうなの?』

『記憶に刻みやすくなったから』

『ああ、結果オーライか』


 神体の状態で娘だった女の子を見れば今にも泣きそうな雰囲気をしていた。


「私。母さんみたいな医師になるから!」


 それでも元々の心根が強いのか涙を拭って遺体相手に宣言していた。

 空の憑依体だけど。


『嬉しいことを言ってくれるわね』

『実の娘が医師を志さないものね』

『そうね。流血が苦手な子だもの』


 憑依体を火葬して骨になるまで静かに見守った私と芽依(メイ)は未来へ戻る。


「「「「疲れたぁ」」」」

「もう懲り懲りね。子育ては」

「何人もの両親を併用するのは混乱するわ」

「最後は記憶がごっちゃだものね」


 先んじて戻っていた妹達も疲弊顔だった。

 実菜(ミナ)達も遅れて戻ってきて、


「兄妹の居る子ならいいけど」

「一人っ子が複数人ってキツいよね」

「うんうん。キツいったらないわ」

「当分は幼子を見たくないね」

「「「分かる」」」


 おおよその段取りが済んだ事に安堵した。

 学校の件は公立高校の分校を設立するまでになっていた。

 私学としなくてよくなった事と実菜(ミナ)達の転校先も必然的に分校に変化したようだ。私達もそこを卒業した記憶が生まれているので、どうにかなったみたい。


「で、ここまでの段取りのお陰で」

「ええ。国有化は消え去ったわね」


 住人の居る地域を優先しなければならないからね。

 母さんも保護動物を庭内で育てる事にしたお陰で見つかる事はなかったらしい。

 あれが見つかったら、どうなっていたか?


「でも、母さんの神罰は別口で起きていると」

「民の声を聞く耳を持たないから、その耳は要らないわねって、奪ったんだっけ?」

「口先だけだから声も思考力も一緒に奪ったそうよ。その場しのぎしか出来ないし災害が起きても我関せずで知らんぷりだもの」

「結果、歴代最高の無能総理が生まれたと」

「傀儡の気質もあるでしょうね。背後に邪神が居たらしいし」

「それなら兄さんの仕事も一段落ね」




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