第31話 多忙なる日常の前日譚。
Side:明日華
いや、参った。
ここで例の件に足枷が出来ていようとは。
実依達が実菜達と家まで戻ってきて報告してきたのだけど、
「国有地化の件がここにきて」
「人族の思惑には困ったものだな」
「まったくよぉ」
これからって時に突っぱねられたという。
それを聞いた私は大いに荒れてしまった。
私有地にずけずけと侵入したと思えば国の土地ですと騒ぎ立て、
「ああ。今思い出すだけでも腹が立ってきた」
私達の戸籍を天秤にかけて返事の前に乗っ取られた。
「怒るのはいいが。天変地異が起きたぞ?」
「それは彼等の自業自得よ。私を怒らせたのだもの」
「それはそうだが……酷い有様だな。これは」
終いには私達に島から出て行けと言ったり。
言った者達は海の藻屑として沈めたけどね。
海の藻屑よりも有用な人型の漁礁群だけど。
それと同時に命じた者に対しても感覚消失の神罰を与えた。
神の土地に不法侵入した親玉を罰したとしても咎める者など居ないから。
「私の世界だから私がルールなのにどうしてこう縛りたがる者達が多いのかしら?」
「人族にとって神など、居ないも同然だからだろう。物質のみに傾倒した結果だな」
「物質主義がこんなオチを招こうとはね……」
これも裏を探れば私の妨害に躍起になる邪神が居た。
なので国内から追い出すよう息子に命じたのよね。
その邪神もいつの間にか戻っていて、またも邪魔を始めているから頭が痛い。
「こうなると何処から手を着けたらいいのやら。何か丁度よい対策はないものか?」
「そんな事より、水害に遭っている者達を助けたらどうだ? 内陸部の集中豪雨が凄い事になっているが?」
「そ、そうね。今はそれしかないか」
過去の思い出しだけで世界がひっくり返る。
怒るまいとしても怒りが溢れてくるのは私の修行が足りない証拠かもね、きっと。
ここまでくるとあの子達にはとやかく言えないかも。
但し、至音は除く!
◇ ◇ ◇
Side:実依
「母さん、大荒れだったね」
「過去を思い出したんでしょ」
「ああ。例の件か」
母さんへの報告後、私は姉さん達と共に裏ある離れへと移動した。
個々の部屋でもいいのだけど妹達の個室がまだ無いんだよね。
急遽増えたようなものだから用意が間に合っていないようだ。
それか例の世界に移る予定だから不要と思われているだけなのかも?
(とはいえ寝泊まり出来る場所は欲しいよね)
許されるなら小さい建物でも建てたいかも。
私は思案しつつも離れの扉を開けて七人を招き入れる。
「焼き芋だらけだけど入っていいよ」
離れの玄関から見えるのは、
「や、山積みの焼き芋……?」
亜衣が硬直するほどの焼き芋の山だった。
(また増えている気がする……)
食欲が旺盛な私でも焼き芋だらけだと飽きるんだけど?
「だ、誰が消費するのよ。これだけの物量?」
「あちらの世界の深愛達みたいだけど? 母さんが頻繁に届けているし」
「わ、私達?」
「なんか肥ってそうね?」
「うん。そんな気がした」
多分、肥る事はないと思う。
即座に生命力へ変換するからね。
精々、お尻が大きく育つくらいかな?
私もこれ以上育つのは勘弁だけど。
百センチのお尻とか椅子を選ぶし。
それはともかく。
「少し準備するから待っててね」
焼き芋を端に寄せた私はテーブルを創り中心に置いた。
姉さんは座布団を結依は茶器と紅茶を用意した。
芽依はコンビニで買ってきた洋菓子をテーブル上に置いた。
「アップルパイなんてあったの?」
「新商品よ。吹有がリンゴを大量に仕入れてきてくれたから出来たの」
「そうなんだ。シナモンの香りがいいね、これ」
「ありがとう。実依のお墨付きを貰えて安心したわ」
一方の結凪と果菜は縁側に座ってひと息入れる。
果菜が取り出した異国の菓子を頬張りながら。
「このお餅いけるわね」
「甘辛いのに食べやすいよね」
「おかずにもなりそうね」
「キムチだけかと思ったけどこれも有りだね」
違った。菓子ではなくお餅だったよ。
海外を飛び回る座敷童が買った品。
私も少し気になって鑑定して味を知った。
(うん。めっちゃ美味しいかも。これ)
話は脱線したが、ここからは妹達の教育と類する対策を考える会議を開くの。
微笑みを浮かべた芽依は小皿にアップルパイを載せ妹達に差し上げる。
「貴女達もどうぞ。気にしないで食べてね」
「「い、いただきます」」
「いただきます……ん!?」
「「美味しい!」」
「甘くて酸味があって」
「香りもいいですね」
会議の前にお食事会になったけど。
「難しい話の前の糖分補給ってことで」
「そういえば朝食がまだだったね?」
「深夜に寝泊まりしてそのままだったから」
「私は早々に引っ張り出されたけどね」
「芽依、ごめんて」
「お陰で兄さんにも会えたけど」
「「「「「「「兄さん!?」」」」」」」
兄さんと聞いて妹達も目が点になったね。
国外に居ると思いきや近くに居たからか。
私達は妹達の反応を放置して芽依と結凪に問いかける。
「そうなんだ。兄さん、元気だった?」
「ええ。顎髭が似合っていたわね」
「それは会ってみたいかも」
「私が出くわさなかった理由はそれかぁ」
「果菜は海外で捜索してたの?」
「うん。合間合間にね」
「私達もいつから会っていないっけ?」
「確か……半年くらいじゃない?」
「ああ、入学式の日以来かぁ」
入学式の日に父さんの代理で参加したっけ。
あの時の兄さんは何処か怯えていたけども。
当日は母さんも仕事があったしね。
何の仕事があったのか知らないけれど。
アップルパイを食べ終えて紅茶を飲み干した私達は本題の会議に入る。
「当面の議題は学校設立の可否ね」
「一世帯しか居ないから出来ないんだっけ?」
「言い訳の一つにはそれがあったわね」
その言い訳の裏には母さんを怒らせるに足る思惑が控えていたけどね。
姉さんは訝しげなまま結凪に問う。
「それなんて過疎った限界集落はどうなのって思うのだけど? 一世帯、子供が一人だけなのに分校を置いている場所もあったりするよ?」
「それは私も言ったけどね。前提条件がそもそも違うと突っぱねられてね」
「前提条件って……国有地の事?」
「うん」
思惑が裏にあると知ったのは果菜が役人の思考を読んだからだ。
「自然を残す条件。森林を伐採すれば刑法で裁かれますよって脅しもあったわ」
それもやんわりとした口調でね。
「神の法で国家元首を裁くって脅し返せば?」
「それが出来たら苦労はないわ」
「神なんて居ないでしょうって返されたしね」
似たような返しをしたら笑われたもんね。
それも女性職員と共に鼻で笑ったからカチンときたよね。
そうなるとやる事は一つでしょ?
「返されたから実依が役人達の毛根だけを消し飛ばしたわ」
「ああ、消し飛ばしたんだ」
「言葉で発して神は居るんだよって示したの」
この島に神の名が付いている理由だしね。
この島は人の住まう土地とは違うんだよ。
「ハラハラと髪が落ちたら気落ちしたけどね」
「役人が神を貶して髪の毛無しになったかぁ」
「「「「「姉さん、寒い」」」」」
「ダジャレなんて言ってないよ!?」
ただまぁ現状はどうあっても覆るものではないよね。
勝手に決まってしまった以上は神であろうがどうにも出来ない。
すると結依が思案気に物申す。
「いっそのこと過去改変したらどうよ?」
「私も考えたけどね。問題になるのは何処から人を集めるか……って事なのよ」
「住民となり得る者達が居ないかぁ」
ここは元々無人島。
より詳しく言えば母さんが新規で拵えた海底火山があった場所。
その火山を死火山に変えて濃霧で覆ってあれこれしてきた孤島。
戦時中のゴタゴタ時は戸籍の手続きをしても受け流されてきたのだけど戦後の戸籍手続きから面倒が降ってきたんだよね。
「それなら私達の憑依体を置くのはどう?」
「それをしたら女ばかりになるけど?」
「あー、性別変換は嫌だしなぁ」
「平面おっぱいな芽依で解決!」
「解決しないわよ!? なんで、私なの?」
「「男勝りだから!」」
「果菜と姉さんは私を怒らせたいわけ?」
「「ごめんなさい!」」
当時の私達も名を変え顔を変えて何度も行き来したから良く覚えている。
私達は惑星誕生の頃から生きているからね。
実年齢と惑星年齢が異なるのは時間干渉に依るものが大きいけれど。
(解決策が見つかりそうにないね。これは)
元々は妹達を学生と成すための話だった。
もう一つの世界へと行き来するには近しい場所に居た方が色々と都合が良かったからだ。
(あちらが立てばこちらが立たぬ、か)
過去改変が叶っても、それを行うに足る人材不足はどうにもならないね。
それこそ男女問わず何処からか降ってきたらいいのだけど。
するとその直後、
「カノちゃんから最良の提案を頂いたわ。貴女達も手伝って!」
母さんが転移で離れの縁側に現れた。
その両手には焼きたての芋が袋一杯あった。
姉さんは焼き芋の袋を受け取りつつ問うた。
「カノちゃん? それって誰の事なの?」
「貴女達のお姉さんよ! 一番上のね!」
「「「は?」」」
「「「あー」」」
私と結依と姉さんはポカーン。
芽依達は覚えがあるのか納得顔だった。
「未来のカノちゃんから受けた提案。是が非でもやるわよ! そうだったわ。吹有達も呼ばなくちゃ」
母さんは意気揚々と離れを出て行く。
残された私達は理解出来ぬまま焼き芋を頬張るだけだった。
(う〜ん。美味しい話には裏がありそうな気がするけど?)




