第27話 面倒な人物が現れた。
急遽、姪っ子の案内する事になった私は彼女を神社の境内に連れ帰り、家に戻って父さんの世界から手伝い役を連れてくる事にした。
一人だと色々と不都合過ぎるものね。
私が連れてきたのは未来の家で横になっていた芽依。
「あれってマジだったの?」
「ええ。大マジだったわ」
芽依も伝言を受け取った時に聞いていたから当然知っている。
「聞けばあちらの世界に呼ばれたらしいわ」
「それって召喚ってこと?」
「そうみたい」
「どうしてこう……界渡りが頻発するのか?」
「こればかりは人の業によるものでしょうね」
彼女達を異世界に呼んだ主は、お股の緩い妹と頭が吹っ飛んだ妹だ。
どちらも本当の意味で幸運値が低すぎるわね。
「姉さんの姉さん……もう、実菜って呼びましょうか」
「それがいいでしょうね。慣れないけど」
「外向きでは呼んでいるし、いいんじゃない?」
「それもそうね」
姉さんの名を呼ぶ事は不慣れと思ったけどそうでも無かったわ。
保護者の立場で何度となく呼んでいた。娘達のクラスメイトだから。
「その姉さんを呼んだのが深愛で」
「姪っ子を呼んだのが玲奈ね」
「そうなると統合前の別人格が行った事だから私からは何とも言えないわね」
「ホントそれ」
母さんも思惑があって確保する予定だったが頭越しに娘達がやってしまった。
例の修学旅行中にね。
「あの事件の裏に妹達の影あり、か」
「無関係とは言い難いのがなんとも」
「「やりきれないわね」」
そう言いつつ時間遡行の大扉を通り抜ける。
そして神社の境内にて姪っ子に手を振った。
「お待たせしたわね」
「あ、これは……どうも」
「気にしなくていいわ」
芽依は姪っ子の姿を見て驚くも冷静さを装いつつ声をかける。
「私は神月芽依ね」
「えっと、マキナです。よろしくお願いします」
母さんの幼き日に似すぎているものね。
まるで生き写しとでもいうような姿だ。
すると姪っ子は何を思ったのか、
「あの。お二人は顔立ちが……違いますね」
私達を交互に見つめて問いかけてきた。
(ああ、今が憑依体に宿った状態だからか)
それと別人格と面識があるような言い方だ。
私と芽依は顔を見合わせたのち彼女を立たせた。
「私達はこちらでの顔があるからね」
「同じ顔立ちだと上の三姉妹だけになるわ」
「そうなんですか?」
「色々と事情があるのよ」
「そうね。事情があるの」
「はぁ?」
上の三人は三つ子として育ってきたからね。
私達の後にこちらに顔を出しただけだけど。
私達は彼女を連れ、歩いて岸壁に向かう。
岸壁には私と芽依のボート。
果菜の水上バイク。
吹有の小型ボート。
あとは母さんの漁船が停泊中だ。
今回は私のボートを使うけど。
「定期船の時間からはかけ離れているから」
「私達が船で案内するわね」
「船!? 大きい」
「そう?」
「母さんの漁船と同じくらいよ?」
漁船で海を行き来する老婆は遠目に見ていて笑えてくるけど。
おっと、焼き芋が頭上から飛んでくるところだったわ、危ない危ない。
すると彼女は何を思ったのかきょとんと問うてきた。
「あの? 転移とかは?」
転移を問われて苦笑した私と芽依。
「一応、出来ない事はないけど」
「あまりお勧めは出来ないわね」
「そうなんですか。面倒ですね」
「「本当にね」」
この世界では魔術や魔法等のオカルトは様々な面倒を招くだけになるからね。
私は船を始動させて沖に出る。
芽依は彼女から何を忘れているのか問いかけていた。
「それで、貴女の忘れ物って?」
「えっと……宿に置いてきた荷物です」
「それって?」
芽依は宿と聞き私に視線を向ける。
「あれよね。おそらく」
それは大規模失踪事件の後始末で所有者不明となった荷物。
親族の居る子の荷物は家に戻したそうだが数名、家族が居なかった。
「倉庫に保管している品々が、そうかもしれないわね」
芽依はそれを思い出しスマホ片手に管理者へと連絡を入れる。
その様子を見ていた彼女はきょとんと問う。
「倉庫? ですか」
「中古販売店に流れた品を母さんの指示で買い集めたのよ。あ、私。四番倉庫の鍵を開けておいてもらえる? 持ち主が現れたから」
芽依は頷きつつも指示を出す。
倉庫の管理者としても不要品が倉庫から減るので大助かりだろう。
きょとんの彼女は操船中の私に問いかける。
「そうなんですか?」
「本来の戸籍で入学していればこんな事にはならなかったけどね。母さんの元に荷物が戻るだけだから」
「ああ、それで」
中古販売店に流れたのかは知らないが、質流れ品と同じ扱いなのだろう。
しばらくすると対岸が見えてきた。
(薄暗い中の操船だから気を張るわね)
対岸に近づきつつ減速した私は心配そうな彼女に対して助言する事にした。
それだけの品をどうやって買い集めたのか気になったのかもしれない。
それこそお金を創ってでも返しそうな気配がしたしね。
貨幣を創る行為は危険だから回避出来て幸いだけど。
「とりあえず、貴女の母親には買い付けたと言い訳したらいいわ」
「え? 何故?」
何故って。
ああ、母親に嘘は吐きたくないのね。
私は腕時計を眺めつつ彼女を諭す。
「短期間にあちこち出向いて片付けるには時間が足りないからよ。忘れ物をすべて拾った貴女はあちらに戻るつもりでしょう?」
「あ、はい」
「それらはあても無しにウロウロして拾える品でもないしね。長命種といえど、いつまでも留まる事は出来ないし」
「それで」
何より母さんが心配して出張ってくる可能性もあるからだ。
可愛い孫が行方不明だとね。
接岸作業を済ませた私は芽依と共に彼女を陸地に引き上げた。
「次は車で芽依の会社の倉庫まで向かいましょうか」
「車!?」
「ただの軽自動車だけど」
船もそうだけど車にも過剰反応したわね。
あちらの世界で何を見てきたのやら?
彼女を助手席に乗せ、私の運転で芽依の会社の倉庫に向かう。
道案内の芽依は会社のトラックに乗っているが。
「なんで芽依さんは大きな車に?」
「ああ、あっちは社用車だからね」
「社用車?」
「これから向かうのは芽依の会社の倉庫だもの。無関係な車が近くに止まるのは防犯上良くないでしょ?」
「ああ、それで」
「それに荷物等もトラックに載せた方がかさばらないし」
「スキルを使わないので?」
「こちらの世界では安易に使えないの」
「あっ」
ようやく気づいたわね。
自身のスキルすら使えない事に。
私達は例外的に使えるけど人目の付く場所では使えないし、使わないのだ。
面倒が降ってくるだけだから。
倉庫に着くと先に降りた芽依がシャッターを開けていく。
倉庫内にある荷物は大小様々な品が所狭しと並べられていた。
彼女の忘れ物の他に寮にあった品々もある。
「あれは寮の?」
「あの学校は法人ごと潰れたからね」
「つぶ、れた?」
「ええ。そうね……応接室に過去の新聞があるけど読む?」
「はい、読みます!」
私は彼女を倉庫脇にある応接室に案内する。
その間の芽依は管理者と共に荷物をトラックへと積んでいく。
それなりの品々だから時間も人手もかかるわね。
(この子は実菜の先輩にあたるのね。年齢的にはこの子の方が幼いけど)
実年齢を問うと本当の意味で姪っ子だった。
それも母さんが腹を痛めて産んだ娘の子。
私達とは出自からして違う姉達。
私は新聞を読み終えて難しい顔をする彼女になんて声をかけたら良いか悩んだ。
(大事に発展したようなものだものね)
当事者として判断に困っているともいう。
私は芽依から終わったとの合図を受けて彼女と共に応接室を出る。
「そろそろ戻りましょうか」
「はい」
すると倉庫奥から見覚えのある人物が顔を出した。
「そこに居るのは……芽依、達かい?」
「「え?」」
私達に声を掛けてきた人物は私の隣に立つ彼女と同じ銀髪碧瞳で精悍な顔立ちの男性だった。顎髭なんて生やして似合い過ぎでしょ。
というか何故、この倉庫に兄さんが?
「ああ、やっぱり芽依と結凪か。久しぶりだね」
「なんで兄さんが?」
「兄さん?」
「なんでって。この倉庫でしばらくお世話になっていたから?」
お世話になっていた?
海外の仕事はいいのかしら?
「常務、お知り合いでしたか?」
「お知り合いっていうか私達の身内よ」
「そうだったのですか!?」
これは何かやらかして雇われていたのかも。
経営者の身内である事を伏せたまま、ね。
すると管理者は大慌てで裏の事務所に戻る。
これは扱いを変えないといけない感じね?
芽依は苦笑しつつ兄さんに問いかける。
「ところで、お仕事は?」
「まだ仕事中だよ。問題のある者がこちらに潜伏していてね。それを追って辿り着いてみれば路銀が尽きてね。たまたま募集をかけていたこの倉庫管理の仕事に飛びついたって訳だ」
ああ、路銀が尽きたと。
それで作業服姿で裏から出てきたと。
「それならそれって言ってくれたらいいのに」
「大事な妹達に迷惑はかけられないだろう?」
「兄さん?」
あ、この子にとっては叔父にあたるか。
「この人、貴女の叔父さんよ」
「叔父……さん?」
「その姿は姉さんの幼い頃に似てるね」
「似てるっていうか娘なんだけど」
「あーそういう。そうなると……」
「え?」
兄さんは何を思ったのか彼女の下腹部めがけて神力糸を飛ばした。
何を意味するのかわからないが、糸が消えた瞬間に彼女の目元が虚ろに変わる。
目の焦点があっていない的な?
兄さんは苦笑しつつ何をしたか呟いた。
「俺と会った記憶を封印したんだよ」
「「封印?」」
何故と思えば姉が恐いと言われた件。
それもとんでもないドSらしい。
母さんの全盛期と同じくらいのドS。
「母さんに聞かれると怒られるけどね」
ともあれ、兄さんとの遭遇は驚いたが肝心の荷物の引き取りを済ませた私達は彼女を連れて島に戻った。兄さんも時々島に戻ると言ってくれたので実菜達にも伝えないと。実菜も会いたがっていたしね。




