第25話 勢揃いで問題勃発。
Side:芽依
〈異世界時間:七月二十三日・午後十八時〉
ついに全員集合! ではなくて!
果菜が吹有達と共に戻ってきた。
何処で出くわしたのか知らないが、無事に対となる妹を見つけ出したらしい。
「無事では無かったけどね」
「「「「「はい?」」」」」
無事では無いと?
でも当人はピンピンしていて、揃った姉妹と抱き合っているのだけど?
「姉さん!」
「あらあら。相変わらずねぇ」
「玲奈ってば、お姉ちゃん子よね。ホントに」
「お股の緩い妹が何か言ってる」
「それは言わないで!? ってなんで知って?」
「ああ、果菜さんから聞いた」
「あっ」
「「「深愛、どんまい」」」
あらら、果菜ってば余計な事だけは教えたのね。
これは姉妹に周知しておく必要があると思ったのかな? 知らんけど。
私は果菜の言っていた無事では無いとの一言を聞き、改めて理由を問うてみた。
「それで無事では無かったって?」
姉さんも結依達も気にしている。
結凪は察した顔をしているけど。
「その、一言で言うと……」
「「「「言うと?」」」」
「身体だけが無事だった」
「「「「は?」」」」
それはどういう状態なのだろうか?
すると吹有が苦笑しつつ私に耳打ちしてくれた。
「ここで言えないのはね。知結の苦手な話だから、なのよ。果菜が配慮するのは、それが理由」
「知結が苦手な話……あ、もしかして……スプラッタ?」
「そうそう」
状態を聞いていく内に知結の居るリビングでは話せないと改めて思った。
それなら結凪も察してしまうだろう。
医者の娘なのに流血沙汰が苦手だから。
「あらら、その状態で即死かぁ」
「なら、当人は無意識に姉の元へ?」
「瞬殺された玲奈が覚えていない事だけが救いだけど」
姉さん達も果菜から詳細を念話で聞いていた。
それなら最初から念話で問えば良かったわね。
但し、あの子達が念話を覚えてしまっていたら……意味は無いけれど。
「ひぃ!」
「「あっ」」
この感じ、教えていたのかしら?
知結が顔面蒼白になって結凪の背後に隠れてしまった。
結凪は別の意味で察してしまい、
「姉さん?」
「私は教えてないよ?」
「じゃあ、結依?」
「私も教えてないって!」
「実依?」
「なんで私達を疑うのよ!?」
行動を共にしていた姉さん達を疑っていた。
目の笑っていない笑顔って恐いわよね。
(教えていないのに覚えるってことは無意識に使ったとしか思えないわね?)
すると妹達の中から怖ず怖ずと手をあげる者が一人だけ居た。
あー、美加が教えたのね。
三人が自分の妹だと知ったから。
「すみませんでした!」
大声の謝罪を受けた結凪。
「はぁ〜」
右手で頭を抱えて溜息を吐く。
母親として娘達に念話の使い方を教える予定が意図せず繰り上がったから。
結凪の気持ちは痛いほど分かる。
けれど必要事として受け流すしかないわね。
ひと悶着後、結凪は美加に対してちょっとした罰を与えた。
「えっと……これって?」
その罰は最新の水着を着せる事だった。
色は黒だけど胸が大きいから目立つわね。
「姉さん達が学校で使う競泳水着よ」
「あー、それを着せて過ごさせると」
「丁度、時期的に着る……かな?」
「着ると言えば着るかも?」
美加の認識が十六年前から止まっているからか、少々恥ずかしそうに見える。
「背中がほぼ見えているわね」
「お尻が大きいから食い込みが」
「何か私達の身体の線がはっきりしてる」
「肥ったら最後、酷い目に遭いそう」
「と、というか……」
「少し恥ずかしいね」
合流した姉妹も真っ赤な顔になったわね。
一方の若結達はきょとんよね。
「こ、これが恥ずかしいなら」
「ビキニなんて着られないね」
「でも、着たら似合うかもね」
復帰したばかりの知結。
美加の容姿に惚れ惚れしていた。
◇ ◇ ◇
Side:結依
〈異世界時間:七月二十三日・午後二十時〉
夕食後、果菜が姉さんに丸投げした事情説明を改めて行い、全員で地中にある地下神殿前まで転移した。それは入室の対象となっているのか不明な若結達も含む。
「おっきい!」
「し、神殿?」
「こんな建築物、見たことない!」
初めて見る三人にとってはそうだろうね。
見慣れている私達とか姉さんはそんなものかって感じだけど。
「やっぱり全員分あるよ」
私は門の前に立ち、十色の水晶球に触れていく。
数は十色。その内、三色は小さかった。
「十属性が必須だったかぁ」
姉さんは困り顔で頭を抱える。
私は魔導書を取り出して調査した。
「ここ、改良している痕跡があるよ」
「なら姉妹が増えてから増やしたのかもね」
「父さん、初期状態のままでいいじゃん!」
実依の叫びは私達全員の叫びだ。
「改良を加えるだけ加えて、余計な箇所を精密にしていったと。弱点を放置するのはどうかと思うけど、こればかりはどうしようもないね」
私は魔導書を閉じたのち由良に手招きして同時に水晶球に触れた。
「闇属性は認証完了っと」
「こ、これだけ?」
「これだけ」
私に呼ばれた由良がきょとんと質問する。
「と、ところで、その、余計な箇所って?」
これは知らないっぽいね。
何処まで知っているか分からないので詳細を伏せながら教えてあげる事にした。
「例えるなら海中の顔とか胸とか?」
姉さんも便乗して苦笑で語る。
「あとは滝壺の裏手とか」
「裏手? あの入口に何が?」
「それはね。ごにょごにょ」
手招きで呼ばれた深愛がきょとんとしているので耳打ちで教えている。
「ひゃあ! そ、それは、その、スケベ!」
「スケベ?」
父さんに対して発する娘の暴言。
おそらく⦅悶えているわね⦆やっぱり。
「水の中にある部分は見せられないよね」
この大陸はまんま母さんの裸婦像だから。
娘としても想像したくないよ。
母さんも⦅想像は止めて⦆ですよね。
女神なら誰だって恥ずかしいもん。
そして二人一組で水晶に触れていく。
最後に三人に触れてもらうと、
「「周囲が光った!」」
「この不可解な音は、なに?」
「単純に結界が開く音だね」
「扉が開く訳ではないけどね」
私達だけが素通り可能な横穴が開いた。
若結達はきょとんのまま。
「あれ? ドワーフ達には見えないの?」
私達は真面目な表情で中へと入っていく。
「神力の光だからね。私達しか分からないよ」
「さて、大陸核はどうなっているのやら?」
「原因究明と調整が叶えばいいけどねぇ」
「「ほんそれ」」
◇ ◇ ◇
Side:実依
〈異世界時間:七月二十四日・午前七時〉
いや、参った。
大陸核のある深部に入って調査した結果。
「すっごい、疲れたぁ〜」
「「お疲れ、結依」」
私達はとんでもない状態を示された。
最初に見た時、大丈夫なのって思ったよ。
それは常に真っ赤な状態で照らし続ける大陸核が、何故か真っ黒に塗りつぶされている状態に変化していたから。魔力残量はほぼゼロね。
魔力変換機能も魂魄循環機能も完全停止。
神素の有無は関係なく危うい状態だった。
「魂魄循環再開、魔力変換再開っと」
「あ、下位精霊達が生まれ始めたね」
「ある意味で消滅していたからね」
「これで不発が減れば万々歳かな」
それを知った結依は大慌てで調査と調整に入った。
由良には補助として入ってもらい全員に指示を出す結依。
姉さんも今回に限って言えば対応要員でしかなかった。
外時間は時間表記で十四日の深夜とあった。
同期はしていないが表記だけは出ていたね。
「お盆の最中に終わったぁ」
「あとは再起動だけ?」
「ただ、こちらの時間の進みが極端に速くなるけどね。あちらが主だし」
「今は休めるだけ休んでおく?」
「それがいいかも」
それでも数分後には十五日になるから期日までに片付けたいと思う私だった。
結依は神聖語での鍵言を発し、
「再起動、完了! あとは同期待ちっと」
大陸核の明滅でもって床へと寝そべった。
私達も疲れたのでそれぞれが床に座っているけどね。
姉さんだけは深愛の股座に入って下腹を枕にしている。
深愛も姉さんを退ける余力が無いのか受け入れていた。
「この同期ってどれだけかかるの?」
「どれだけだっけ? 由良?」
「そうですね。二時間はかかると思います」
二時間かぁ。
「同期完了は八月十六日の深夜零時ね」
そうなると、
「残り一週間になるのはどうしようもないね」
夏季休暇の時間はまだある。
母さんの示した期日までは一週間。
およそ二時間の待機のあと時間の変化が緩やかに変化していった。
「さて、同期完了まであと少し!」
結依は自身が展開した魔力膜を静かに眺めてカウントを始める。
「三、二、一! 完了!」
「結依、お疲れさま」
「ありがとう実依」
「とりあえず肩の荷が下りたわね」
「今後は交代で管理もしなきゃだけどね。姉さん」
「そこは父さんに丸投げで!」
「そうそう。自業自得だしね」
自業自得だって⦅無念⦆おいおい。
「私達が父さんの尻拭いをする必要は無いもの」
姉さんは吹有の言葉に同意を示しつつ周囲が驚く一言を口走る。
「そうそう。私達は私達の世界があるしね?」
「あ、そ、それって?」
「れ、例の世界?」
「?」
ああ、そういえばそれがあったね。
(一体、どんな世界なんだろうね、そこは)
私も少しだけど、楽しみになってきたかも?




