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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第三章 冥王ゼヤビス
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閑話その四 ダークエルフの煩悶

(はあっ……)


 カーブガーズの『我が主』の屋敷の客間で、私はため息を漏らす。


 エンシェント・ドラゴンのカルスケイオス侵攻に敗れ、遥か西の方、かつて魔王様を封印したトゥルタークの住まう塔へと逃れて以来、私の運命は激変した。


 今では魔族の間では魔王の後継者として認められ、人間からも『女王の同盟者』と呼ばれている。

 以前は考えもしなかったカルスケイオスの統治者になったのだ。


(それもすべては我が主のおかげだな)


 改めて思うが、本当にそうなのだ。

 いや、本当は初めて『我が主』に出会った時、私がトゥルタークを亡き者にしようと彼を襲ったときから、すべては始まったのだ。


 その後、魔王様に失態を咎められ、『エターナル・バインド』の魔法で拘束されて城の地下牢に幽閉されていた時、その原因となった小童(こわっぱ)の存在を呪ったこともある。

 だが、そのために私は我が主と戦わずに済んだのだ。


 魔王様さえ滅ぼした我が主の一行にかかれば、私の命はなかっただろう。

 実際にヴァミルダンも、ガラヴィデも、あのドゥーゲルでさえ我が主の前には長く立っていることさえできなかったようだ。


「『半神』か……」


 人間たちが我が主を称して呼ぶその名前に、同意せざるを得ない気がする。


 黒い首枷を残して身体を拘束していた鎖が消え去った時、もしや魔王様がお許しくださったのかと、私の心には一瞬、歓喜が溢れた。

 だが、直後に城の崩壊に巻き込まれ、最早これまでかと観念したその時、私の目の前にあの金のブレスレットが転がり落ちてきた。


 それさえも今は、我が主の配剤ではないかと思えてしまう。

 逆に我が主以外には誰も、そのような奇跡を起こすことはできなかっただろう。


「我が主の描いたシナリオのとおりに物事は進むのだな」


 そう私は我が主に言ったことがあるが、


「いや。シナリオを描くのは俺じゃないし」


 我が主はそう当たり前のように言って、私を戦慄させた。


(我が主はやはり運命を変える力を持っている!)


 私はそう思った。そう、これは運命なのだ。


 魔王様の腹心のひとりとして忠実な僕だった頃、私は魔王様だけがカルスケイオスから人間が支配する地へと魔族を導き、我々を呪われた大地から解放してくださる方だと信じていた。


 だが、我が主は私などが思ってもみなかった方法で魔族を解放してくれた。


 まさかあの『黒い壁』を消滅させ、伝説の存在であったカーブガーズから大河を導いてカルスケイオスを潤し、あの呪われた地を豊かな大地に変えてしまうなど、考えた者さえいないだろう。


 我が主はしきりと私の支配するカルスケイオスについて心配してくださる。

 だが、魔王様の遺された統治機構は優秀だし、下僚たちは私の意を充分に汲みとって統治を進めてくれているから問題はないのだ。


 そもそも私は魔王様の腹心のひとりだったとは言え、その地位は戦場での活躍によるもので、統治の術に長けているわけではない。


(我が主に()いていけば間違いはない。我が主は運命の人だ)


 そう思うと、熱いものが私の胸に湧きあがる。



 だが、そう思っているのは残念ながら私だけではないようだ。


 特にあのエルフは強力なライバルだ。

 常に我が主の側にピッタリと寄り添い、決して離れないのも気に障る。


(何が『わが一族の誇りにかけて、使命を全うする』だ。ただ我が主の側に居たいだけではないか。それに我が主と出会ったのは、私の方が先なのだ)


 彼女が私の前に立ちはだかるのは、これも古くから定められた運命なのかも知れない。


 どうやら彼女は『真の名』を我が主に与えたらしい。

 エルフとしては、まだ若い小娘のくせに破廉恥なことだ。


 これから先、我が主が心変わりをしたら、どうするつもりなのだ。


 だが、あの澄ました顔の裏には、我が主との絆に対するそれだけの自信が存在するのかと思うと、心をかき乱される想いがする。


 やはり彼女を排除するには、人間の女王と組むのが良策だろう。

 魔族と人間が力を合わせてエルフに対抗するのだ。


 あの女王も我が主のことを憎からず想っているのは見え見えだ。

 だが、彼女には制約が多い。


 人間の貴族社会では成り上がり者とされている我が主が、古からの高貴な血筋を誇る王家と婚姻を結ぶことを喜ばぬ者は多いだろう。

 それに、この世界最強の存在である我が主が、王家の持つ権威と結びつくことに戸惑いや恐怖を覚える者も少なくはないはずだ。


 そして、最大の制約は彼女が人間であることだ。


 たとえ一時は我が主を彼女に譲ったとしても、せいぜい五十年も待てば、彼女はいなくなる。

 私はその後、彼女よりもずっと長い時間を我が主と二人きりで過ごすことができるのだ。


 もちろん、そう簡単に譲ってやる気など毛頭ないがな。


(良い同盟者を得たのかもしれないな)


 そう思って、私はほくそ笑む。


 だが、我が主はああ見えて、なぜか潔癖なところもあるのだ。

 自らの望む物を手に入れるためなら、私はこれまで何のためらいを抱くことなく、どのような手段でも使ってきた。


 だが、あまりに卑怯、卑劣な手を使ったことを知られると、我が主の心が離れていくのではないかと、そう思っている。


 時として魔族の私でさえ引くような、いや、言い方が悪いな、畏怖を覚えるような悪辣なセリフを口にすることもある我が主だが、本質的には善良な方なのだ。


 そのギャップもまた、何とも言えぬ我が主の魅力のひとつなのだがな。





「今日もベルティラは客間にいるのか?」


 俺が執事に確認すると、「そのとおりでございます」との答えが返ってきた。


 まあ、部屋は屋敷にはあり余るほどあるし、別に構わないのだが、カルスケイオスの統治は、本当に大丈夫なのだろうか。

 最近はボーっとしていることも多い気がするし、実はああ見えて何か悩みを抱えているのかもしれない。


「いや。まさか魔王バセリスの後継者としてこの世界を統べるべき自分が、カルスケイオスのみの統治者にとどまっていることが不満なのか?」


 俺はそう口に出してしまい、慌てて周りを見回すが、幸い辺りには誰もいなかったようだ。

 最近、カーブガーズの統治で忙しくしているからか、何だか独り言が増えた気がするんだよな。


(まあ、ベルティラは相当強くなったとはいえ、俺に敵わないことは分かっているはずだからな。変な野望は抱かないだろう)


 俺はそう信じているのだが。


 それにベルティラはあんな風だから気づきにくいのだが、結構小柄で、可愛い物や甘い物が好きだし、魔族による世界制覇とかからは一番遠い所にいる存在のように思える。


 悪の化身といった言動は、かなり無理をして演技してるように見えるんだよな。

 なにしろ住まいは『シュガー&シナモン・ハウス』だしな。


 それとベルティラはいい奴だけれど、なぜか間が悪いのか、俺を訪ねる時によくアグナユディテやエディルナと一緒になるので、二人だけで話す機会ってあまりないんだよな。


(本当は闇魔法のことをもっと聞きたいんだけど。でも、魔王も古竜王も滅んで、攻撃系の魔法の必要性が随分と減っているのに、あまり闇魔法ばかりにこだわると、俺の中二病がバレそうだし……)


 もういっそ、闇魔法の研究を俺のライフワークにしてもいい気がするが、それもやっぱり皆に引かれてしまうのだろうか。


 それに、やはりエルフとの相性は最悪なのか、彼女と親しく話しているとアグナユディテの機嫌が悪いような気がする。

 ベルティラには悪いが、いつも側にいてくれるアグナユディテの機嫌を損ねるのは、俺としては遠慮したい。


「『我が主』か……」


 俺はまた口から言葉を出してしまう。

 俺をそんな風に呼んでくれるのはベルティラだけだから、アグナユディテに聞かれたら、彼女のことを考えていたのは一瞬で見破られてしまうだろう。


 でもそう呼んでくれているのは、やっぱりあのバセリスの『エターナル・バインド』の魔法を解いた俺に恩義を感じているからなのだろう。


 本当は俺なんかが彼女の主だなんておこがましいし、きっと一時の気の迷いに違いない。

 一番良いのはアグナユディテとベルティラが仲良くなってくれることなのだが、種族的に難しいのかもしれない。


 俺の気の休まる日々は、まだまだ遠そうだ。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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