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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第八章 新大陸
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第五百六十話 三体目のドラゴン

「もう少し光を強めるか」


 アグナユディテでさえ薄っすらとしか見えていないものが、俺なんかに見えるはずもない。


「そうね。ここは精霊の力がとても弱いから、アマンにお願いするわ」


 俺はてっきり止められるかと思ったのだが、ほかに方法はないらしい。


「じゃあ、いくぞ!」


 俺は皆に断ってから『ライト』の魔法を強めたのだが、


「うわっ!」「眩しいな」


 やはり苦情を寄せられてしまう。


「やっぱりあれね。きらきらと三本、光っているわ」


 それでもアグナユディテが指し示す先に、確かに何か光るものがあるようだった。

 俺は三本だなんて見分けられなかったけど。


「あそこまでどうやって行こう。この水って触れたらまずいんだよな。乾かせないか?」


 空が厚い雲に覆われているから真っ黒に見えるのか、はたまたもともと墨汁みたいに黒いのか定かではないが、この先に広がる湖の水はどう見ても『混沌』の水溜まりと同じもののようだった。


 いや、目の前の湖自体が巨大な水溜まりなのかもしれない。


「さすがにこれは無理だと思う」


 ララティーがミセラーナに尋ねるように話し掛けたが、彼女は言葉もないようだった。


 あの『ライトネス・リヒトゥヴァンデゾン』の魔法でこれを乾かしたとしたら、どのくらいの時間と魔力が必要なのか見当もつかない。


 俺の魔力なら行ける気がしないでもないけど。


「そうなるとやっぱり馬車で行くのか?」


 これまで何度も馬車で空中を行っている俺は、当たり前ってつもりで提案したのだが、


「何を言っているの? 馬車を空に浮かべるなんて、落ちたら終わりじゃない」


 ララティーが非難するような声を出し、続けて、


「ドラゴンなんでしょう? 飛んで行けばいいじゃない」


 なんて自分で何とかしろみたいなことを言ってきた。

 俺たちが乗っている馬車は普段から僅かとはいえ浮かんでいるのだが、やっぱり空中高く浮き上がるのは違うらしい。

 それに、ドラゴンだから飛んで行けってのも、まあそうではある。


 でも彼女、尊敬するアンヴェルに向かってそんな言い方をするのかと思ったのだが、


「私にドラゴンになる力があればこんな時こそ役に立つのに、無念だわ」


 なんて恨めしそうに口にしていたから、彼女なりに思うところがあるようだった。


「ではパーヴィーよ。行くとするか」


「相変わらずだね。僕に命令しないでよね」


 ララティーの言葉にペルティリャの母親とアンヴェルの姿が銀色に輝いたかと思うと、すぐにその姿は巨大なドラゴンのものになった。


「ここは我らの見せ場だな。久しぶりに腕が鳴るぞ」


「ジャーヴィーに言われるとちょっと冷めるね。面白そうだなって思っていたのに」


 俺はひやひやしていたが、それでもパーヴィーは宝珠を捧げる手伝いをしてくれるようだ。

 さすがにパーヴィーだって、この状況を何とかしないとと理解してくれているのだろう……と信じたい。


「で、もう一頭はどこにいるの? まさか私じゃないわよね? 私は無理だから」


 ララティーに問われて、俺は彼女たちに自分がドラゴンを依り代としていることを伝えていなかったことに気がついた。


 それにドラゴンになったこともないこともだ。


「いや。俺はドラゴンを依り代としてるんだけど。ドラゴンの姿にならないとダメなのか?」


 アルプナンディアから俺はドラゴンを依り代としていると伝えられて以来、この世界のジャーヴィーからも異論は出なかったし、それ以上にロードやパーヴィー、別の異世界ではビュラーティカとも会話できたから、俺がドラゴンであることは間違いない。


 でも、俺はドラゴンになんてなったことはないし、漠然とこのままでもいいかって思っていたのだが。


「そのままでもいい気がするけど。やってみる?」


 パーヴィーが気楽な感じで言ってきたが、そう言われるとますますまずい気がする。

 ジャーヴィーは隣で難しい顔をしているし。


「アマンはドラゴンだったの! じゃあ、これまで私がドラゴンになるのを見て笑っていたのね!」


 突然、ララティーが俺に対して怒りを向けた。

 いや、今はそれどころじゃないんだが。


「それに私がドラゴンになれなくなったのも、分かっていて教えずに心の内で笑っていた! なんて人なの? 性格が悪過ぎる!!」


 彼女の剣幕に俺はもう反論の言葉を失っていたが、それでも彼女は続けて『ライトネス・リヒトゥヴァンデゾン』と魔法を発動してくれていたから、俺も慌ててブーストを掛けた。


 この辺は抜かすわけにはいかないからな。締まらないことこの上ないが。


「アマンが性格が悪いのは仕方ないとして、でもこのままではまずい気がするわ。ララティー。あのペンダントを貸してくれない?」


 なおも肩で息をするようにしていたララティーに、アグナユディテがそう話し掛けた。


 俺の性格は仕方ないって……この状況じゃあ仕方ないか。


「でも、あれはドラゴンが依り代になっている人には意味がないんじゃないか?」


 ララティーみたいに人が依り代になっていれば宿ったドラゴンの力を借りることができそうだ。

 でも先ほどのアンヴェルとパーヴィーの関係を見るに、逆の場合は効果がない気がする。


「そんなのやってみないと分からないじゃない! はい、これ。使いなさいよ!」


 若干……というかほとんどキレ気味にララティーは俺にあのペンダントを押しつけてきた。


 あまり気は進まないがほかに選択肢はなさそうだ。

 それにその間にまたミセラーナが光の魔法を唱えてくれたように、議論している時間も惜しいのだ。


「で、ドラゴンに呼び掛けると……。俺はドラゴンの名前を知らないぞ。どうしよう」


 ここで「パーヴィー。パーヴィー。力を貸して」って言っても、目の前にいるパーヴィーに呆れられてしまうだろう。


 でも、俺は自分の依り代になっているドラゴンの名前を知らないのだ。

 エレブレス山の女神も教えてくれなかったしな。


「我が主よ。フラヴィーです!」


「はへ?」


 突然、ベルティラが大きな声を上げ、俺はびっくりして間抜けな声を出してしまった。


「どうしてそんなこと知ってるの?」


 アグナユディテがベルティラを質すが、ベルティラは彼女を一瞥すると、


「これには深い訳があるのです。とにかくフラヴィーがその者の名前。我が主よ。この私を信じてください」


 訴え掛けるような彼女の姿に、俺はその言葉を信じることにした。


 いや、時間もないからってのが正直なところだ。

 あの物事を一発で解決する魔法の言葉の使用条件には、くどくどと説明している時間がないってのもあるようだ。


 それにジャーヴィーは「まさか本当に奴なのか?」なんて言っていたし、パーヴィーも「うわあ。久しぶりだなぁ。わくわくするね」なんて口にしていたから、どうやら心当たりがありそうだ。


「でも、俺が気を失ったらまずくないか?」


 ここまでミセラーナとララティーの魔法に俺がブーストを掛けることで、何とか『混沌』を跳ね除けてここまで来たのだ。

 俺がアンヴェルみたいに気を失ったら、それができなくなってしまう。


「我が主よ。その時は私が皆を部隊の待つ場所までお連れします。残念ですが、もう一度仕切り直しをするしかありますまい」


 ベルティラの真剣な表情に俺も心を決めた。

 いや、ダメだったら再チャレンジするだけだ。


「分かった。ララティー。ペンダントを」


 俺が手を差し出すと彼女は、


「言われるまでもないわって……ライトネス・リヒトゥヴァンデゾン!」


 いきなり呪文を唱えたので、俺も慌ててブーストを掛ける。

 本当に締まらないな。


 それでも彼女からペンダントを受け取ると、俺はさっさと首から下げた。


「アマン。信じてるわ」


 アグナユディテが俺を見つめて言ってくれる。


 心なしか潤んで見える彼女のエメラルドグリーンの瞳に俺の姿が……、


「はい! フラヴィー。フラヴィー。力を貸して!」


 その時、ララティーを中心に皆がそう唱和しだして、俺も慌ててそれに続いた。


 ……………………、


 何も起こらなかった。


「どうしてだ?」「ダメなの?」


 さすがに皆に動揺が走り、アグナユディテはベルティラを、


「ドラゴンの名前は合っているの?」


 なんて問い詰めていた。

 ベルティラは記憶を辿るように上目遣いになり、俺もどうも信用できないなって気がしてきたが、


「間違いありません。我が主の依り代となっているドラゴンはそう簡単には姿を見せないのです。もっと大きな声で呼び掛けないと」


 かなり確信を持った顔を見せたので、俺たちは皆で頷き合った。


「賢者様。もう一度、光の魔法を」


 ミセラーナが遠慮がちに言ってきて、その雰囲気も台無しになった気がしたが。


「じゃあ行くぞ! フラヴィー。フラヴィー。力を貸して!」


 俺はもう叫ぶくらいの勢いで会ったこともないドラゴンに呼び掛けた。


 そしてしばらく間をおいて、不機嫌そうな声が返ってきた。


(うるさいなぁ。身体は貸すから適当にやっておいてよね)


 同時に周囲が銀色に輝き、すっと視線が高くなって、俺は仲間の皆を見下ろしていた。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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