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賢者様はすべてご存じです!  作者: 筒居誠壱
第ニ章 カーブガーズの古竜王
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第四十二話 グリューネヴァルトへ

 (エンシェント)(・ドラゴン)の襲撃。

 俺には思い当たることがあった。


『ドラゴン・クレスタⅡ~古竜王の咆哮~』


「魔王が支配していたカルスケイオスに力の空白が生じたことにより、古竜エンシェント・ドラゴンの住まう峰々、カーブガーズから古竜が攻め込んで来た……」


 二十年以上前、ゲーム雑誌に載った記事には、そんなキャッチコピーが書かれていた。


 だが、そのゲームは俺はプレイしていない。

 別にケチって買わなかった訳ではない。そもそも発売されなかったからだ。


『ドラゴン・クレスタ』は所詮、B級ソフトで、売上本数も低迷した。

 そのため発売前にソフトの制作会社が資金繰りに行き詰まって倒産してしまったのだ。


 社会の厳しさを俺に教えてくれたソフトでもある。


 俺はかなり期待して待っていた。日本一、発売を心待ちにしていたかもしれない。


 β版制作まで行ったとか行かないとか。幻に終わったソフトだ。

 ゲーム雑誌に掲載されたわずかな情報によれば、前作のパロディ、オマージュをたくさん含んでいるとのことだった。



「エンシェント・ドラゴンか。会ったことはないが、話したことはあるぞ」


 トゥルタークはそう言って自慢気な様子だ。

 俺もそれを聞いて、やっぱり我が師はすごい人だと思ってしまう。

 何となく元いた世界で芸能人に会ったことがあるとか言われた時のような感覚だ。


「先生。すごいです。古竜といったいどんなことを話されたのですか」


「せっかちな奴じゃな。まあよい。どうせグリューネヴァルトに行くつもりだったんじゃ。久しぶりにドラゴンとも話して、カルスケイオスに攻め込んだ真意を尋ねてみるか」


 トゥルタークの語った内容は、俺にはすぐに腑に落ちるものではなかった。


「えっ。ドラゴンはエルフの森にいるのですか?」


「いや。そうではないが……。まあよい。行けば分かることじゃ」



「だが、グリューネヴァルトに行くにしても、あの者をどうするのじゃ?」


 そう言ってトゥルタークはベルティラが出ていった扉を見て、忌々し気な顔をする。


「まったく。面倒ごとを背負い込みおって。アスマット。どうする気じゃ?」


「えっ。別に一緒に連れて行けばいいのではないですか」


 俺がそう言うと、トゥルタークの隣に座っていたアグナユディテが目を見開いて長い耳をピンと伸ばし、ふるふると首を横に振っている。


 そうか。さすがにエルフの森にダークエルフを入れるわけにはいかないか。


「グリューネヴァルトに、かの者を連れて行くことなど、できるわけもあるまい。まあよい。そなたが連れて来たんじゃ。どこぞへ預けるなり捨ててくるなりするがよいわ」


 これでは本当にペット扱いだ。いや、ペットなら捨てるのは問題外だから、それ以下か。


 それ以前の問題としてベルティラはかなり弱っていたから、すぐに遠くへ連れ出すのは難しそうだ。当分の間、この塔で養生してもらうべきだと思う。


 彼女自身はそれを善しとはしないかもしれないが、その点はトゥルタークに、


「ベルティラよ。この場にとどまり、次の戦いに備え英気を養うのだ」


 とか命じてもらえば、なんとかなるように思う。

 今度はトゥルタークが嫌がるかもしれないが。


 そうすると必然的に、この塔に残って彼女を世話する要員が必要になるわけで、これはもしかしたら俺がグリューネヴァルトに行けなくなる流れなのかもしれない。


(うーん。困ったな。どこかにダークエルフを預かってくれるところってないのかな)


 もちろんそんな場所があるはずもなく、俺は途方に暮れるのだった。



 だが、解決策は意外なところからやって来た。

 その日の昼過ぎに、なんとエディルナが賢者の塔を訪ねてきたのだ。


 俺がどうしてここへと尋ねると、彼女は少し言いにくそうに、


「いや。王都はなんだか暮らしにくくなってしまってね。冒険者ギルドの前では、よく分からない人たちが大勢で待ち伏せしているし、街中を歩いているだけで人垣ができたこともあるし、それに何とかいう公爵様からの仕官せよとの誘いがひどくて。

 少し静かになるまで王都を離れることにしたんだ。でも、行くあてもないから、とりあえずアマンたちが行くと言っていた、この場所に来てみたんだけれど」


 そう言ってから、彼女はトゥルタークを見ると満面の笑みを浮かべ、


「まさかエリスちゃんまで一緒にいるとは思わなかったよ。久しぶりだなぁ。サーカスは今、この近くの町に来ているのかな?」


 そしてトゥルタークを抱きしめる。


 やめろ、エディルナ。お前が抱きしめているのは、じいさんだ。まあ、俺もおっさんなんだが。

 でも、ここまで気づいていないのは、エディルナってある意味、奇跡的なのでは。


「なんじゃ。離せ! わしはエリスなどではない。大賢者トゥルタークじゃ!」


 トゥルタークはもがいてエディルナから逃れようとするが、悲しいかな小さな女の子の力ではエディルナの腕を引き剥がすことはできそうにない。


「うん。サーカスでは今、お芝居でもしているのかな? もう。そんな可愛らしい大賢者なんていないよ。エリスちゃん!」


 そう言って今度はトゥルタークの頭を撫でる。


「アスマット。なんじゃ、こやつは!」


 頭を撫でるエディルナの手をピシリと払いのけ、トゥルタークは俺にそう言った。


「魔王と戦ったときの仲間の戦士でエディルナです。エディルナ。こちらは俺の魔法の先生の……」


「いやだなあ。アマンまで演技かい」



 その後、エディルナにエリスは魔王バセリスの仮の姿で、俺たちの動向を自ら偵察するためにサーカスの軽業師に身をやつし人の町に現れていたのだと説明して、ようやく目の前にいるエリスの姿をした者はトゥルタークだと納得してもらった。


 かなり時間がかかったし、俺たちが倒したのが本物のエリスだったと知ってエディルナはショックを受けていた。


 彼女は魔王が俺たちの戦意を削ぐために、見知ったエリスの姿をかたどっていただけで、俺たちが倒したのは、いわば「偽エリス」だったと思っていたらしい。


「この偽物め。そう思っていたからこそ、心おきなく戦えた」と言う彼女の言葉に、本物のエリスだと知っていたら、どうなっていたのだろうかと少し背中が寒い気がした。



 賢者の塔にベルティラが現われ、今またエディルナが俺たちを訪ねて来た。


 滅多に起きないことは、連続して起き易いと聞いたことがあるが、さすがにこう都合よく物事が運ぶのには何らかの原因があるだろう。


 新たなゲームのシナリオが動き出しているという原因がだ。



 俺たちはベルティラの世話をエディルナに任せ、エルフの森に向かうことにした。


 エディルナも行きたいと残念がっていたが、俺だって行きたいのだから必死で説得した。次は必ず連れて行くということで、申し訳なかったが今回は留守番をお願いすることができた。


「塔の中の物はなんでも適当に使っていいんだな?」と彼女が言い、とにかく留守番をお願いすることに躍起になっていた俺が間髪を入れずに頷くと、トゥルタークは少し嫌そうな顔をしていた。


 その後、ぞろぞろと全員で俺の寝室へ行き、ベルティラにもエディルナを紹介した。


「これはまた綺麗な人だな。私はエディルナだ。よろしく」


 そう言って右手を差し出したエディルナと、少し迷いを見せながらも、ベルティラは握手を交わした。

 エディルナの横で不機嫌そうに腕を組む「魔王様」に気圧されたからかも知れないが。


 もし、ベルティラが悪意を持ってエディルナと対峙したとしても、今のエディルナならノーガードで歩いて行ってバスタードソードを叩きつければ、決着がついてしまうはずだ。


 それにトゥルタークから「大人しくしているように」と釘を刺してもらったので、おそらく大丈夫だろう。


 トゥルタークは「なんでわしが」とぶつぶつ言っていたが、これで問題はクリアされたので、俺たち三人はすぐに支度をして、グリューネヴァルトに向け旅立った。



 エルフの森へはシヴァースの町から直接向かう街道があるわけではなく、一旦、王都の方へ向かう必要がある。

 片道一週間くらいの道程なのだが、その途中でも俺に違和感を覚えさせることがあった。


 魔物が頻繁に出現するのだ。


 異世界なのだから当たり前と言えば、そうなのだが、少なくともゲームでは魔王を倒した後は世界は平和になり、ランダムエンカウントは起きなくなっていた。


 しかも、これまで王都周辺では見たことのないゴースト系や蝙蝠系なども散見される。

 今の俺たちにとっては障害物にさえならないが、このままだと街道を行く隊商や旅人に被害が出るのも時間の問題だろう。


 トゥルタークも首を捻っていたが、エルフのアグナユディテが一緒にいるからかも知れない、アルプナンディアもそうだったからと、そう自分を納得させていた。


 だが、エンカウントがゼロとそうでないのは大違いだ。世界はゲームのエンディングを越えて別のどこかに向かおうとしている。俺はますます『Ⅱ』への疑念を深めていた。



 襲い来る魔物を文字通り蹴散らしながら、俺たちはエルフの森の入り口に近づいた。

 街道の脇に「この先、キケン!」とか、「進むな! 引き返せ!」と大きくバツ印の書かれた立て看板があり、エルフが森を閉じた影響が感じられる。


 看板があった場所からさらに少し進むと、森の木々が金色に輝いて見える、いかにも怪し気な場所が見えてきた。


 よく見ると木の幹や葉だけでなく、木の葉の降り積もった地面も、木々の間からわずかにのぞく空でさえ、金色にゆらゆらと揺れているように見える。

 幻想的ではあるが、ここに迷い込んだら出られないだろうなという気のする光景だ。


「この先は私から離れないでね。結界の中に迷い込まれると救うのは難しいの」


 アグナユディテがそう言って俺に右手を、トゥルタークに左手を差し出す。

 俺は少し緊張しながら素直に左手で彼女と手を繋いだ。


 だが、トゥルタークは、


「わしは大丈夫じゃ。アルプナンディアが真の名を教えてくれたからの」


 そう言って、さっさと結界の中に足を踏み入れていく。

(あれ。じゃあ俺も大丈夫なのかな?)と思ったが、アグナユディテが「待ちなさい」と言いながらトゥルタークを追って速足で歩きだしたので、そのまま引きずられるようにして結界に入って行った。


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新連載、『アリスの異世界転生録〜幼女として女神からチートな魔法の力を授かり転生した先は女性しかいない完全な世界でした』の投稿を始めました。
本作同様、そちらもお読みいただけたら、嬉しいです。
よろしくお願します。
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