第三十七話 魔王の玉座へ
魔王の城へ入った俺たちは襲い来る魔族を蹴散らし、玉座の間を目指す。
(とうとう、ここまで来た)
城の入り口でアリアも言っていたが、俺もこの城に至るまでにたどって来た道を思えば、胸にこみ上げてくるものがある。
最終的にはデバッグ用の裏コマンドで全員が最大レベルに到達したが、それまでは苦難の連続だったのだ。
あのコマンドを使うことができたのだって、それまでの俺たちの努力が実を結んだからなのだ。
それまでの苦労が認められ、ミセラーナ王女様をはじめ多くの方たちの心を動かしたからこそ、こんな俺が正式に魔王討伐の王命を授かることができたのだ。たぶん。
どのみち俺は主人公の英雄騎士ではない。だから序盤でアンヴェルが王命を授かったときに、あの変な動きを儀式だと言ってパーティーの皆に強要することなんてできやしない。
まだお互いの信頼もそれ程ではない時期だったから到底、俺の言うとおりになんて動いてもらえたとは思えない。
下手をすれば、国王陛下の前で怪しい動きをしてシュタウリンゲン家に恥をかかせようとする危険な男として、パーティーを追放されていたかも知れない。
パーティーを追放された俺がたった一人でシナリオを進め、主人公のアンヴェルたちを見返すなんていうのはラノベならありという気がする。
だが、実際にやってみたら並大抵の苦労ではないだろう。
だからこそ、その手の話は人気があるのかも知れないが。俺も大好きだったし。
城の構造は、やはりゲームと同じようだ。ここまで来て魔王の城だけがゲームと違っていたら、その方が逆に驚きだが。
俺たちは大トンネルと同様、最短ルートを進んでいく。
最後の決戦の場だけあって、魔王の城はかなり複雑な迷宮のような構造なのだが、俺にとっては何度も通いなれた通学路みたいなものだ。
どこの家で犬を飼っているか覚えていたように、どこでどんな敵が待ち構えているかなんて考えるまでもない。
(この先には確か……)
俺が思ったとおり、俺たちが進んだ先は邪神を崇める礼拝堂になっており、数多の悪魔の神官たちが俺たちを待ち構えていた。
「邪神の信徒!」
アリアがそう叫ぶような声を出す。
ゲームではそこまでだとは思わなかったが、この人数はけっこう壮観だなと俺は感じていた。
「気をつけて! 見えているのは、ほとんどが幻覚よ!」
すぐにアグナユディテが気づき、そう言って皆に注意を促す。
彼女の放った矢は正確に悪魔の神官のひとりを射抜く。
だが、リューリットもエディルナもあまりに数が多い幻の敵に翻弄され、初めはやたらと切り付けていたが、今は少し攻めあぐねているようだ。
俺がアリアを見ると、彼女はすでに真剣な表情で呪文を唱え始めていた。
「……邪まなる力を打ち消す、聖なる光よ」
神聖魔法が彼女の頭上に淡い光源を出現させる。そして、
「ホーリー・ライト!」
彼女の言葉に眩い光が辺りを照らし、俺たちの周りに溢れていた悪魔の神官が、搔き消すようにいなくなる。
「今です!」
アリアの言葉にリューリットとエディルナが一気に敵との距離を詰め、邪神の使徒どもは瞬時に倒された。
ここまで来るともう、俺のゲーム知識がどうこう言うより、パーティーの皆の力の方が余程、頼りになるようだ。
お互いにパーティーが今、何を必要としていて、自分が何をすべきか皆が分かっている。
そして相手もそうだということが分かっていて、強い信頼で結ばれている。
だから俺がわざわざ言わなくても、俺が思っていたとおりの戦術で敵を倒すことができるのだ。
俺たちはさらに進み、いよいよ魔王の玉座へと続く最後の通路にたどり着いた。
だが、さすがに後がない魔族どもは、死に物狂いで俺たちの侵入を阻止すべく後方から追いすがってくる。
「本当にしつこいわね。後ろからくる奴らは私がくい止める。皆は先に進んで!」
アグナユディテが矢を放ちながら、そう言うが、俺は三百年前にも同じことが起こっていたのではないかと、そう思った。
おそらくこの通路が、バルトリヒの一行を玉座の間へ行かせまいと後方からしつこく襲ってくる魔族どもを、アルプナンディアがくい止め続けた場所なのだろう。
かなりの長さの通路が真っ直ぐに続いているが、左右の列柱に上手く身を隠すことができれば、相当数の敵がやって来ても対応できそうだ。
もっとも、それは身の軽いエルフのアルプナンディアだったからこそ可能だった芸当だ。
俺だったら、もたもたしているうちに身を隠している場所を特定されて、大火力の闇魔法でも集中されれば、そのうちに持たなくなっただろう。
アンヴェルはアルプナンディアを仲間に加えたのが、バルトリヒに付いた唯一の傷みたいなことを言っていたが、おそらくこの世界ではエルフが仲間にいないとレベル上げもままならない気がする。
そう考えると、人間とエルフが不和になって最も得をするのは実は魔族だ。
たとえアンヴェルのような魔族に対抗しうる英雄候補が現れたとしても、エルフを仲間にしなければ、彼はいつまでたっても低レベルのままだ。
結果として、彼のパーティーは大トンネルを抜くことさえできないし、魔族は少なくともカルスケイオスに籠っていれば安泰で、一方的に人の住まう地を侵食できるのだから。
「ダメだ! アグナユディテも一緒に玉座の間へ進むんだ!」
俺が大きな声でそう言うと、彼女は驚いて俺に目を向けた。
「いや。だってアグナユディテは俺の護衛なんだろう。俺から離れるわけにはいかないんじゃないのか?」
彼女から注がれた鋭い視線に俺はちょっと弱気になって、そう付け加えた。
「そうだけれど。でも、このままじゃ……」
このままでは前回と同じ轍を踏んでしまう。
もう二度とエルフを臆病で卑怯な種族だなんて言わせてはいけない。
アグナユディテは俺たちの中でも飛び切り勇敢で、高潔なのだから。
ちょっと口は悪いし、さすがに聖女のアリアには負けるかも知れないけどな。
「ヴァーマ ヴォヨファーブ バーオヌーゴ キリトゥース」
俺が呪文を唱えると、俺の前に赤く光る魔法陣が現われ、一気にその輝きを増していく。
「ファイア・ウォール!」
そして、俺の言葉で呪文が完成すると、俺たちの前に通路を隙間なく覆う炎の壁が現われ、魔族たちの侵入を防ぐ。
俺は普段、ライトニング系の呪文ばかり唱えているが、本当は結構、炎の魔法も好きなのだ。
ゲームでは、そちらの方を中心に使っていたくらいだからな。
だが、この世界でアグナユディテと行動を共にするようになってから、エルフらしいと言えばそうなのだが、彼女が炎の魔法を好まないことが分かり、あまり使わないようにしていたのだ。
俺が展開した炎の壁に無謀にも突っ込んで来る魔族もいるが、最大レベルの魔法使いが、それなりに魔力を使ったものなのだから温度も尋常じゃないし、壁の厚さもかなりある。
当然、魔族は途中で断末魔の叫びを上げ燃え尽きてしまう。
あまり見たくはない光景だな。
「さあ。行くぞ!」
柄にもなく俺がそう声を掛けると、パーティーの皆は頷いて、通路の奥に向かって駆け出した。
そして、その通路を抜けた先には、この世界では初めて見る、だが俺にとっては懐かしい魔王の玉座の間があった。




