船旅へ向けて
翌日、明後日には船が出発するので、まずは乗船の手続きをしようということになった。
「乗船希望か? 生憎ともうほとんど埋まってるぞ?」
「そうなんですか? これでお願いしたいんですけど……」
私はジョーンズさんから貰った乗船証を見せる。
「こ、これは! ちょっと待っててくだせぇ。すぐに話をしてきますんで!」
受付係の船員はすぐに奥へ行って、責任者を連れてきた。
「あなたたちが乗船証を持っている方ですか? 人数は何名でしょうか?」
「三人なんですけど、従魔がいるんです」
「従魔は大きい種族でしょうか?」
「いいえ。ここにいる小鳥と小さい猫です」
「ならば、一部屋で泊まれるように手配しておきますので、乗船時間になりましたらお越しください」
「ありがとうございます!」
「では、当日をお待ちしております」
「スムーズに乗船手続き出来たね」
「この乗船証のお陰だよ。今度会ったらちゃんと礼を言っときなよ」
「そうですね。先にお手紙を書いておきます」
乗船の手続きも終わったので、後は昨日つかまえた盗賊団だ。衛兵さんの詰所に行って確認しないと。
「こんにちは、ベックスさんいらっしゃいますか?」
「冒険者か、何の用だ?」
「昨日つかまえた盗賊団の件なんですけど……」
「盗賊団……ああ、君たちか。そこまで少ない人数のパーティーだと思わなくてな。隊長! 例のパーティーが来てますよ」
「分かった。少しかかるからちょっと奥に通しておいてくれ」
「すみませんね。奥へどうぞ」
受け付けてくれた衛兵さんに奥の部屋へ通される。
「ちょっと待っててくださいね。お茶出しますから」
「ありがとうございます」
お茶をもらってから数分後、ベックスさんがやってきた。
「いや~、すまんな。ちょうど討伐依頼を出した直後でな。その取り下げや、町の商人たちにもつかまった知らせをしていたら遅くなった」
「いえ、いいですよ。みんなが安心できる方が重要ですから」
「それで報酬の話だったな。依頼するはずだった報酬もあるし、早期解決だからこれぐらいだ」
「えっと、合計で金貨十五枚! 多くないですか?」
「商人からも謝礼を貰っていてな。あいつらもこの件は不安だったからな」
「じゃあ、遠慮なく。そうだ! 宿ありがとな、融通してくれたんだろ?」
「気にするな。俺も助かった」
ジャネットさんが宿の礼を伝え、報酬を貰って私たちは詰所を後にした。
「さて、これからどうする?」
「僕は昨日アスカが言ってたアヒージョってやつを頑張ってみます。宿の人には話してますので」
「アスカは?」
「ん~、折角ですし港町の感じを確認したいですね! それにここって国境にも近いですし」
「ああ、そいつはあるね。今から行く反対側のバーバルは向こうの大陸側だけど、こっちの大陸の国との貿易拠点はここだからね」
「ジャネットさんも行きますか?」
「ああ」
「それじゃあ、ちょっと着替えてきますね。キシャルも連れていきたいですし」
「分かったよ。前で待ってるよ」
私はそそくさと宿に戻って街行きの服へ着替え、キシャルとアルナを連れて外に出る。
「二人ともあんまり動き回らないでね」
《んにゃ~》
《ピィ》
「ジャネットさん、用意出来ました!」
「おっ! 決まってるねぇ。それじゃ行くとするか」
二人で連れだって町を回る。町の北の方が住宅街、南は港があるので一大倉庫街となっている。その間に商店が軒を連ねている。
「交易が盛んなだけあって、色々なお店が在りますね。商人たちが持っていくだけかと思いましたけど」
「だねぇ。結構街にも流れてるみたいだね。おっ! こいつはグリディア様の像だね。でも、ちょっと見覚えあるねぇ」
「どれですか? あっ!?それは……私のですね」
「通りで。おっさん、これいくらだい?」
「こいつか? これは向こうの大陸からの輸入品でな。ちょっと高いぞ」
「なるほどねぇ。他にもないかもうちょっと探してみるよ」
おじさんに提示された価格は私の販売している価格の倍もしていた。まあ、向こうからの運搬費用とかもあるんだろうけど、輸入品扱いだなんて変な気分。
「さて、それじゃ他のもんでも見るかね。あの屋台なんてどうだい?」
「あっ、いいですね。いい匂いです」
「じゃあ、決まりだね」
「いらっしゃい、海の幸を選んで焼いてやるよ。ここにない物があったら新しく焼いてやるよ」
「へ~、色々ありますね。切り身になってて食べやすそう」
「おうよ! 流石に骨が多いのとかもあるから、そこんところは心配すんな」
「んじゃ、あたしはこのピンク色のやつだね」
「私はどれにしようかなぁ~、この白身の魚かな?」
「おっ! お二人さん、目がいいね。どっちも味はたんぱくだからこいつに付けて軽く炙りなよ」
「分かりました!」
私もジャネットさんも漬けダレに浸して、火の近くに持っていき炙る。
「ん~、美味し。熱っ!」
「ほら、アスカ。気を付けなよ」
「すみません。ジャネットさん」
ジャネットさんに口元を拭いてもらって、再びチャレンジする。
「ふ~、ふ~。んっ、美味しい!」
「よかったねぇお嬢ちゃん。もう一つどうだい?」
「いいんですか! でも、そこまで食べちゃったら……」
「そっちのねぇちゃんと半分こしなよ」
「そうですね! じゃあ、もらいます。でも、悪いです。貰っちゃって」
「良いってことよ。じゃあな」
私たちが店を離れると近くの人がお店に並んでいた。
「タイミングよかったですね。あんなに混んでますよ」
「ああ、まあね。そう見えるんだねあんたには」
「?」
「とりあえず次の店だ。魔道具屋にでも行くかい?」
「そうですね。ちょっと覗きたいです」
「じゃあ、行くよ」
道行く人に場所を聞いて魔道具屋に入る。
「置いてる物はと……品揃えが今までのお店と違いますね」
「あんた新規か? お使いかい」
「違います! れっきとした……なんでしょう?」
「魔道具師って言ってなよ。作ってるんだろ?」
「まあ。でも、細工のついでみたいなところもありますし」
「ふん! なら一つ作った物を見せてみな。それに応じたもんを見せてやるよ」
「一つですか……う~ん。これでどうでしょうか?」
私は最近人気の風の盾を取り出す。
「これは最近そこらへんで売られてる奴だな。お嬢ちゃんが作ったのかい?」
「そうです。どうでしょうか?」
「ふむ……出回ってる質の悪いのとは違うようだな。いいだろう、こっちに来な」
お店のちょっと奥に通される。入口からは見えないところで、そこにも魔道具が並んでいた。
「ここには魔道具と魔石が置いてある。気になるのがあったら言ってくれ」
「うわ~、いっぱいですよ。しかも、見たことないやつですね。これなんだろう?」
私は目の前にあったブレスレットを指さす。魔石が最低でも三つは付いている様だ。
「それは失敗作だな。火と水と聖の魔石がついているんだが、どれも専用魔石で三属性も都合よく持っている奴がいないんだよ」
「確かにそうですよね。これってちゃんと使う魔法を選べるんですか?」
「知らん。そんな奴に出会ってないからな。仕入れた時はすごいと思ったが、その後で気付いたんだよ」
「ん~、これは?」
「そのブローチは何だったかな? おおっ! そうだ。指を添えて魔力を込めるとアクアスプラッシュが発動するぞ」
「何でブローチが攻撃魔法なんだい?」
「元々貴族の要望でな。もし、パーティーの最中に襲われた時用に作って欲しいとのことだったんだ」
「で、なんで残ってるのさ?」
「パーティーってのは大体出かけるもんだろ? 出先に攻撃型の魔石を持っていくような人間を相手が信じると思うか?」
「ああ、そういう……そりゃそうだね。で、いくらなんだい?」
「本来は水の汎用魔石ということで金貨十四枚というところだが、これは貴族に売れないから特別に負けてやるぞ?」
「うう~ん。でも、高そうですね。他のおすすめはありませんか?」
「他か……何かあったかな? これはどうだ、フレイムピアースだ。細身の槍だが先端から炎が出るぞ」
「ちょっと重たいですね」
「そうか……杖も持っているようだし、後はこれか?」
「これは頭用の飾りですか?」
「宵闇のサークレットだ。魔力を高め、特定の属性を強めると言われているんだが、ダンジョン産でな。詳細は不明なんだ」
「鑑定結果は?」
「鑑定結果がそれなんだよ。一応、鑑定持ちの奴が調べたんだが、能力の問題なのかダンジョン産が元々鑑定しにくいのかまでは解らん」
「へ~、銀色の髪に黒っぽいのは映えますね~」
「アスカ、気に入ったんだろ? いくらだい」
「ダンジョン産ということで金貨八枚だ。安いように思えるが、特定の属性とあるから無駄になる可能性もある。それもあって売れ残っていてな。場所を取っても仕方ないのが実情だな」
「なら、買います! こういうの欲しかったんですよ。他に魔石はありませんか?」
「魔石ならファモーゼルの魔石がある。風の魔法が使える奴限定になるが、ウィンドウルフよりも高位の力が込められるから使えるなら良い物だぞ」
「いくつありますか?」
「今は三つだな。一つ金貨九枚だ」
「うっ、ちょっと高い……。でも、しょうがないか。二つ買います」
「いいのか? さっきのと合わせると金貨二十六枚だぞ?」
「大丈夫です。ここじゃないといつ次に買えるか分かりませんから。今まで見たことのない魔石なんです」
「確かにちょっと珍しいがな。当てがあるのか?」
「はい! 大切な仲間なんです!」
「……そうか。大事にしなよ」
「分かってます」
「そうそう。折角の上客だ。こいつも持っていくといい」
「これは?」
「こぶし大だがミスリル鋼だ。魔力の通りは銀以上だ。そいつ用の魔道具にでも使ってやってくれ」
「ありがとうございます! 絶対いいのにしますね」
「ああ、もしよかったらうちに流してくれたっていいんだぜ?」
「数が作れるようになったら送りますね」
「おいおい、こういうのは社交辞令だぞ」
「いいえ、きっと送りますから!」
おじさんにそう言って私たちは宿に戻った。
「あんな約束しちまっていいのかい?」
「大丈夫ですよ。この旅は長いんですし、きっとまた魔石も手に入る機会がありますよ」
「アスカがそう言うんならいいか」
「あっ、二人とも帰ってきたんだね。アヒージョだけど、一応完成したから今夜感想聞かせてよ」
「OK! リュートにはお礼に良い物あげちゃうからね」
「えっ!? な、何……」
「秘密だよ~」
「こういうところがなけりゃねぇ」
「何か言いました、ジャネットさん?」
「いいや、なら飯を楽しみにしようかね」
明日はいよいよ初めての船旅だ。楽しみだなぁ~。




