精算、そして次の町へ
「買い付けが終わって帰って来ました」
「よしっ!なら、さっさとギルドに向かうよ。鑑定持ちが帰らないうちにね」
私たちはこの町のギルドに向かう。
「は~い。何のご用かしら?」
「ダンジョンで手に入れたものの鑑定です!」
「じゃあ、引き取りのものはこっち、鑑定はこっちね。ちなみに鑑定品はどこまで潜ったものなの?」
「言う必要があるのかい?」
「ないけど、ここはダンジョンの町のギルドよ。情報提供で鑑定費が安くなるわよ」
「…5階層までだ」
「あら、3人でよく行けたわね。それじゃ引き取りはと…銀貨3枚ね。ま、これぐらいかしらね」
「や、安い…」
「あそこぐらいまではDランクでも行けるし、これぐらいよ。鑑定するのは?」
「この2つだ…いや、ポーションも頼む」
私が採ったリラ草が変化したポーションも鑑定に回すようだ。
「いいんですか?」
「一応ね。今後もどこかのダンジョンに行った時に目安になるだろ?」
「なるほど!流石です」
「この3点ね。どれどれ~」
どうやらお姉さんは鑑定持ちのようで、魔道具を使うことなく調べているみたいだ。
「フムフム、ポーションは結構いいわね。指輪は…あ~これなのね。この箱はと…。ん?なにこれ?こんなものあったかしら?」
お姉さんは奥に引っ込むと大きな辞典のような本を取り出した。
「箱…箱…このページからね。ええっと、1件あるわね。記録はと…24年前!?ひえ~この人は11階層まで潜ってるのね。じゃあ、今回でかなりの進捗ね」
「あ、あの~鑑定の方は…」
「あら、ごめんなさい。この指輪の説明が必要だからこっちに来てもらえる?」
「あっ、はい」
んん、このメインじゃないもので呼ばれるのホルンさんの時もあったなぁ。なにか不味いのかなあの箱?
「で、肝心の鑑定の結果はどうなんだい?」
「結果ですが、まずこのポーション。これはハイポーションと言える手前のものですね。売れば銀貨3枚ぐらいです。次に指輪ですが…これもちょっといわく付きで不幸の指輪というものです」
「ふ、不幸の指輪!呪われてるんですか?」
「呪われているかと言うと微妙なところですね。この指輪は周囲の人の不幸を集める効果があるのです。当然、着けている人は不幸になります。いつでも外せますけど」
「ダメダメです」
「ところがですね。これ、そこそこ人気なのです」
「不幸になるのにですか?もしかして誰かに送るとか?」
「それはすぐにばれるのでないですね。細工もそこまで良くないですから。さっき言った不幸を集める事ですが、実際は指輪が貯めていっているのです。そして真っ黒になった後はパリンと割れて、その周辺に貯めた不幸を撒き散らすんですよ」
「は、はた迷惑な効果ですね…」
「だからこうして、我々ギルドも説明しているのですよ」
「ちなみに売値は?」
「金貨1枚です。ただ、良い使い方をされないし、管理が大変ですけどね。もう少し白ければさらに高いですよ」
「逆じゃないんですか?その間に不幸に遭うんですよね」
「不幸にさせたい相手に対して1からやったという達成感がいいらしいのです。私はさっぱりわかりませんが。それにそんなこと言う割に人に着けさせて、やらかす人もいるそうで…」
「それは罪にならないんですか?」
「なりますよ。他人の家に魔道具を使用するのですから。ただ、割れた後で指輪は消滅しますし、追いにくいんですよ」
「怖い…」
「まあ、人死にがでるぐらいでもないそうですからまだましですけど。それよりもこちらの箱ですよ!どこでこんなに貴重なものを…」
「目の色変えてたけどやっぱり貴重なのかい?」
「貴重なんてものじゃありません!数十年間のドロップ品のレアアイテムが記帳されている辞典にさえ、まだ1件しか報告がなかったんです!!以前は24年前に発見されており、その時は11階層まで潜ったということで1階層から11階層までの間のドロップという話だったのですよ?それが今回で5階層までで出ると判ったんですから!しかも、それでもこれで2件目なんです」
「ちなみにおいくらぐらいになるのでしょう?」
「少なくとも金貨30枚以上です。到達階層の情報と合わせてもう少しは行きます」
「でも、これ何か分からないんですけど…」
「ああ、これはですね。魔製オルゴールというものです。魔力を流して起動させるのですが、その時に思い描いた曲を奏でる珍しいもので、当然ながら何も考えずに魔力を流しても音はなりません」
「それで、歯車が動くだけだったんですね!」
「ええ。ダンジョンから見つかるのですが、発掘数は相当少なく貴族にも人気なんです。なにせ、一度聞いただけの曲でも記憶にあれば流れますからね。お金で買えない価値というものです」
「実際には金で買ってるんだけどね」
「で、どうされますか?旅の方とお見受けしますが売られますか?」
「うう~ん」
正直、ちょっと興味がある。前世で聞いた曲とかももしかして流せるのかなぁっていうのがね。
「アスカは欲しいんだろ?」
「…はい。でも、旅の資金にはちょうどいいですし、船の代金もありますよ?」
「いいよ。世界を旅するのにその辺でもある物だけ見たってしょうがない。こういうものに出会えるからいいんじゃないか!なぁ、リュート」
「そうですね。アスカがどんな曲を選ぶのか楽しみですし、ここは持っておきましょう」
「みんな…」
ピィ
「アルナも私がどんな曲を流すか気になるの?そっか、なら取っておくね」
「そうですか。また、見つけることがありましたらよろしくお願いしますね!でも、一体どこで出るんでしょうね。5階層までは特に強敵もいないし、レアボスの情報もありませんし…」
「ど、どうなんでしょうね」
そそくさと私たちはギルドを出る。流石に、帰りの階段の天井を飛んで見つけましたなんて言えないよ。
「さて、寝る前にちょっと使って見なよ」
「ええっ!?そんなに気になりますか?」
「なるね。リュートだってそわそわしてんだよ」
「ぼ、僕は…」
「なら先に寝なよ。別に興味ないんだろ?」
「そこまでは言ってません!」
「ほら見なよ。さ、アスカ何か流してくれ」
「分かりました。それじゃあ、一曲」
私はもう秋なのでそれにちなんだ曲を思い描く。まあ、秋といっても1月から3月が春なので、実際は夏の歌だけど。
「ふ~ふふふ~ふ~…」
「なんかテンポが良く変わる曲だね。こういう曲他にも知ってるの?」
「うん。色んな音楽があって親しんでたから」
病院とかだとそういうのになるか絵を描いたり、本を読んだりぐらいだもんね。
「ノリがいいね。歌詞なんかもあるのかい?」
「ありますけど、よく覚えてませんね」
結局、夜は3曲ぐらいかけて寝た。流石に朝早いのでアンコールはなしだ。
「おはよう~ございます」
「おはようアスカ。もう目が覚めたかい?」
「はい。でも、ここまで早くなくてもいいんじゃ…」
「変な噂が広まる前にってね。リュートは下で待ってるよ」
「は~い」
パッと着替えて下で朝食を取ってすぐに町を出る。うう~ん、ダンジョン産のアイテムとかもうちょっと見たかったかも?ただ、ジャネットさん曰く、ここは敵も物理攻撃だから私が欲しがるようなものは無いって言ってたし、次の機会かな?
グルルルゥ
「わっ!?ウィンドウルフです。こっちにもいるんですね」
「みたいだね。ちょっと下がってな!」
3頭で現れたウィンドウルフから距離を取っている間に、ジャネットさんが間に入り倒していく。
キャウン
「日がまだ登って間もないから行けるとでも思ったのかい。全く…」
「初めてみましたけど、ちょっとやせ型なんですね」
「ま、風魔法を使うぐらいだしそれに適した体なんだろうね。ほら、魔石だよ」
「ありがとうございます!」
ウィンドウルフの魔石は魔力さえあれば誰でも風魔法が使えるから重宝する。私の魔道具作成のかなめなのだ。道を急ぐのでさっさとマジックバッグにウルフを入れるとまた進みだす。
「ん~、ちょいと休憩かね?」
「そ、そうですね」
私たちはおもむろに休憩を取る。というのもどうやら人の気配がするのだ。願わくば普通の人であって欲しいのだけど…。
「あいたたたた。おや?こんなところに人が…」
「しょ、商人さんですか?」
「ええ、まあ。馬車は魔物に襲われてどこかに行きましたがね」
「アスカ、あたしが話をするよ」
小声で魔法の用意をと言われた。
「で、着の身着のままってか?」
「実はそうでして、この先に小さい村があるんですが、連れて行ってもらえませんか?」
「いいよ。でも、ちゃんとギルドに行って後で報酬払いなよ」
「ああ、もちろんだ…。さ、こっちだ」
商人風の男はどんどん来た方向へと入っていく。
「どう思うあれ?」
「露骨すぎますよ。逆に怪しくなくなってきました」
どう考えても、盗賊か何かなのに行動が甘すぎて不安になってしまう。馬車をなくした方へ進むこと自体、危険すぎてあり得ないし、行動原理が不明だ。
「あの人どうしたんでしょう?」
「さてね。取りあえず警戒頼むよ」
「はい」
私たちは男の人に案内され、やや開けた場所に着いたのだった。




