南市場 市場見学その2
防具を買ったリュートは引き続き、違う装備を眺めている。
「どうしたの?ちゃんと鎧は買ったよ?」
「そうだけど、鎧を新調したら一緒に小手も買いたくなってきてね。こうなってきたら気分を一新したいと思って」
フィーフィー
「あっ、うん。もちろん、君は別だよ」
「どうかしたの?」
「魔槍がさ、そのついでに自分も変えようとしてないかって」
「ああ、それは心配になるかも。急に自分以外が変わっちゃうんだし」
フィー
「今度はなんて?」
「アスカはいい奴だから特別に持たせてやってもいいって」
「あはは、ありがとう。でも、最初に持ってるんだよね。私の魔力とリュートの魔力であなたを抑えたんだよ。覚えてないかな?」
「アスカ、目立つから続きは宿で…」
「おっと、そうだね」
このままじゃ2人とも槍と話す変な人に見えちゃう。
「小手、小手っと…そういえば魔道具のやつを片手にしてるけどどうなの?」
「そこだよね。普通は組で売られるから心配で…」
眺めても流石に右側、左側というものは無かった。
「どうしようか?」
「といってもこの小手がないと意味ないしね」
「小手…そうだよ!別に付け替えればいいよ。魔石がはまりそうないい小手を見つけたらそっちに付け替えちゃお」
「良いの?折角アスカが作ったのに…」
「そうは言うけど、私が作ったのってただの細工の延長だし。魔力が切れたら金属の塊になるより、ちゃんとしたものの方がいいよ」
「そう言われるとそうなのかな?」
なんだかんだと言いながらも装備をここ最近で一式交換できるのがうれしいらしく、リュートは一組の小手を選んだ。
「他には何があるのかな?」
「交易品の中でも装飾品とか服はこっちみたいだね」
「通りであっちはつぼとか絨毯ばっかりなはずだよ」
「でも、気を付けなよ。ここは装飾品が多いからね」
「うん?それは分かったけどどうして?」
「だから、アスカの苦手な貴族とかも来ているかもしれないってこと」
「そっか、注意しないとね」
周りを見渡しながら店を見ていく。
「わっ!これ見てきれ~い。これだけ細かいのだと時間かかってるよ」
「アスカ。もうちょっと良いコメントないの?」
「え~、だって実際大変なんだよ。下手に中断すると再開した時に失敗するし。そういうのっていい思いがないから、グレードを下げた商品にしたくないしね」
「そうなの?ちょっとした失敗だったらそのまま使うのかと思っていたよ」
「そういうのはダメなの。ちょっとしたことでも手抜きしたくなっちゃうから」
「そういうもんなんだね」
そう言いながらも物を見ていく。
「う~ん。折角だけど、北国らしさがないかなぁ~」
「まあ、ここで作ったものでないって思えば仕方ないよ」
「そっか~、良し!じゃあ、店に行こう!」
「店?ここも店だよ?」
「良いからほら!」
リュートの腕をつかんで一直線に市場を抜ける。目指すは北の交差点を曲がった先にある商店街だ。
「ちょ、ちょっと、どうしたの?」
「地域性がないならあるところに行けばいいんだよ」
「だから、そんなに引っ張らないで!」
「しょうがないなぁ…フライ」
私は魔法で宙に浮いて移動する。これなら引っ張ろうがどうしようが大丈夫だ。2人とも同時に動くしね。
「いらっしゃいませ」
「こんにちわ~、細工物見たいんですけど」
「ではこちらです。お揃いのものでしょうか?」
「えっ!?どうしてですか?」
「いえ、腕を組んでいらっしゃいますし、そうなのかと…」
「あ、あはは。これは勢いで」
「ですが、お一つぐらいいかがでしょう?指輪やブレスレットを対にしておくとお誘いを断ることも楽ですよ」
「うう~ん。でもなぁ…。それだとリュートに悪いしな~」
「ぼ、僕は気にしないよ」
「そう?ならそうだ!ジャネットさんの分を含めて3つでセットにしようかな?」
「みっつでございますか?」
「はい!よろしくお願いします」
考えたもののブレスレットぐらいでは相手も引き下がらないだろうということで、お揃いの指輪を買うことにした。パーティー用のネックレスはあるけど、これに続いて指輪というのも中々良いものだ。ただ、その時お姉さんのリュートを見る目がちょっとおかしかった気がするけど。
「後はと…。やっぱりこっちには冬をイメージしたのがある!早速ちょっと買っていこう」
バルドーさんのお土産にもちょうどいいものがあったので買っていく。確か、王都より先にはあまり行ってないはずだ。
「あら、そちらのものをお求めですか?」
「はい。かわいいですし、デザインもこの町っぽくて好きです」
「ありがとうございます。この町所属の細工師の作品で、生まれも育ちもこの町の方なんですよ」
「へ~、道理で特徴が出てると思いました。あっ!こっちのもいいなぁ。こっちは…う~ん、この先のところが曲がっちゃってるな。デザインとサイズの関係だと思うけど、お土産にはできないな」
「あ、あの、彼女は凄腕の商人かしら?」
「いえ、ただの冒険者です」
こうして、何件かの店を回って私たちは宿に帰ってきたのだった。
「それで、魔槍の話だけど…」
「そうそう。君に最初に大量にMPをあげたのはアスカなんだよ。もちろん、僕が吸い取られた後だけど」
フィー
「魔槍はなんて?」
「お腹いっぱいになってから目覚めたから覚えてないけど、確かに結構気持ちいい魔力があったって」
「そう?そこまで消費しないならちょっと吸ってみる?」
フィー
「やって欲しいって。無理はしないでね」
「分かってるよ。この後細工もしたいし、リュートの小手に魔石を付けないといけないしね」
魔槍を手に取って魔力を注入していく。
「はぅ、うん。ふぅ、収まった」
ピカッ
その時、魔槍の穂先がやや光った。
「な、何!?」
「ほ、穂先がちょっとだけど変わった!?」
フィー
「ええっ!?質の良い魔力をもらうと魔槍は進化するの?君が話せるのもこの魔力のお陰?」
「そうなんだ。今ので何か変わったの?」
「傷んだ槍を直せるようになったみたい。MPを使った修復機能だね」
「じゃあ、これからもたまに魔力を注いであげるね」
フィー
不思議一杯の魔槍がさらに不思議なものになった。でも、私の魔力で進化するってそこは良いのかなぁ?まあ、リュートも魔槍も嬉しそうだからいっか。
ーーー
その後、宿に帰って来たジャネットに報告をするリュート。
「んで、何だいこの指輪は?」
「アスカとの話の流れで…」
「そんなこと言ってんじゃないよ。あたしに、あんたと揃いの指輪をしろって?冗談じゃないよ」
「で、でも、ジャネットさん。アスカも楽しみにしていますよ」
「あんたはその時、一緒にいたんだろ?一言自分とだけお揃いでいいって言えばよかったじゃないか。あんたの評価が2股かけてるごみ野郎ってのはどうでもいいけど、そこにあたしも巻き込むんじゃないよ」
「アスカの喜ぶ顔を見ていたら言い出せなくて…」
宿に帰ってアスカのいない間にジャネットさんに事情を説明すると案の定怒られた。
「いいかい?あんたの評価なんて別にどうでもいいけど、BランクのあたしやCランクとして実績のあるアスカの2人が、まだCランクになって日も浅いあんたの相手ってのが気に入らないんだよ!」
「おっしゃる通りで…」
「はぁ~~~。しょうがない、あたしは指輪は剣を握るのに邪魔になりそうだからネックレスと一緒に首に付けるっていうよ」
「ありがとうございます」
「それにしても折角、この町でほとんど別行動取ったっていうのにこの有様とはねぇ~。何か進展らしきものは?」
「さ、最近、腕をつかんだり手をつかまれたりするようになりました」
「それって、ただ興味があるところに直ぐに行きたいだけだろ。もっと何かないのかい?」
「僕の装備とか持ち物に興味を持ってくれるようになったと思います」
「思いますだぁ!そこはなりましただろ。全く…次は神殿だよ。恐らく、巫女たちとの交流がメインだからあんたの出番はまずない。港町だって流石に船の部屋は別だろうし、そうなると次にまとまった時間が取れるのは国外だよ」
「ジャネットさんはそこまで考えて…」
「全部無駄になったけどね。こんなことならもっとアスカと一緒にいればよかったね」
「これから頑張ります!」
「まあ、本当にあたしはどうでもいいんだよ。でも、流石に我慢した結果がこれって言うのはね」
パタパタ
「あれ?ジャネットさん帰って来てたんですね。部屋に戻ってくればよかったのに…」
「アスカが細工してるってリュートに聞いてちょっと話してたんだよ。そうそう、指輪ありがとね。あたしはちょっと邪魔になるからこのネックレスと一緒に付けておくよ」
そういうとジャネットさんはフロートの証である、ヴィルン鳥の羽を模したペンダントを取り出すと指輪を短いチェーンを使って付けた。
「わぁ、似合ってますよ。これで絆が強まること間違いなしです。これからもよろしくお願いしますね」
「ああ、もちろん」
さっきまで文句を言っていたのはどこへやら、一転機嫌を良くしたジャネットさんはアスカと一緒に食堂で料理を注文する。
「あの人もあの人で過保護だよなぁ」
ジャネットをそう評するリュートですが、自身も結構やってますよ。




