アスカのラスツィア観光
「朝食も食べたし、早速観光に行こう!」
「アスカ、力んでるところ悪いけど、今開いてるのは市場ぐらいだよ。そっちにも行く予定なの?」
「うっ、そうだった」
この世界に来てからというもの朝は大体6時ぐらいに起きている。ご飯を食べても7時頃、店が開き始めるのは10時ぐらいなのでまだ3時間も余っている。ちなみにジャネットさんは別行動で食事後、直ぐに宿を出て行った。
『一緒に旅してるのに別行動多くないですか?』って私が聞いたら、『旅先だからこそだよ。仲が良いって一緒に行動ばっかりしてると、情報が偏るだろ?限られた滞在日数をうまく使わないとね』だって!くぅ~、相変わらず頼れるお姉さんだ。
「うう~ん。折角だし市場も覗いてみようかな?でも、今からだと3時間歩きまわるのは辛いよね」
「移動時間とかを考慮してもその半分がいいところじゃない?」
「それに早く行くとお店の人がいて人が多いんだよね」
こっちは観光、向こうは経営も含めた本気モードだ。食料品関係に飛び込もうものなら私なんてすぐに弾かれてしまうだろう。
「それじゃ、細工でもしておく?」
「ううん。今日はオフの予定だから本でも読んでるよ」
そういうと私はマジックバッグから本と辞書を取り出す。取り出したのはガザル帝国の庶民生活という本だ。海を渡った先の大陸にかつて存在した帝国で、世界中が共通語に切り替える中、滅亡まで帝国語を使い続けた国だ。100年以上前に滅んだ国で、この本も200年前の貴重な本だ。また、庶民生活について書かれた本自体少ないので、2重に貴重な本でもある。
「その本って帝国語で書かれてるんでしょ?読めるようになったの?」
「辞書片手だけどね。簡単な単語は覚えたよ。リュートはこういうの興味ないの?」
「ない訳じゃないけど共通語自体、もう500年以上前からあるよね。古い本だって共通語のがたくさんあるから、わざわざ帝国語を覚えようとは思わないかな?今残ってるガザル帝国の本って領土も狭くなってからだからあまりないって聞いたことあるしね」
「もう~、そういう貴重な本にこそロマンが隠れてるのに…」
「アスカってロマンって響き好きだよね」
「そりゃそうでしょ!なんてったって冒険者の代名詞じゃない!」
「アスカはなんか冒険者を勘違いしてると思うよ。低ランクの人は大体生活のためだし、高ランクの人も才能があったから気づいたらなってたって人が多いし」
「ええ~、そうかなぁ~。きっとこの辺にも遺跡とかあると思うよ」
「そんなこと言って、調査依頼があったら行くつもりなの?」
「あったらね。なにも貴重な物がないとしても当時の生活様式とか見るの無料だよ!行くしかないでしょ」
リュートは流石に往復の時間とその間の食費はかかるよという言葉を飲み込んだ。遺跡の話をしただけで目を輝かせる少女に現実を伝えるのがはばかられたのだ。なによりこれまで遺跡の調査は2度行っており、1度は空振りだったものの、もう一度はアスカにとって貴重なものが見つかったので、まだロマンに魅入られているのだろう。
「そういえば、あの時見つけた梅干しだっけ?あれはどうしてるの?」
「貴重な貴重な数百年物だからね。大事に食べてるよ。食べる時も1個じゃなくて4分の1ぐらいだし」
「よくあんなすっぱいというか塩辛いものを食べられるね」
「まあね。食べなれてるのもあるけど、元々ご飯と一緒に食べるものだしね。ご飯と言えばあと2か月ぐらいでエヴァーシ村でご飯が採れるんだよね。港に行って国外に出る前に欲しいなぁ」
「それなら、中央神殿からハルテアに寄ってそこから東の港町から西の港町経由で予定してるけど、ハルテアからエヴァーシ村に寄ってからにする?」
「でも、寄るって言っても逆方向でしょ?エヴァーシ村は南西で港町は南東じゃない」
「別に目標があるわけでもないんだし、無理せずでいいんじゃない?それよりその本何が書いてあるの?」
「リュートも結局は気になるんだね、本の内容」
「まあ、アスカがいないと読めないわけだし。物理的にも言葉的にもね」
「まだ、20ページぐらいだけど、最初の方は帝都の庶民の暮らしについて書いてあるの。帝国は武力で領土を広げてきたから、街の公共施設には必ず軍人がいてそのせいで民衆はビクビクしていたみたい。ただ、剣道場とかは才能があれば無料で通えたりして、腕っぷしのいい人には住みよい町だったみたいだよ」
「それって、ランクの高い冒険者が威張ってる感じなの?」
「でも、軍人が常に街にいるから冒険者たちじゃそんなに威張れなかったんだって。代わりに軍人はただでご飯を食べたりしてたみたい。鳥の巣が帝国にあったら昼は軍人さんでいっぱいになってそうだね」
「でも、お金払ってくれないんでしょ?」
「気に入られた食堂とかは国からお金が出てたみたい。ただ、休んだりも軍人さんの都合次第だって」
「なんか大帝国だったガザルのイメージと違うなぁ」
「この本が書かれたのって帝国の末期の頃だからね。その頃は領土も狭くなってきてて、大変だったみたいだよ。帝都といっても国の公用語が帝国語で、他の国はみんな共通語だから商人も簡単に出入りできなかったって書いてあるし」
「治安はどうだったの?」
「そこまで悪くなかったみたい」
「意外だね。そんな都市なら治安悪そうなのに…」
「そりゃ、軍人さんも腕っぷしが良くて街の道場とかを出てるからね。いまだに道場通いの人じゃ相手にならなかったんだって。だから、多くの事件は軍人さんがらみなの」
「それはそれで大変そうだね。向こうは権力持ちだし」
「みたいだね。でも美人さんは軍人さんと一緒なら割といい暮らしが出来たみたいだよ」
「そんなことまで書いてあるんだ…」
「ほんとに色々書いてあるんだよ。買ってよかった~」
そんな話をしながら本を読み進めていると時間が来たので読書タイムは終了だ。街行きの準備をして下に降りる。ティタは市場とかだと目立つのでお留守番だ。アルナは代わりに色々見てくると言う名目で付いてくるみたいだ。
「あんまり飛び回ったりしないでね」
ピィ
アルナを肩に乗せリュートと一緒に市場に向かう。交易品は王都から延びてきている南市場、日用品などの商品は北市場に分かれている。馬車用の道路も南は広く、北側はそれなりの規模だ。とはいっても大都市であり、そもそもアルバの規模とは違うんだけどね。
「それで、北と南のどっちに行くの?」
「ん~、今日はリュートもいるし折角だから北側かな?」
「でも、南側に行く時もついて行くけど」
「自分の時間とか良いの?」
「そんなこと言ってたらまた変な人に絡まれるよ。アルバでさえダメだったでしょ」
「ジャ、ジャネットさんに頼めば…」
「ダメだよ。あの人だって顔は整ってるし、2人して面倒ごとになっちゃうよ。エレンやエステルにも頼まれてるし、気にしないで」
「分かった。また、行く時になったら言うね」
市場に着くと、主だった仕入れは終わってるはずなのにまだ人がたくさんいた。この時間からは一般の人向けの店も多くなるし、午前中は余り途切れないらしい。きちんと初めての人用に案内板もあるし安心だ。
「えっと、食料品は東側でその北側に調味料とかちょっと珍しいもの。そこより西側は日用品かぁ」
「なら日用品から見る?食料だと痛みとか気になるでしょ?」
「う~ん。そうだね!そうしよっか」
ピィ
アルナはおやつ代わりに何かつまもうと思っていたようで、ちょっと不満顔だったけどこればっかりは仕方ない。
「でも、日用品って言ってもどんなのだろうね。普通に店もあるわけだし」
「確かにそうだね。結構、区画もあるみたいだし何があるんだろう?」
早速、見回ってみるとまああれだね。フリマっぽい何かだ。どうやら付近の町や村からも来ている人がいるみたいで、そこで加工したものとかを売ってるみたいだ。商人も定期的に来なかったり、直接売れた方が利益がいいらしい。当日ほとんど売れた場合のみらしいけどね。
「あっ、これかわいいかも」
「どれ?」
私が示したのは小さめのかわいい少女の像だ。デフォルメ像自体は流通してないけど、こうやって村で作られるものにはたまに紛れている。
「この手に持ってるのは何ですか?」
「これかい?鏡だよ。サイズが小さいと映りが悪いから大きいのになってるんだよ」
「なるほど、1つください」
「はいよ。大銅貨2枚だよ」
「安いんですね」
「まあ、村のもんが暇な時に作ってるからね。高くしても売れないし」
おじさんと別れて他の店へ。
「アスカ、本当にあれ買ってよかったの?自分で作れるでしょ」
「旅の思い出って感じかな?それに手のところの作りがよさそうだったんだよね~」
フィーナちゃんみたいに苦労している子もいるし、あそこを魔石とかに変えればプレゼントにも良さそうだしね。
「あっ、このガラスのコップいいなぁ」
「でも、野営の時だと割れちゃうよ」
「そうだよねぇ。飲み物とかもスープが多いし、使うところが宿になっちゃうしなぁ」
住むのなら迷わず買ったんだけど、今はやめておいた。
「大体日用品は回ったかな?」
「そうだね。意外にも服とかもあったりして見る物は多かったよ」
「じゃあ、次はいよいよ食料品だね。珍しい調味料とかの区画の方が近いからそっちから行こう」
「分かったよ」
ピィ
アルナも何か自分が食べられそうなものがないかと肩を離れて屋台を見回す。
「こらこら、あんまり飛ばないの」
と言いつつ、私も何があるか気になってるし早速、見て回ろう!
書き終わって思ったのですが、観光しましたかね?




