ギルドで手紙?
ノースコアウルフが北と東に現れ北の6体を倒したのもつかの間、私たちの元には東からの群れが接近していた。
「こっちの数は?」
「5体ですね。さっきより数は少ないですけど、まとまってるみたいです」
「アスカの魔法で何とかなる?」
「試してみるよ。さっきので魔法も威力はそこそこだって分かったし」
物理の氷を作るだけなら、土魔法と特性的には変わりない。正直、サンダーバードみたいに集まったら雷が起こせたりと、大きなことが出来るのかもと構えていたのが無駄になった。たとえ群れで雨あられのように氷のつぶてや刃を作ったところで、風でも火でも対応できるだろう。
「じゃあ、私が正面に出るから散開しないように上手くおびき寄せて!」
「分かったよ」
「了解」
ジャネットさんたちは様子をうかがいながら私の正面にノースコアウルフがやってくるように調整する。
「アスカ、OKだよ」
「よしっ!嵐よ、敵を切り刻め!ストーム」
キャウン
姿が見えたところで申し訳ないが、うかつにこっちの間合いに入ったのが悪い。毛皮がちょっと傷むけど、流石に連戦で怪我をしたらつまらないからね。一応、傷まないように風で切り刻むより巻き上げるようにしてはいるので、そこまでは悪くないはずだ。
「行くよっ!」
「はい」
リュートとジャネットさんが空中に放り出されたノースコアウルフをしとめていく。私も弓を持ち出し、1体は倒す。相手の実力も分かっていたし、やや不意打ち気味でもあったけど戦闘はこれをもって終わった。
「う~ん、確かに遠距離の攻撃方法は持ってるけど、別にローグウルフとかと変わんないねぇ」
「ですね。魔法の威力も僕よりちょっと下ぐらいなので、対処も可能ですし」
「魔道具に頼ればあたしの魔力でも何とかなるしね。アスカは?」
「私はブリンクベアーの方が嫌ですね。他だとガーキャットたちの方が苦手です。あっちは森の中を襲ってきますからね」
「まあ、乱戦になりやすいしあたしも同意見だよ。だけど、これで魔石が2つか。1日で金貨10枚ちょっと、討伐依頼も含めたら結構な儲けだね。これで買取制限がかかってなけりゃ、もっといいんだけどね」
ノースコアウルフは魔石の買取金額もそこそこだけど、住んでいる地域が決まっており乱獲を避けるために討伐依頼や魔石の買取個数に制限があった。月に討伐依頼は2件、討伐数は20体までで魔石買取は4つまでだ。でも、これがあるお陰で魔石も値崩れしないと考えると仕方がないのかな。
「でも、これで月の半分は倒しちゃいましたね。次の依頼は別のにしないと…」
「ま、数日空けて町で情報を集めるとするか」
「そうですね。当座のお金はできましたし、これでゆっくりできますね」
金貨3枚で宿生活でも1週間近くは暮らせる。魔石の収入で20日は3人が活動できるのだけど…。
「1つは持っていてもいいですか?氷の魔力を持った人はいませんけど、何かに使えるかもしれないので」
「いいけど、1つは売るよ。生活もあるんだから」
こういう魔石などを落とす魔物は基本的に討伐依頼は安い。依頼を出さなくても冒険者の方から狩りに行くからだ。なので、戦利品はちゃんと売らないと収入が激減してしまうのである。
「出発してそこまで時間は経ってないですけど、戻った方がよさそうですね」
「にしても、アスカの敵をおびき寄せる魔法が効いたみたいでよかったよ。あたしたちは積極的に依頼を受けるパーティーじゃないから、効率が良くなるね」
「討伐依頼は決まった数倒さないといけないし、期限もありますからね。その間に別の依頼を受けることも出来ますけど、たまってっちゃいますし」
リュートの言う通りだ。依頼を残していると期限切れになりかねない。罰金はもちろんのこと、達成率の低いパーティーは特に護衛依頼なんかでは弾かれることもあるので、気を付けないとね。
ささっとギルドまで戻って清算する。
「ええっと、討伐報酬が金貨6枚ですね。素材系は奥に併設されている解体場でお願いします。魔石の方はこちらで買い取りますが」
「じゃあ、これをお願いします」
とりあえず、ここで魔石の売却と報酬の金貨12枚を4等分しておく。3人+パーティー資金の分だ。パーティー資金は専用の口座で管理していて、急な支出がある時に使えるようにだ。以前はハイロックリザードの皮を買う時に私が使わせてもらったこともある。その後、素材を売りに行こうとしたら受付の人に止められた。
「そういえばフロートのアスカ様でしたね」
「はい、そうですけど…」
「あなた宛てにお手紙が届いていますよ」
「手紙ですか?」
手紙が届くとしたら商人ギルドを通じ出てのはずだけど、何かあったのかな?覚えがないけど、来ているということなのでとりあえず受け取る。
「アスカ、誰からだい?」
「誰でしょう?全く覚えがないんですけど…あれ?マディーナさんからだ」
「マディーナから?一体何したんだい?」
「分かりません。私はCランクの昇格試験で試験官をしてもらって以来、会ってませんし。ジャネットさんじゃないですか?」
「あ~、まあ、手紙は出したけどねぇ。それなら直接あたしのところに来るはずだけど…」
「とりあえず、素材も売って宿で見てみません?」
「そうだね。さっさとうっぱらっちまうか」
手紙がみんなも気になるようですぐに素材を売り払うと、宿に戻って手紙を開ける。
「なんて書いてあるんだい?」
「私の作った魔道具を店で見たみたいですね。その感想が書いてあります」
「どれどれ…。って、次の滞在都市と滞在日を教えろって書いてあるじゃないか。なにしたんだい?」
「う~ん。私の作ったというかティタの作った水の魔道具が気になるみたいですね」
「次の滞在都市ってどこになるのかな?」
「今の予定だと…中央神殿のある町だね」
「ラスツィアには着いたばかりだし、10日ぐらいは滞在するし、そこからの移動も含めると20日後ってところだねぇ」
「じゃあ、今から二十日後に中央神殿にてで返事を返しときますね」
「アスカ、手紙が何日後に着くか分からないから日付で書いといた方がいいよ」
「そうだね。じゃあ、20日後の日付を指定してと…中央神殿で待ってます。あれ?この手紙どうすればいいんだろう?」
「冒険者ギルド経由で送ってもらえるよ。明日にでもあたしから送っとくよ」
「良いんですか?」
「アスカは明日は町を回るだろう?あたしは特に用事がないからね」
手紙の差出はジャネットさんに任せることにして、私はどうしようかな?店を見て回るのもそうだけど、ここら辺でアルバとレディトに細工物を納品したいしな。
「どうしたのアスカ?」
「うん。明日なんだけど商人ギルドと店を見て回るのどっちを先にしようかなって」
「それなら商人ギルドが後でいいんじゃない?気になったものがあったら一緒に送ったりできるし。細工のおじさんのところならエレンとかのお土産も一緒に送れるだろうしね」
「その手があった!じゃあ、そうする。リュート悪いけどついてきてもらえる?」
「もちろん!特に商人ギルドでは僕が対応するよ」
「お願い」
私は旅用に商人ギルドにトリニティという商会を持っている。実際にはジャネットさんやドーマン商会の会長さんたちが旅に出る時用に立ち上げてくれてたんだけど。商会長は私になってるんだけど、別に取引は誰でもできる。逆に私がやっちゃうと子どもながらに商売や細工が出来ると変に目をつけられるので、旅の間はジャネットさんかリュートに代理を頼んでいるのだ。
「じゃあ、予定も決まったしそろそろご飯食べに行こう!」
「だね。今日は何かな?アスカはどっちにするの?肉、それとも野菜?」
「今日は運動したし、肉にしよっかな?」
「なら、今日はあたしと一緒だね」
そして、下に降りて食事を頼む。今日の肉料理はオーク肉の冷しゃぶ風。肉料理といいつつ結構、野菜も多めのメニューだった。一部に不満の声が上がったものの、食べ始めるとみんな満足したらしい。野菜の方は新鮮な野菜が多く手に入ったらしく、ちょっと大き目の皿に盛られていた。
「どうしたのリュート?」
「う~ん。野菜自体はおいしいんだけど、ちょっと物足りないかな?よっと」
そういうとリュートはマジックバッグからドレッシングを取り出すとこっそりサラダにかけていた。私はおかずがあると野菜はそのまま食べたい感じだけど、リュートはちゃんと味付けが欲しいみたいだ。横を見るとジャネットさんも寄越せと目線をやっている。別に店の中で調味料を出すこと自体は問題ないんだけど、あれもライギルさんとの開発商品なので、目立たないようにしているのだ。
「堂々と使えばいい宣伝になるんじゃない?」
「まだ生産体制が整ってないんだよ。王都までも持っていけない量だから話をされても困るんだ」
「あ~そういえば、そんな話も聞いたような…」
ドレッシングの商品化はドーマン商会にも手伝ってもらったんだけど、あの商会は食料品はあまり得意ではないので、別の商会を探してもらったのだ。そして、そこも大きくないのでいまだに流通はレディトとアルバ位までなのだ。王都で勝負するにも知名度がないので、今は雌伏の時期だって聞いた気がする。
「もとはと言えばアスカも悪いんだよ。スープの素を作ってるところにさらにかぶせるように話を持って行ったんだから」
「で、でも、リュートやライギルさんも賛成してくれたし」
「まあ、料理人に対して偏見の少ない商会だったからそこに頼むつもりだったけど、生産工場もてんてこ舞いだって」
料理人はレシピを秘匿する傾向にあるので、そもそも商人とは関わりが少ない。もちろん、スパイスとか野菜の仕入れとかは頼むけど、商品開発なんかは話自体を嫌がるのだ。まあ、自分の店の自慢の味が簡単に再現されちゃうからだけどね。だから、ドレッシングのような汎用性の高い調味料は欲しいけど話が出来ないものだったのだ。これを商品化してもいいよと言ったので、大量に作り慣れていないこともあり生産能力がパンクしているのである。
「あと、アスカの言った手洗いとか洗浄とかが大変みたいだね。卸せる先は増えたみたいだけど」
ちょっと興味が出て工場見学に行くと、思い思いの服装で素手で材料を合わせていたのだ。流石にビニール手袋やアルコール消毒!とは言えなかったけど、せめて工場で着る服の統一と、作業前の手洗いなどの衛生環境を整えたのだ。初期投資がかかる代わりにレシピ使用料をライギルさんに頼んで下げてもらってね。この世界でもちょくちょく食中毒みたいなことが起きてるみたいで、ある程度防げますよと言ったら向こうも乗ってきたのだ。
「でも、あそこまで乗り気になるなんて思いませんでした」
「まあ、問題が起きれば製造工場を移したり、名前を変えたりと面倒だからね。検品の量も増えて利益も悪くなるし」
「検品はともかく名前を変えてもしょうがなくないですか?」
「でも、名前が変われば同じような味でも別物だろ?調べても分かんないしさ」
「でも、商人ギルドに登録してるんですよね?」
「登録したのが同じ商会でなければ辿れないよ。なぜ起きるのかだって詳しく分からないからギルドの方も強くは言えないしね」
あ~、まあ、傷んでるから食中毒になるとは言っても、どんなものなのか細菌とかまで私も見たことないしね。顕微鏡とかあれば見れるんだろうけど、初めて見た人は衝撃だろうなぁ。そう思いながら食事を終えて、明日に備えて眠るのだった。




