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見えてきたラスツィア

「村のために色々とありがとうございました」


「いや、こっちも商売だしね」


「では…」


村長さんに見送られて私たちは村を出発する。目指すラスツィアまでの道のりは半分以下だ。ちょっとだけど野菜ももらえたし、いい村だったかもね。


「ここ越えるんですか?」


「まあね。本来は小型の船か歩いて渡るんだけどね」


「歩いてって川幅20mぐらいありますけど…」


「増水してなきゃまあ大丈夫だろ?重戦士とか重装備のやつもいないしさ」


「僕でも膝近くまで浸かっちゃいますけど…」


「うちには風魔法の使い手が2人もいるんだから問題ないけどな」


「そっか、フライで越えればいいんですね。フライ!」


私はジャネットさんと自分にフライをかけると早速川を飛び越える。


「リュートも早く来なよ~。って、あれ?ティタも残っちゃった」


いつも肩にいるティタがいつの間にか地面に降りていた。


「ん、だいじょうぶ」


ティタは水面に体を付けたと思ったら、水魔法を身にまとって水面を滑るように渡ってきた。


「すご~い!こんな風に魔法使えるんだね」


「ひとのまほう、いろいろみてきた」


ティタが言うには魔物は特に魔法を改良とかはしないらしい。別に遠慮して使うこともないからこういう使い方をするのは人間だけらしいとのこと。


「おい、リュート。早くしな」


「は、はい」


リュートも自分の魔法で川を渡ってこれで渡河完了だ。


ピィ


「何アルナ?折角だから釣りがしたいって?う~ん、時間かかっちゃうけどなぁ」


「いいんじゃないかい?どうせまだ食料はあるんだし、野営も出来るしさ」


まあ、日程が決まってる訳でもないしいっか。即席の竿を用意して釣りを始める。


「あれ?ジャネットさんのしっかりしてますね」


「ああ、たまに気晴らしにやることもあるから王都で作ったんだよ。丈夫で長持ちするってんで針と一緒にね」


「僕も自作だけど作ったんだよ」


「私だけ臨時の竿かぁ」


「ま、こういうのは道具じゃなくて腕と運だからね」


チャポン


そうして釣り大会が始まった。ただ、川は幅も広いし流れも結構早いから釣りに向いているとは思えないんだけど。


ピィ


アルナも上空から魚を探しているけど、急流だからか姿が見つけられないようだ。ティタはというと水辺の石をあさっている。


「ティタ~、いい石あった?」


「そこそこ」


ティタの集めた石を見るとところどころにきれいなものも混じっている。そういうもの方が魔力が高いんだって。


「石にも色々あるんだね~」


そんなことを言う余裕があるというのも中々魚がかからないからだ。


「やっぱり、流れが速すぎるんですかね~」


「まあ、なんとかなるって…おっ!」


パシャ


勢いよく竿を上げたジャネットさんは大物を釣り上げた。


「うん、とりあえず今日の飯は確保だな。リュート、結構勢いよく引きながらの方がいいぞ」


「本当ですか。試してみます!」


それからしばらくしてリュートもそこそこのサイズの魚を釣り上げた。それから2時間後…。


「ジャネットさんが4匹、リュートが2匹なのは分かる。でもアルナまで2匹も取るなんて…」


流れが急で魚影を見つけられなかったアルナだったが、途中からティタが水流を操作して流れの緩やかな場所を作ったため、そこに入ってきた魚を見事仕留めていた。そして私は…。


「またボウズかぁ」


「まぁ、今回は流れも急だししょうがないよ。僕もたまたま釣れただけだし」


「それで2匹も釣ったんだ。へぇ~、普通偶然なら1匹だよね」


「アスカやめなって。ほら昼にするよ。昼は焼き魚だから火の加減頼むよ」


「…は~い」


アースウォールをブロック代わりにして鉄板を引き、そこで魚を焼いていく。直火でもいいんだけど、たまには鉄板焼きもいいよね。もちろん、横では姿焼きも焼いてるけどね。ちょっと小さめの魚は醤油をたらして、村でもらった野菜と一緒に焼いていくのだ。


ジュー


鉄板に置いた野菜と魚が焼けていく。


「う~ん、ちょっとだけ粉末スープも溶かして入れてみる?」


「じゃあ、試しにやってみようか。どうなるか分からないから3分の1だけ端に寄せてやるよ」


鉄板焼き用に作った器でスープの素を溶かしてそれを鉄板に引いていく。


「ん~、いい匂い」


ピィ


「ん?アルナもお代わり?ちょっと待ってね」


アルナ用に小さく切った魚を小さい器に盛る。やっぱり自分で取った魚だから美味しそうに食べるなぁ。普段は野菜しか食べないけど。横ではティタが自分も頑張ったと魔石を食べている。


「そろそろいいかな?」


鉄板焼きも完成したし、姿焼きもいい焼き加減だ。


「いただきま~す」


はぐっ


「ん~、絶妙な塩加減だよ。やっぱりとれたては塩だよね~」


「アスカって美食家だけど、こういう時はあまり調味料つかわないよね」


「あったりまえだよ!新鮮なんだから素材の味を楽しまないと。川魚だから生はダメだけどね」


「そういや、アルバにいた時からずっと言ってるよね。何かあるのかい?」


「川のお魚は目に見えないような小さい寄生虫がいるからお腹壊しちゃうんですよ。焼いたら大丈夫なんです。海のやつだと大体大丈夫みたいなんですけど」


「そうだったのかい。確かに、火を起こすのが面倒でそのまま食ってた時に経験あるね。おっ、あたしはこのスープの素を溶かした奴の方が好みだね」


「私はあっさり目のこっちの方が好きですね。リュートは?」


「どっちかというと僕もスープの素が溶けてる方かな?」


「ふ~ん、やっぱりリュートも男の子なんだね。はっきりした味のが良いんだね」


「ちょっとアスカ、そいつは聞き捨てならないよ」


「い、いえっ、ほら、ジャネットさんは前衛職ですし塩分は大切ですよ」


「まあいいけどね」


にぎやかな昼食を終えて進んでいく。しばらく進むと左手に山が見え、そこから先には岩場が広がっている。


「流石にここの近くで野営は出来ないね。今日中に岩場は抜けちまおう」


やや、日が落ちていたもののちょっと足早に進み、岩場を抜けていく。


「アスカは今日は何がいい?」


「昼間は魚だったから夜は肉かな」


「まあ、保存食以外だと量があるのはオーク肉だけだけどねぇ」


という訳で、今夜の食事は水辺でステーキだ。焼けた肉厚のステーキにそこで取れた薬草を巻いてパクリ。


「ん~、塩とたれが合わさって美味しい~。薬草も加えるとさっぱり感もあるし」


「あたしはたれに付けるんじゃなくて、たれをかけてそのまま食べるのが好きだね」


「あっ、わかります。鉄板が熱くないと出来ないですもんね。専門店とかなら私もそっちです」


ーーー


僕らは今、川の流木を使ってテーブルと椅子を作り、テーブルの上にはアスカの作った鉄板プレートにステーキが載っている。まるで川辺の別荘での風景かのような光景に呆れてしまうけど、もう最近は気にならなくなってきた。


「大体、野営前にテーブルと椅子が人数分あって、きちんとした器に盛られるって何だろう?おかしいなぁ」


「リュート、食が進んでないよ?お昼食べ過ぎたの」


「いや、ちょっと考え事をね」


パクッとステーキを切り分けて食べる。調味液もアスカの作った携帯型冷蔵庫に入っており、低温に保たれ長持ちするので、味付けも塩のみとかじゃなくてその辺のレストラン並だ。ジャネットさんも当然のように食べてるけど、もう他人の目がある合同パーティーなんて組めないんじゃないだろうか?


「ほら、考え事してないで食べようよ」


「うん」


パクッ


うん、味付けも上々だし美味しい。保存食もいいけど、こういう食事もいいなぁ。


「そういえば、ラスツィアまでどのくらいなんですか?」


「後、半日ってところだね。明日は早めに起きて、きちんと宿を押さえないとね」


そしてこの日はそのまま川べりでテントを張って休んだのだった。




う~ん、このパーティー常識が消えつつあるな。



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[一言] >「川のお魚は目に見えないような小さい寄生虫がいるからお腹壊しちゃうんですよ。焼いたら大丈夫なんです。海のやつだと大体大丈夫みたいなんですけど」 アニサキス「やあ! 人間が好む海の魚介類の…
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