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次なる村へ

翌日、流石に何もなかったので私は気持ちよく目覚めた。


「ん~、いい天気ですね」


「まあ、まだ日が昇ってちょっとだけどね」


ここまで早く起きるのにも理由がある。ラスツィアまではまだまだ数日かかる見込みなので、少しでも早く着けるように出発を速めているのだ。


「おや、もう出発ですか?」


「はい。昨日は許可をくれてありがとうございました」


「いやいや、普段使っていない小屋でしたから心配でしたが良かったです」


「あたしたちは道を急いでるんでね」


「そうですか…。では、良い旅を」


村長さんに見送られて村を後にする。


「でも、村長さん。もう一泊でもしていって欲しそうでしたね」


「そりゃあ、あと一泊するとなるとまた食料が手に入るかもしれないからね」


「ああ、そういう…」


そういえば昨日ブルーバードを差し入れた時もすごく笑顔だったな。


「村に泊まるコツは2つ程あって、1つは冒険者だから近くの魔物を倒す約束をすること。もう一つが、珍しいものや食べ物を差し入れることだよ。敵意がないことを示すんじゃなくて、泊まることによる利益を見せるんだよ。まあ、やり過ぎると逆効果でもあるけどね」


「昨日差し入れたのは僕がちょっと味付けておいたブルーバードでしたね」


「干し肉といってもまだ乾燥途中でちょっと戻せばやわらかいだろうからね。あのおっさんも村長をやっていてよかったと思ってるはずさ」


「じゃあ、次の村でも出しますか?」


「どうだろうね?村ごとに状況は違うからねぇ。行ってみてだね。今日は森と草原の間を抜けた先の村まで行くからちょっと気張るよ」


「は~い」


といっても、私のやることが変わるだけだ。昨日はそこそこ歩いたけれどまだ初日なので、かなりの距離を自分で歩いた。今日は朝からホバーの魔法を使って楽に移動する。


「アスカは良いよね。まともに歩かなくてもいいんだから」


「でも、これだって魔法だから消費があるんだよ」


「普通は移動にマジックポーションを使うことはないからね。それが出来るのはアスカだからだね。魔法使いは出来るといっても、自分が戦える程度には温存しないといけないから、弓も使えるアスカならではだ」


「そうですか、えへへ。まあ、これを使ってもまだ余裕ありますけどね」


旅らしくみんなでわいわい言いながら歩いていく。3時間ほど歩いたところで一旦休憩だ。


「ようし、ここで一旦休憩だね。この先はちょっと長いからゆっくり休みなよ」


「そんなに次の休憩まで長いんですか?」


「ああ。今北西に森が見えるだろ?そして、北東には草原だ。この間を縫っていくわけだけど、その近くで止まろうもんなら両側から襲われるからね。そういうところはさっさと抜けるに限るよ」


「この間にも何度か襲われましたからね」


私たちは村から1時間ほど歩いたところで、森側からはオークがさらに進んで草原側からはローグウルフに襲われた。もっとも、どちらも生息域から距離があるので3体ずつという少数だったが。これが、それぞれの生息域に近づくともっと多くの魔物と出くわすだろう。


「まあ、オークのやつには感謝しないとね。まだ数日は野営も続くから食料が確保できて助かるよ」


「村では中々買えませんからね」


物々交換も出来なくはないけど、こっちは店の無い中の食料の買い付けなので割高になってしまう。また、村人に売れるもの自体が食料だったりするのだ。村の自警団なんかに剣を売ったりも出来るけど、価値を証明できないので冒険者だと正規の値段で売りづらい。お金をあまり持っていないこともあるしね。


「アスカ、ごはん」


「は~い。ティタは今日はこの魔石の欠片だよ。ゲンガルで買った魔石詰め合わせのちょっといい奴。まあ、色味が悪いからなんだけどね」


「やった」


ティタの食事は毎食、魔石か魔力を帯びた石だ。以前住んでいたところでは魔力を帯びた石も結構あったけど、流石に旅先で見つけるのは困難なので今は魔石中心だ。魔石といっても冒険者が倒す時に傷つけてしまったりして質が悪い物だ。こういうのは二束三文で取引される。冒険者も持ち帰らない人もいるけど、重たいものでもないのでそこそこ流通している。


「そういえば今後は余り水の魔石ばっかり用意できないと思うけど大丈夫?」


「うん、3回に1回水の魔石なら大丈夫」


旅に出てからはティタは1日1食から2食だから、2日に1回上げればいいのか…。そこそこ費用もかかるけどこれは仕方ない。ティタは食べる魔石の種類によって、自分が使える魔法も変わるから、他の魔石ばっかりだと折角伸びた水の魔法が生活魔法まで下がってしまうのだ。


「折角、水の魔道具も作れるようになったんだから、頑張って維持しないとね」


それに、旅先でも水が出せるのは大きい。川のとかの水を煮沸して使ってもいいけど、手間もかかるしどこでもって訳にも行かないしね。


「そうだ。いま、まどうぐつくる」


「あっ、ゲンガルでも作ってたブレスレットだね。今はムルムルたち用に3つ作ってあるけど、魔石は…あと4つか。大丈夫?」


「うん。いどうちゅうは、アスカのかたにのってる」


「あはは、よろしくお願いね」


アルナといいティタといい。私の従魔は元気なのだけど、移動はもっぱら私の肩につかまるだけだ。まあ、私も移動の半分ぐらいは魔法で動いてるから人のことは言えないんだけどね。


ピィ


「ん?アルナも魔道具に興味あるの。でも、アルナって私と一緒の風属性だしなぁ」


流石にアルナと私じゃ100以上魔力に差があるし、出来に差が出ちゃうしなぁ。魔物ならではの知識といってもアルナはまだ1歳ちょっと。対してティタは250歳以上だ。たとえ魔力が低くとも私の使えない水属性とその知識でティタは魔道具を作ってるけど、アルナは流石にね。


ピィピィ


しかし、興味を持ってしまったみたいでやらせろと周りを飛んで主張するアルナ。こうなったらうるさいので一つぐらい作らせておこう。まだ、魔道具用のグリーンスライムの在庫は割とあるし。


「それじゃあ、アルナ。一つだけだからね。無駄にしないでよ」


ピィ!


アルナの足元にスクロールを置きその上にグリーンスライムの魔石を乗せる。後は込める魔法を指定させてと…。


「いい、込めるのはバリアの魔法だよ。こういうのだからね」


案の定というかアルナがウィンドカッターを込めようとしたので、慌てて魔法を指定する。アルナが得意な魔法を使いたいのは分かるけど、流石に初級の攻撃魔法を込めても仕方がない。魔道具を買ってでも使いたい魔法でないといけないのだ。バリアは範囲を絞るのが難しく、とっさに張ると穴や薄い箇所ができやすい。なので、使える人間にも需要があるのだ。


ピィ


アルナが集中して魔法を使う。きちんとスクロールが反応してしばらく、一応魔道具は完成したようだ。


「じゃあ、ちょっと試してみるね。えいっ!」


そして出来上がった魔道具を使ってみる。


「おっ、ちゃんと張れてるね…って、前方だけ!?」


出来上がった魔道具は強度こそそれなりにあるものの、前方に半円形でバリアが張れるものだった。


「あ~、そういえば全方位に張ると小鳥とか空を飛ぶ生き物は飛びにくくなるんだっけ」


アルナが魔法を覚えたての時とか飛び始めの時は周りに風のバリアを張ったりして止めていたのだ。飛ぶのに気流を使うので、それを断たれると中々飛べないのだ。だから、ミネルとかも基本バリアのようなものを使う時は前方とか範囲を指定して飛ぶのに支障がないようにしていたのだ。


「う~ん。まあ、消費自体はちょっと少なめだし、魔力の低い人やお試し程度ならまだ使えるかな?」


風の魔力が必要なグリーンスライムとはいえ、魔道具なら金貨3枚程度だ。使い捨ての魔石でも銀貨8枚はする。これなら金貨1枚と銀貨5枚ぐらいで売るのは問題なさそうだ。


「とっさの時だとMPに余裕がないかもしれないから、安かったら買い手は付きそうだしね」


強度が保たれているのがよかった。これで強度が悪かったら、銀貨8枚というほぼ原価のような値段になっただろう。


「後はどんなものにするかだよね。とっさの時用だし、ブレスレットかペンダントか…」


悩んだけれど、防げるのが正面だけということでネックレスにした。ネックレスならほぼ中央につけるだろうから前面からの攻撃に対応できると考えたのだ。ブレスレットなら、態勢次第で全く役に立たないこともありうる。


「それにしても不思議なのが、込めた魔力と同程度ぐらいまで出力があることだよね。ひょっとして人より魔物の方が魔力の変換効率が良かったりするのかなぁ?」


「アスカ、考え事もいいけど足も動かさないとね」


「そうでした。まだ村まではありますし行きましょうか」


再び歩き出す私たち。そこからは順調でたまに薬草を発見して、採取を行う以外では立ち止まらずにどんどん進んでいった。


「ほう、お若い方たちだが宿とな?」


「いえ、別に小屋とかでもいいんですが」


「そういうことなら空き家があるが…」


「が?」


「もう3年も帰ってきていないものでな。埃まみれだと思うのう」


「そこって使っていいんですか?」


「まあ問題ないじゃろ。何の連絡も無しに突然出て行ったからな。親が死んで冒険者になるといって出てったきりでな」


「そういう人、多いんですか?」


「いや、そもそも村を一人で出るということ自体、危険極まりないからの」


着いた村で村長さんに案内された家は確かに人が住んでいる気配もなく、ガタも来ていた。


「まあ、雨風をしのげるということに関しちゃ問題はなさそうだね」


「でも、埃すごいですよ。どうするんですか?」


「バカだねぇ、リュート。何のためにアスカがいると思うんだい」


「私ですか?」


「いっつもティタと一緒に木片や木くずを捨ててるだろ?」


「そっか!あのやり方でいいんですね」


私はティタを肩に置いたままで霧雨のような細かい雨を出してもらう。そしてそこに自分の風を合わせて埃と水を吸着させたものを一気に外に出す。


「後は…人のいない場所に捨ててと…」


これを何度か繰り返して、家の中のほこりやごみはあらかた片付けた。


「でも、綺麗になったのは良いんですけど、そうなるとボロが目立ちますね」


「ま、3年ぐらいだし問題ないさ。住むわけでもあるまいし」


「そうですね。それじゃ用意しましょうか」


ただ、あまりにも手際が良すぎたため、ちょっとの間はガサゴソしてるふりをした。そしてしばらくして改めて村長さんに宿を提供してもらったお礼に行く。


「今日はありがとうございました」


「いや、なんの。して、冒険者殿たちは素材など余っておりませんかな?」


「素材ですか?」


「うむ。村でもいくらかは魔物から入手しているのだが、いかんせん追い返せはしても倒すとなると一苦労でな」


「今持ってるのだと、オークぐらいだね。前の町でうっぱらっちまったからねぇ」


「…そうですか、残念です。オークの肉だけでも譲っていただけませんか?」


「あたしは構わないけどいくらだい?」


「銀貨1枚で」


「まあいいか。泊めてもらったことだしね」


案内してもらった処理場にオークを2体出す。1体は私たち用なので出さない。


「あたしらは解体とか苦手でね。そのままでいいよ」


「本当ですか!いやぁ~ありがたいですな!」


そういうと村長さんは大喜びで駆けていった。こうして無事に2つ目の村での宿泊もこなした私たちだった。



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