こぼれ話 終戦、その後
援軍を連れてきたマディーナたちのお陰で、戦線は持ち直した。
「お前らは、1対1でいいな!」
「あら、ジュールさんの方は2対1じゃない?」
「うん?」
後ろを見るとさっきまでジェネラルと戦っていた魔法使いがいた。
「無事だったか」
「この魔道具のお陰です~、強度は微妙ですけど攻撃にも使えて便利でした~」
「そいつはよかった。知り合いのもんなんで買ってみたんだが正解だったな」
マディーナたちが来たことで、こちらにも余裕が生まれていた。他の冒険者たちが後ろに下がっていたバトラーたちを倒し、とうとうジェネラルとロードだけが残ったのだった。
「疲れましたぁ~」
「あと一息だ」
「それが、ポーションの残りがなくって~」
「へ~、それは大変ね。私たち王都でたんまり買い込んできたからあげるわ」
MP切れで下がろうとした魔法使いにポーションを渡して留めるマディーナ。うわっ、滅茶苦茶嫌そうに飲んでやがる。
「これで、ジェネラルなら相手出来るわよね。足止め頼んだわよ」
それだけ言うともう1体のジェネラルに駆けていくマディーナとベイリス。
「チッ!しかたないですね~」
今こいつ舌打ちしやがったな。しかも、慣れてやがる。
グウォォォォ
剣を構えてロードが襲い掛かってくる。しかし、こっちはすでに何人もいる。俺を先頭にやや下がって2人、さらに後ろからも援護できる態勢だ。
「はっ!せやっ」
いくらオーガロードといえど、攻撃を無視する訳にはいかない。俺だけに集中できない今、全力で向かって来れない相手の攻撃を防ぐぐらいは訳がない。
「ベイ!」
「ああ!」
後ろではベイリスたちが1体のジェネラルを倒していた。残りの1体もすぐに片付くだろう。
「残りはお前だけだぞ」
そしてとうとう、戦場に立っている魔物はオーガロードだけとなった。相手も覚悟を決め俺に向かってくる。
「甘い、ベイリス!」
「はいっ!」
ベイリスが後ろから飛び上がり攻撃を仕掛ける。それをロードは左手の小ぶりの剣で防ぎ、直ぐに俺に注意を戻して剣を振るった…筈だった。
ギィン
その金属音は俺のハルバードとオーガロードの剣ではなく、同行していた重戦士のものだ。ベイリスが攻撃を仕掛けた瞬間に俺は横に飛び、後ろにいたやつと入れ替わったのだ。
「あばよ!」
驚き口を開けたその顔めがけて全力でハルバードを投げる。さしものオーガロードの皮膚も口、しかも大型の武器の直撃には耐えられず、頭部を貫き体がその場に崩れ落ちた。
「や、やった!やったぞ!オーガロードを倒したんだ!」
誰かのその言葉で場は一気に喜びに包まれた。
「やれやれ、後処理があるんだがな」
「しょうがないわよ。強敵だったんだから」
ちらりと場を見渡すと1人ぺたんと座り込んでいる奴がいた。
「どうした?腰でも抜けたか?」
「魔力切れです~、ぺんぺん草も生えないぐらい疲れました~」
「そりゃ頑張ったな」
「そうね。Bランクでしょ貴方?中々やるじゃないの」
「はぁ?お前Bランクだったのか。てっきりAランクだと思って任せたのによ」
「ひっ、ひどいですぅ~。ちょっと前にBランクに上がったばかりですよ~」
「いいじゃないの。ジュールさんにAランク並みの評価をもらえたんだし。ねぇ、アマンダ」
「私のこと~知ってるんですかぁ~」
「もちろんよ。王都でも珍しいソロの魔法使い。しかも、若干24歳でBランクまで上がるぐらいだもの」
「チッ、歳は言わなくて良いだろ…。マディーナさんに知ってもらえて光栄です~」
「お前いい性格してるな。だが、過剰に負担をかけていたのは悪かった。アルバに来ることがあったらお詫びにいくらでも食わせてやるよ」
「いくらでも、ですか~」
「おう!まあ、お前の食う分位知れてるだろうからな」
「うれしいですぅ~、絶対行きますから~」
この時こいつの目が光ったことに俺は気が付かなかった。そして、マディーナたちのあ~あという言う顔にも。
「さあ、一旦撤収だ。その辺の回収とかを済ませるぞ。素材なんて後だ、まずは身の安全を確保だ」
「「おお~!」」
こうして、ゲンガル南の森で行われた緊急依頼は死亡者5名、軽傷21名、重傷8名という結果に終わった。この内、軽傷者4名と重傷者1名は討伐後の負傷だった。森から川に戦局を移した後も戦闘が続いていたのだ。オーガロードを倒してもそもそも指揮系統があいまいなため、戦闘が終わらなかったのだ。
「ジュールさん、本当にもう帰っちゃうの?」
「ああ、パーティー出たくないわけじゃないが、これでも一応アルバを任されてるからな。長く空ける訳には行かない」
「そっか。またね」
「またって、アルバに来る用事があるのか?」
「野暮用だけどね。1週間ぐらいしたら行くだろうから、鳥の巣ってところに連絡しといてよ」
「分かった。じゃあまたな」
こうして俺は討伐後、1日を置いてアルバを目指した。
「それで、なんでついて来てるんだアマンダ」
「ええ~、お礼の話は嘘だったんですかぁ~」
「嘘じゃないが、別についてこなくてもいいだろ?」
「いえ~、パーティーとか苦手ですし、ついて行きますよ~」
「それは良いが、ショルバまではろくな道がないぞ。ついてこれるのか?」
「大丈夫ですよぉ~、フォア」
土の魔法を使うと滑るように動き出すアマンダ。これならついてこれるというか俺より早く動けそうだ。
「しょうがねぇなぁ。だが、宿は自分で取れよ」
「それぐらいなら、構いませんよ~」
おっ、意外だな。たかってくるって思ったが…。そしてうるさいながらも面白い旅を終えてアルバに帰ってきたのだが…。
「ジュールさん!こんな長期に渡ってギルドを空けるなんて…ってその子なんです?」
「おばさん、ここの偉い人なの?ごめんねぇ~、ちょっと一緒にゆっくりしてたら時間かかっちゃったの!」
「こ、こら、おかしなことを言うなアマンダ。違うんだ、ホルン。王都に行ったらオーガロードの討伐依頼があってな。それで今までゲンガルにいたんだよ」
「ええ、それは王都からの手紙で知っております。ただ、こんな小娘を連れ帰るとは書いてありませんでしたが…」
バチバチとホルンとアマンダの間に何かが見える気がするが、とりあえずそれは置いておこう。書類が貯まっているはずだと思いそのまま部屋に行く。
「ん?書類は?」
おかしいと思いながら机の周辺をごそごそしていると下からホルンたちが上がってきた。
「書類関係なら処理しましたよ。きちんと王都の連絡の中に大変だろうからその間、代わりに書類仕事をしておいて欲しいとありましたし」
「そんなことを言ってもお前も仕事があるだろう」
「まあそうですけど、人の命を守るために働いてるマスターの力になるのは当然ですよ。どうせ、独身で暇もありますし」
「へ~、おばさん独身だったの?そりゃあ、暇よね~」
「えっ、ええ。で、あなたはどうしてここに?部外者立ち入り禁止ですよ」
「私、関係者だから。ジュールさんに養ってもらうんです」
「は?ジュールさん、本当ですか?」
「ああ。まあ、飯をおごってやる話はしたがな」
「そうなんです!そ・れ・も・ずっとですよ~」
「お、おい。そこまでは言ってないだろ?」
「ええ~、いくらでも食べさせてやるって言いましたよね~」
「待ちなさい!あなたそんな上げ足を取るような真似をして、恥ずかしくないの?」
「でも、私はそういう意味ととらえましたし~。しかも、ジュールさんなんですよ」
「俺がどうかしたのか?」
「またまた~、この国で最年少の冒険者ギルドマスターにしてAランク冒険者ですよ。若い・強い・権力!この三つが揃っている人からのお誘いは断れませんね~」
「なっ!そんな理由なのあなた?」
「いけませんか~?それとも、ホルンさんってジュールさんの恋人だったり?」
「ち、違うけど…」
「じゃあ、問題ありませんね!別に愛人枠とかでもいいですよ。相手はエリート中のエリートですからね!その辺は私もわきまえてますから!」
「ちょっ!それなら、私が本妻でしょ!?いくら何でも出会って数日のあなたに愛人扱いされるのは気に食わないわ」
「うう~ん…でも、こういうのって申し込み順じゃないんですか?」
「あのね!私がいつから色々気を配ってきて、それとなく頑張って来てたと思ってるの?大体、そんな詐欺まがいの方法で私の3年半を無駄にされてたまるもんですか!!」
「あのな、2人ともちょっと落ち着いて…」
「マスターはちょっと外出てください!」
追い出された俺は所在なく下に降りる。
「あれ?マスターどうして下に?折角帰ってきたんですからゆっくりしてくださいよ。ホルンさん頑張ってたんですから。港町バーバルからレディトまでの護衛依頼の相互乗り入れ化とかの書類も完成させてましたし!」
「あれをか!?ひと月ぐらいかけてやろうと思ってたんだが…」
「これも愛のなせる業ですね~。あっ、私が言ってたことは秘密にしてくださいよ。ホルンさんそういうところは乙女なので」
それから幾年…。
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「ほら、ウルス。第二夫人のアマンダですよ~」
「こらアマンダ!ウルスにばっかり構わないの。この前、あなたの前でこの子を抱いたら泣き出したの忘れたの?」
「ホルンさんが中々お仕事辞めないからですよ。折角やめるいい機会だったのに…」
「そんなこと言っても抱えてる冒険者もいるし、そう簡単にはいかないの。新人の教育だってあるのよ?」
「仕事熱心なお母さんでウルス君は困っちゃいますね~」
「あ~あ~」
「言ってる側から…大体あなた、私が妊娠してる間に『今が私のチャンスだ!』とか言ってたじゃないの、そっちはもういいの?」
「まあ、何とかなりますって。それに、こんなにジュールさんの面影がある子を産むか分かりませんからね~、ウルス~」
「はぁ、全く。それだけジュールが好きなのによく私に妻の座を譲ったわね」
「あはは。そこは分かってますから。勝負してもあの時、ホルンさんが言った通り私には積み重ねがありませんからね。2人を見てこういうカンケイでも行けるって思ったからそうしたまでですよ。より成功率の高いものに賭ける。冒険者の心得ですよ~」
「何2人で話してるんだ?」
「2人目はどっちになるかの話ですよ~」
「は?昼間っからなに話してるんだお前らは?」
「ち、違います!もうっ、アマンダったら…」
「ええ~、いいじゃないですか~。私たちもいい年ですし、のんびりはダメですよ~。アルゼイン建築のシュタッドさんのところのフィーナちゃんはもう二人目ですよ」
「あっちは若いからなぁ」
「むっ。なら、こっちは倍いますからね!負けないわよ、アマンダ」
「ホルンさんって変なところで対抗意識燃やしますよね」
「いや、だから俺の意思は…」
「またそんなこと言ってジュールさんってば。ホルンさんとは久しぶりでしょ?行きましょ~」
「お、おい、仕事がまだ残って」
「そんなの新しく来たサブマスターに任せればいいんですよ。キリキリ歩いてください!」
そんなあわただしくにぎやかな毎日が過ぎていく。
「なぁ、あんたもこんな生活が欲しかったのか?」
そうつぶやいた彼の言葉は青い空に吸い込まれていった。
番外編は精々7000字の前後編。そう思っていた時期が私にもありました…。これもオーガ力のせいですね。




