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出発の準備

オーガたちを倒した私たちは牙と角を取って埋める最中だ。


「そっちの剣はどうだい?」


「なまくらとは言いませんが、鉄の塊ですね。これじゃ何も切れませんよ。オーガの力があってこそですね」


「一応持ち帰るかね。弓の方は?」


「私じゃ全く引けません。いい弓かもわからないです」


「ちょっと貸してみな」


弓をジャネットさんに渡すと落ちていた矢を拾って矢をつがえる。


「うわっ、なんて重さだい。どうやって作ったか知らないけど、これはこいつらのもんだね。あたしでも狙いをつけるのがやっとだよ」


試しにジャネットさんは矢を放ってみるけど、明後日の方向に飛んで行った。ただ、そのスピードはとても速かった。


「焼いちゃいますか」


魔物にしか使えないけど、拾って使われると厄介なので弓は焼却。こん棒はいらないのでオーガと一緒に埋めた。

依頼のリラ草も80本ほど採ったので十分だと思って、切りもいいので帰ることにした。


「ブルーバードを倒したのはよかったけど、こんなことなら討伐依頼も受けてくりゃ良かったね」


「そうですね。ゴブリンとかも結構倒しましたし、出ると分かってたら受けたんですけどね」


短期の滞在中に受ける依頼は達成が可能なものに絞るのでこういうことになるのだ。まさか、ゴブリン退治のために2日滞在を伸ばすとかできないからね。なんせ5体で銀貨1枚。1体当たり大銅貨2枚ほどだ。亜種といっても他の魔物ほど手強くなるわけでもないので、せいぜい2体分。今回なら18体でも銀貨5枚前後だ。さらに、取れる素材がない。


「でも、オーガはともかくゴブリンじゃ、金貨1枚にもなんないでしょ?」


「多分、銀貨5枚ぐらいだと思う」


「そのために2日滞在したとして、手元に残るのは銀貨2枚か笑えないね全く」


ジャネットさんも同じようなことを考えていたみたいだ。それなら、リラ草を採った方がギルド的にも私たち的にもうれしいというものだ。


「さて、引き上げるかね」


埋め作業も終わり、ギルドに向けて来た道を戻っていく。一応、ちょっとでも薬草が採れるように帰りは先に渡河して町へと戻る。


「こっち側もこの辺はあまり採られてないみたいだね」


「さっきの襲撃もあったし、森からこっちに魔物が来ることもあるんじゃないかな?」


「そっか、オーガがやってくるなら普通の人には無理だよね」


「そういうことだね。リラ草じゃ、Dランク位の冒険者は中々採らないだろうしね」


リラ草はポーションの材料になる有用な薬草だけど、その辺の草むらや町の近くにも生えているので買取価格は安い。品質が悪いと束で銅貨数枚にしかならないのだ。このため、Dランク位の冒険者になると討伐依頼の方が儲かるのでどんどん受けなくなってしまう。私は採取が上手い方だからたまに採ったりするけど、それでも買取価格の高いムーン草とかが中心だ。


「採取といっても見張りもいりますしね」


「まあ、Dランクにもなってリラ草の収入を当てにしないと生活できないっていう見栄が一番だろうけどね」


「私、Cランクでも採り続けてますけど…」


「アスカは採取上手いだろ?ジェーンだってCランクなのに外に出る時は、ほとんど採取目当てだったしな」


「アスカ、こっちはもういいよ。そっちは?」


「もうちょっと待って、元気のないやつを避けてたから」


群生地は大事にしたいからいい奴だけ取って、微妙なのは残していく。こうやっても種さえ芽吹けば次は良いのが生ることは実証済みだからね。こうして、追加のリラ草とシュウ草を加えてギルドに戻った。


「いらっしゃい。あら、採取をお願いした冒険者たちね。どうだった?」


「散々だよ。薬草は採れたけど、ゴブリンやらオーガやら。こんなことなら討伐依頼も受けとくんだったよ」


カウンターが空いているので、パーティーで進んでジャネットさんが感想を言う。


「討伐依頼は事前依頼ですからね。でも、オーガですか。珍しいですね」


「ん?ゴブリンと一緒にいっぱいいるんじゃないのかい?」


「森にはそれなりに確認されていますが、入ってはいないんですよね?」


「そうですね。入り口近くでゴブリンに見つかってそれで匂いにつられたって感じです」


簡易地図も使ってお姉さんに説明する。


「ん~、後でギルドマスターに報告しておきます。オーガが森で目撃されることは多いんですが、手前に上位種や亜種が確認されるのは年に数回なんです。それも、単独で目撃されるのがほとんどで、興味本位で出てきたんだろうというのがギルドの見解なんです」


「今回は普通に集団。それもパーティーだったね」


「ええ、それは見過ごすことが出来ません。もしかしたら、ロードの可能性もありますから」


「ロード?」


「はい。ゴブリンロードにオークロードにオーガロード。住居型の魔物の代表的な存在です。各種の上位種や亜種をまとめて数百にもなる集落を形成する魔物です。発見が遅れれば遅れるほど集落が大規模になるので、厄介なんです」


「それが事実ならいい奴らを紹介できると思うよ」


「本当ですか!?まだ、調査の段階ですがよろしくお願いします。出来ればあなたたちにも滞在していただければ…」


「そいつはちょっとね。こっちも予定があるし、集落があるかは決まってないんだろ?」


「そうですね…紹介の方はよろしくお願いします」


その後は普通に清算をしてギルドを出る。


「いいんですか、要請断っちゃって」


「良いも何も、今から調査とその結果待ちだろ?早くても3日はかかるよ。そこから討伐依頼を出して実際に冒険者を集めるなら早くて1週間、遅けりゃ2週間だ。その間ここに缶詰めだよ」


「それは嫌ですね」


「だろ?何、いい腕のやつを紹介してやるから安心しなって」


明後日には旅を再開するので、調査依頼も他の冒険者に任せるということで意見も一致して宿で休んだ。明後日に出発というのも調査が終わってしまえば緊急依頼が出されてしまうかもしれないからで、出てしまうと対象の冒険者は町を動けないのだ。普段、町への通行料などを免除されている代わりに、ギルドから要請があればそれに従うのが冒険者の義務だからだ。


「緊急依頼が出されたら間違いなく、町を出られないからねぇ。アスカもリュートもCランク。そんであたしはB

ランク。どう頑張っても動けないね。受けられる依頼も町周辺になっちまうし、帰ってこなかったらペナルティもつく」


特にハイロックリザードの討伐実績のある私とジャネットさんは前線に行くことになるだろうという見解だ。私としては町の人の安全にもつながるので、町に残ってもいいのだけど、流石に2週間も留まるのはちょっと避けたい。ジャネットさんが討伐向きの人を手配するってことみたいだし、今回はその人に任せてしまおう。


「懸念事項もなくなったし、ご飯ご飯」


時間になって食堂に下りると人がたくさんいた。


「ええっ!?どうしてこんなに…」


「あっ、リュート君いつの間にか帰って来てたのね。昨日のメニューどれか作れる?」


「ざ、材料さえあれば…」


「お願い!どれか作って。もうさっきからお客さんがうるさくて…」


「そんなこといっても、別に限定メニューって書いてなかったじゃないか!」


「いえ、ちゃんと試験メニューって言いましたよ」


「いいから、出してくれよ。材料はあるんだろ?」


「こんな調子で…出来る?」


「照り焼きならそんなに時間がかかりません。すぐに行きます」


「リュート頑張ってね」


「まあ、うん」


リュートを見送ると私たちも席につく。と言ってもこの調子だと中々出て来そうにないけど。


「どうする?別の店に行くかい?」


「そうしましょうか」


座ったのは良いものの料理を注文している人は少ない。ここからリュートが作るとしたら、私たちまで順番が回るのには1時間ぐらいかかりそうだ。大人しく外に出るとその辺の店に入る。


「いらっしゃいませ」


「おすすめのメニューを2人分。片方は大盛で」


「はいよ!」


威勢のいい掛け声とともにおじさんは奥に引っ込む。10分ほどで料理が出てきた。


「これは?」


「オークとブルーバードの煮込みだよ。野菜もたっぷりだからうまいよ」


要はベーコンとチキンのポトフだ。でも、肉はそのまま入っているらしくあまり味が染みていない。


「どうだい?」


「うう~ん。せめて、肉が塩漬けならもう少し味が決まると思うんですけどね…」


「へぇ~、お嬢ちゃんの地方じゃそうするのかい?」


「あっ、すみません」


「いやいや、うちもそこそこ人気はあるんだが、名物料理みたいなのがなくてね。それで?」


「そうですね。私も料理はあまりしないんですけど、塩漬けにしてそれを洗い落としたものとかを入れた方がおいしくなるんじゃないかなって。肉に味が染みてないみたいなんで」


「なるほどねぇ。その肉はこれ以外にも使えるのかい?」


「はい。塩分が多いので取り過ぎはよくないですけど、焼いたりしてもお酒に合うと思いますよ」


「ふんふん。今度試してみるか」


おじさんとやり取りをしてパンを食べる。


「あれ?ちょっと柔らかい…」


「どうだ、うちのパンは?南のラスターク領から仕入れてるんだ。高いけど、品質は最高だよ!」


「美味しいです。やっぱり寝かせてるんですか?」


「寝かせる?いや、混ぜたらすぐに焼いてるが…」


う~ん、酵母とかは知られてないのかな?でも、これについては私もよく知らないししょうがないか。


この店はこの言葉をヒントに一晩寝かせて空気中の酵母で発酵を促す方式を取り入れ、人気店になる。特に冒険者に人気でその理由は発酵度合いが安定せず、味や柔らかさが安定しないことだった。それを話のタネにする冒険者が多かったのである。また、名物となったポトフの味が良く、パンが失敗でもおいしく食べられることも人気の秘密だった。


「食事も済んだし、帰るとするか」


時刻は19時過ぎ、まだまだリュートは大変だろうけど私たちはゆっくりすることにする。


「そういえば、魔物の報告に夢中でブルーバードの討伐報告だけで薬草を買い取ってもらってないよね」


「そうでした。明日行ってきます」


「そうしなよ。ついでにリュートの分も持って行ってやりな。疲れてるだろうから」


「ですよね。戻ってきたらそうします」


宿に戻ると厨房で忙しくしているリュートに一言行って部屋に戻る。リュートが薬草を持ってきたのはもう21時になろうとしたところだった。


「時間かかったね。ご飯食べてたの?」


「それは今から。一杯やって帰った人が道行く知り合いに声をかけて大変だったんだよ。いつの間にか限定メニューにされててね」


「良く材料が持ったね。それ用に宿は用意してなかったんだろ?」


「今日もブルーバード仕留めましたよね?そこからですよ」


「なら、パーティー用に確保してたって追加で金もらっときな。それぐらいは働いただろ?」


「そうします。はぁ、アスカ悪いけどよろしくね。明日は昼近くまで寝るよ」


「分かった。お疲れ様」


「うん、それじゃ」


お疲れのリュートと別れて、私たちはそのまま寝る。明日がこの町滞在の最終日だ。忘れ物の無いようにしないとね。




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