依頼と魔物
「アスカどうしたの?」
「多分魔物。小さいからブルーバードだと思う」
「位置も分かるかい?」
「はい。あっちの川岸です。数は……三羽ですね」
「あたしたちが動くとばれそうだね。前みたいにひとりで行けるかい?」
「やってみます」
私は弓に持ち替えると矢を三本つがえる。風の魔力を付与して空から一気に狙うつもりだ。ある程度近づいたところで、ジャネットさんとリュートには撃ち漏らしの対応を任せ、私は矢に集中する。
「まずは空へ……」
空へ向けて矢を放つ。このまま上空から一気に急降下させて狙う算段だ。
「風よ」
矢に魔力を送り、ブルーバードを狙う。でも、離れているから細かい狙いまでは付けられない。
三羽のうち二羽には当たったものの、一羽には当たっていないようだ。
「リュート!」
「はい!」
岩陰にいたジャネットさんたちが岩に乗ってすぐさま投擲する。しかし、一足早く無傷のブルーバードが空を飛んでこっちに魔法を放ってくる。
「ウィンドウォール」
相手の魔法を風の壁で防ぐ。しかし、向こうも必死で攻撃してくるので反撃できない。
「リュート!」
「分かってる!」
こっちに攻撃が集中している間に、リュートたちに攻撃してもらう。標的がいつもより小さいので手間取ったけど、何とか倒すことが出来た。
「ふぅ、やっぱり小型の魔物は面倒だね」
「ですね。リュートそっちは?」
「魔石が一つだね。ちょっと大き目かも」
「良かった。大きいのは町でも買うと倍ぐらいしちゃうからね」
「こっちは普通のが一つだね。後は肉か、リュートやるよ」
「はい」
二羽から魔石が取れたので成果は上々だ。川も近いし、すぐに解体してマジックバッグに入れる。
「よし、んじゃまた出発だね」
河原をそのまま南下していくと、西側に川が見えた。
「本当にこっちの方が川幅広いんですね」
「みたいだね。どうする? 北側か南側か」
「折角ですし、南側に行きましょう!」
合流しているのかと思いきや、別の水源があるみたいで川は繋がってはいない。でも、川幅が広いので魚もたくさんいそうだ。
「アルナもこれたらよかったのにね」
釣り好きのアルナのことだから張りきっただろうな。そんなことを思いながら進んでいく。
「お~い、そっちはどんな感じだ?」
「こっちも群生してますね。あんまりここまでは人も来てないみたいです」
「まあ、リラ草のためにここまで来ることもないのかね。見張りは任せときな」
ジャネットさんが見張りを買って出てくれたので、私とリュートが川に沿ってリラ草を摘んでいく。途中にはシュウ草も生えていたので、ついでにそちらも採取する。
順調に採取していたけど、やはりここまでくると魔物も見逃してくれないみたいだ。
《ゴフッ》
「うげっ、見つかっちゃったか」
「どうやら南にある森から来たみたいだね。迎撃するよ。最初はあたしが突っ込むから、すぐに用意しな」
こっちに目を付けたのは二匹のゴブリンだ。でも、アルバ周辺では三匹一組だったから恐らくすぐに増援が来るだろう。
私とリュートは採取をすぐに中断して、装備を整える。こっちが平地で向こうが森なので、弓ではなく杖に持ち替える。こっちを見てるゴブリンはこん棒持ちが二匹だ。
「あっちも待ってくれてるみたいだし、こっちも準備はいいかい?」
「大丈夫です」
二分ほど待機すると、森の奥から増援のゴブリンがやって来た。予想通り、アーチャーやメイジなど後衛も引き連れている。
「あちらさんには悪いが、さっさとやらせてもらうか」
「出口のすぐ先にウィンドウォールを張ります」
「了解。聞いたね、リュート。ヘマするんじゃないよ」
「はい!」
向こうが来るのに合わせてこっちも一気に距離をつめる。ただし、こちらは風の壁を張っているのでリュートとジャネットさんは左右に分かれて行動する。後は私が狙われた方へアシストに入るんだけど……。
「う~ん、半分ずつぐらいかぁ。もっと、目に見えて別れて欲しかったな」
そうすれば片方に支援の魔法を集中させられるから楽だったのに。これだと、双方に援護をしないといけないから細かいことが出来ない。
「ま、しょうがないよね。ウィンドカッター!」
ひとまずどちらにも援護できるように風の刃を作り出して空中に留める。こういう時に魔力操作のスキルは便利だ。
リュートに聞いたら、普通は魔法を使ったらそのまま滞空させたりするのはかなり難しいとのこと。滞空させるにしてもその場で留まるのではなく、常に動かしていないと駄目らしい。
「アスカ、援護を!」
「オッケー、リュート」
そうこうしている間にもゴブリンたちは攻撃を仕掛けてきている。リュートの方はアーチャーが四匹と、こん棒や剣を持ったものが五匹。ジャネットさんの方はメイジが四匹と槍を持ったものが五匹だ。
「行くよ! 風の刃よ、舞え!」
滞空させていた三本の刃をアーチャーに向かって放つ。遠距離さえどうにかしてしまえば、槍を使うリュートが近接で手間取る理由はないからだ。
森に隠れている二匹は足を、向かっていたものは首を落とし倒す。これで、次の矢を射るまでは時間を稼いだのでもう大丈夫だろう。
「ジャネットさん、そっちは?」
「ん~。まあ、あったら嬉しいかね」
そういうジャネットさんは、メイジの攻撃を槍使いのゴブリンを射線上に誘導することで防ぎ、優位に進めていた。
「はっ!」
そうして槍使いのゴブリンが一匹となったところで、私はメイジを攻撃する。ゴブリンメイジは魔力が低いため、直線にしか魔法を放てないので、アーチャーみたいに木の裏から狙撃なんてことはできない。間に守る存在がいなければ簡単に狙えるのだ。
《ギャッ》
身を乗り出していた三匹を倒し、残るは槍使いが一匹とメイジが一匹だ。
「後はこっちでやるよ」
ジャネットさんはそういうと、残っていた槍使いを両断し、剣を左手で持つとすぐさま右手でナイフを投擲してメイジの頭に突き刺した。
「終わりましたね」
リュートも最後のゴブリンにとどめを刺してこっちへ来る。
「怪我はないかい?」
「大丈夫です。矢が一本近くを通りましたけど……」
「ん?」
よく見ると、防具の隙間からちょっとだけ血が見える。運悪く矢羽根か矢の先端がかすめたみたいだ。戦闘中ということもあり、リュートも気付かなかったみたいだ。
「ほら、怪我してるよ。ウォームヒール」
「これぐらい、いいのに」
「ま、ゴブリン相手に怪我したなんて不名誉だろ。治してもらっておいて損はないよ」
いくら下位の魔物でも怪我をする可能性がないとは言えない。しかし、いくら相手が十八匹もいたとはいえCランクの冒険者が、ゴブリンに怪我を負わされるというのはあまり良いことではない。
回復魔法が使えないパーティーではわざわざそのためにポーションを使うこともあるらしい。
「それにしても気付かなかったよ。良くアスカは気づいたね?」
「まあ、目線の先だったし」
腕の上の方だったけど、出会った頃は私とほとんど身長が変わらなかったリュートは、今や頭一つ分ぐらい私より背が高い。だから気づいたのだ。でも、これを言葉にするのはちょっと悔しい。
この世界は女性でも百七十センチぐらいが普通なのに私はまだ百五十五センチぐらいなのだ。シャスさんからはもうほとんど伸びないって言われたし、コンプレックスなんだよね。
「リュートも怪我には気を付けな。矢傷は毒とか塗られてると後々大変だよ」
「そうですね。今後は気を付けます」
「それじゃあ、埋めちゃいましょうか」
ゴブリンが持っていた武器は捨てられたり、冒険者を倒して手に入れたものだ。手入れもされておらず、錆も多いから売れる物も少ない。剣や斧は売れるけど、それも武器としてではなく鉄を得るためだ。
細工の材料としても使えないことはないんだけど、ちょっと面倒だ。結局、錆の部分は捨てないといけないから大変なんだよね。
「武器はどうする?」
「こん棒とかは埋めて、剣ぐらいかね。弓は?」
「駄目ですね。こんなの引かせたら変な癖がついちゃいます」
「まあ、見た目から期待してなかったけど、それなら一緒に埋めとくか」
武器も埋めておけば安全になるからね。錆びついた武器とはいえないよりはまし、それどころか錆が身体に入って悪くなることもある。いらないけど処理は必要なんだ。
「それじゃあ、パパッとやっちゃいますね」
風魔法で穴を掘って、そこにゴブリンと不要な武器を入れていく。リュートも手伝ってくれてすぐに終わった。
「ふぅ~、これで終わりかな~。ん?」
「どうしたんだいアスカ?」
「来ちゃったみたいです」
「はぁ~、相手は?」
「大きいのでオーガだと思います」
「押し返してやりたいけど、そういう訳にもいかないか」
森に棲む魔物は森に押し返すのが最低で、出来れば出てきた奴は倒しておきたい。そうすることで行動範囲を限定させ、近くに来る冒険者の安全が確保できるのだ。
「アスカ、数は五体で合ってる?」
「うん。どうする? 入り口に行く?」
「いや、平地の方が……でも、アーチャーがいたらどうしよう」
「あいつらは好戦的だから前衛が出てくる。そうなったらアーチャーも出ざるを得ないだろう。そこを側面からリュートが叩く。いいね?」
「分かりました。それじゃあ、リュートはこっちね」
リュートを後ろに下げると、装備している土の魔道具を使って穴を掘る。リュートにはここに入ってもらって、急襲してもらうのだ。
「合図するまでそこにいてよ」
「合図は?」
「ファイアボールで!」
「分かったよ」
リュートを隠して私たちはオーガの集団に立ち向かう。ゴブリンの血の匂いに引き付けられ、真っ直ぐこっちに向かってくる。そこで私たちを見つけると、これ幸いと一気になだれ込んできた。
「はんっ! 体が丈夫だからって頭を使わないとね」
ジャネットさんが余裕をもってオーガを迎える。相手は素手とこん棒と剣を持っている三種類だ。前の二体は恐らく普通のオーガかウォーオーガで、その後ろがオーガバトラーだろう。
川沿いはゴブリンが多いのかと思いきや、これだけの上位種や亜種がいるのは、初心者には危機的状況だ。
「そらっ」
ジャネットさんが一体のオーガの腕を落とし、剣使いと切り結ぶ。そこへ私が魔法で援護する。
「ウィンドカッター!」
まずは手負いの一体と切り結んでいるオーガに攻撃を加える。しかし、やはり剣を持っている方は上位種。ジャネットさんと距離を取ると、風の刃を剣で薙ぎ払う。
普通の人間なら力が足りないか、切った刃が体に当たって大怪我をするのだけど、皮膚の硬いオーガはその程度の刃だと致命傷にならないから出来ることだ。
「アスカ!」
「はい! ウィンドウォール」
ジャネットさんからの合図ですぐに風の壁を作る。後ろに控えていたうちの一体が少なくともアーチャーの様だった。壁に阻まれ、ものすごい威力の矢は何とか地面に落ちた。
「行くよ、リュート。ファイアボール」
リュートへの合図も兼ねて、後ろに下がったオーガに火の玉をぶつける。これもさっきと同様に切られてしまうけど、風の刃と違って火が顔付近に当たり視界を遮る。
「もらった!」
その隙を逃さず、ジャネットさんがオーガを斬り捨てる。そして、それに反応したオーガの隙をついてリュートが穴から飛び出し、アーチャーに向かっていく。魔槍を投げる手もあるのだけど、皮膚が丈夫でそこそこ動きも早いオーガには防がれる可能性もあるからだ。
「ここっ!」
アーチャーが距離を取ろうとしたところで、リュートは風魔法を使い一気に距離をつめて魔槍を突き出す。予想外の行動に相手はろくに反応できず、そのまま胸を貫かれた。しかし、護衛役だったもう一体のオーガがすぐに反撃する。
「ケノンブレス!」
すかさずそのオーガに向けて風の魔法を放つ。かたい皮膚を貫き、腹に穴をあけるとオーガは倒れた。
「ナイス、アスカ」
そういうとジャネットさんは最後のオーガにとどめを刺す。
「ようやくですね」
「これ以上襲われないようにとっとと処理しちまおう」
だけど、素材もあるから埋めるのはその後だ。討伐依頼を受けていないから、素材を売らないとお金にならないしね。




