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工房主

「ここいらで一旦休憩にするか」


作業を見学しているといつの間にか昼になっていた。


「この間と違って、調味料はないですよ?」


「何だいそれ?」


「以前はリュートが来ていたから、干し肉用の調味液と私の魔法でちょっと豪華にしたんです」


「そういうことかい」


「心配すんな今日はリンクが作る」


「リンクさん料理できるんですか?」


「まあ、下働きも長かったからね。ちょっと待っててね」


リンクさんはそういうと厨房に行く。ただ、料理の下ごしらえはしてあるようで、手伝うようなことはなかった。


「集中してるとどうしても時間がずれがちだからね。朝から仕込んでおくのさ」


「ティタもひるたべる」


「ティタ、お腹空いたの?」


「うん」


「おや、そいつは?」


「私の従魔のゴーレムです。こう見えても強いんですよ」


「ははは、かわいいゴーレムですね。以前連れていた人のを見たことがありましたが、もっと大きかったですよ」


「魔法が得意なんですよ。ほら、ティタ。水出してみて」


「はい」


私が人数分のコップをティタの前に出すと、たちまちティタはコップを水で満たす。もちろん満杯にはしない。


「ほう?旅先で水が出せるのか。それは良いな」


「でも、食事に水の魔石が必要なんです。クズ魔石でもいいんですけど余ってませんか?」


「あるぞ。いいもん見せてもらったしやるよ」


「良いんですか?」


「ああ。どうしてもまとめて宝石なんかを買うと、使い物にならんものが混じるからな。その辺の細工屋ならいいんだろうが、こんな品質のを俺たちが出すわけにはいかないんだよ」


そういうとミュラー親方は奥から袋一杯の使えない魔石などの束を持ってきた。


「良いんですか?お代とか」


「いらねぇよ。こういうまじりっけの多いのは削っても、塗料にしてもムラが出るから溜まったら処分してたんだ。引き取りもゴミみたいな価格だから問題ない」


「ありがと」


「良かったねティタ」


「魔石以外にも混ざってるから、そこは見分けてくれよ」


「大丈夫です。魔石以外も好きですからこの子」


「いし、いっぱい。うれしい」


早速ティタは手のひら一杯に石を取ると、気に入ったものを食べ始めた。


「すげぇな。本当にそのまま食ってやがる」


「美味しいらしいですよ」


「というかゴーレムは話せるのですね」


「ちょ、ちょっと特殊なんです。秘密にしておいてくださいね」


「分かったよ」


午後からも親方の技術に感心しっぱなしの私はちょっと、成長した気がした。


「そういや、アスカたちはいつまでいるんだ?」


「あと3日ぐらいですかね?絵が描き終わるんで」


「絵?何でまた?」


「お料理屋さんに入ったんですけど、名前だけじゃわからなくて、絵を描くことにしたんですよ」


「絵を描くのかアスカが?」


「いつも、細工を作る前は絵を描いてからですからね。それなりに上手いですよ」


「にしたって描くものが違うだろ」


「この子は報酬を飯代でもらってるから余計に乗り気でね。お陰であたしたちも恩恵にあずかってるのさ」


「そういや、昼飯もがっついてたなぁ」


「がっついてません!おいしいからですよ」


「美味しいご飯というのはうれしいですが、あなたも苦労人ですね」


「分かるかい?あたしは量があればそれなりでいいんだけどねぇ」


「そんなこと言って、ジャネットさんも食べ歩いてるじゃないですか」


「ああ、うんまあね」


やれやれといった感じでジャネットさんが返事する。別に隠さなくてもいいのに…。


「今度またこの町に来る時があれば、弟子にしてやるぞ」


「ほんとですか?」


「ああ、もちろんだ。リンク、サボってるとすぐに抜かれちまうぞ。少なくとも俺たちは多重水晶は素人だからな」


「そうですね。目の前に目標が出来た感じですよ。他の工房相手ならともかく、外の人間に簡単に負けられませんからね」


「工房も名を売ることばかりじゃなくて、トータルの技術を磨くように言わんといかんな。得意な物だけ作れるんなら町の細工師でも出来る」


「そうですね。彼女はトータルで腕がいい。理想の工房主ですね」


「まあ、経験が少ないし、中々指名依頼は貰えんだろうがな」


「やっぱりキャリアって大事ですか?」


「もちろんさ。特にここの工房に指名依頼を出すってことは、商家か貴族だ。依頼の内容をすぐに理解して形にする力も必要だからな。そういう経験もなくちゃならん」


「うう~ん。私は気ままに作ってる方が性に合いそうです」


「そうか。まあ、気になったら来るといい。期間限定でも構わんぞ」


「そんなことして大丈夫なんですか?」


「もちろんですよ。ただ作るだけでも近くで見れれば勉強になりますからね。案外、期間を区切っている人の方が気になって見るかもしれませんよ」


「じゃあ、その時はお願いしますね」


その時には弟子が増えてるといいですね。私は夕方近くまで工房にお邪魔した。最後は工房で作ったものを見せてもらってお土産に2つ購入した。一つは親方がけがをする前のもので細かい中にも気品があるプルーンの花だ。花びらの陰影も表現されている、色がないのに色が分かるかのようなものだ。


「後はこれかな?」


「どうしてこれを?」


「やわらかい雰囲気があるので。贈る相手は新婚さんなので、こういうのがいいかなって」


2つ目はデイジーの花を模したものだ。ヒナギクって言った方が分かり易いかな?中央を囲むような小さい花びらが優しい感じだったんだ。


「中々見る目があるじゃねぇか」


「やめてくださいよ、親方」


「これ、リンクさんの?」


「ええ。お恥ずかしい限りです」


「恥ずかしく何てありませんよ。とってもかわいいです!」


「良かったな、リンク。俺以外の腕のいいやつに認められてよ」


「はい。私も今まで以上に頑張りますよ」


「体壊さないようにしてくださいよ」


「アスカにそれが言えるかねぇ」


「うんうん」


ティタまでそんなこと言って。最後はみんなで笑ってお別れだ。親方さんたちも忙しいだろうし、残りは宿や市をもう一回見て過ごそう。


「そんなわけでリベンジだよ、リュート」


「それは良いんだけど、入場料も払っちゃったし良いもの見つかるといいね」


私たちは再び細工市に来ていた。ジャネットさんはというと『入場料のかかる市より工房品を扱ってる店に行く』と言って別行動だ。私も覗いたんだけど、工房品とということと利益の上乗せでかなりの価格だった。ショルバ生産ということ自体がかなりのブランドになっているみたいだ。


「掘り出し物を見つけないとね。調べたら曜日によって担当する工房も違うみたいだし、きっと良いものがあるよ!」


「まあ、市も広いけどそれ以上に細工師が多いみたいだし」


「だよね~。やっぱり本場というだけあるよ」


早速市を見ていると、どうも今回は前回より地味なデザインが多いみたいだ。だけど、代わりに細工自体は細やかなものが多い。


「ん~、これとか良いかも」


前回は食指が動かなかったけど、今回はちらほら気になるものもある。でも、価格がちょっとネックだ。どうしても、普通の街より割高なのだ。


「そこはもうあきらめるしかないよね」


「だろうね。僕も色々調査したけど、観光地化からしばらくして割高になったみたいだよ。品質は良いみたいだけどね」


とりあえず、エレンちゃんとミーシャさん用に細工を買っておく。後はムルムルのは買ってあるし、バルドーさん用か。


「奥さんのはまあ私が作ってもいいし、お土産と言ったら売り物か~。う~ん。ちょっと地味な分、難しいな」


派手目なのなら、ショルバ産ということでパッと売りやすいんだけど、細かい細工は買い手の方にも知識がいるしなぁ~。アレンジするのはどうかと思うし…。悩んだが、そこそこ仕上がりもよく技術的にも良いものを数点選んだ。


「三点で金貨4枚と銀貨7枚だよ」


「カードでお願いします」


「はいよ、毎度あり」


後は工房の中でも有名なところの場所だけだ。前は貴族がいたから避けたけど、今日は時間も調整しているから見ることが出来る。さて、どんなものかな?


「お、おおっ!ほんとにすごい!!」


有名工房ってだけで、中身はどんなものかと思っていたけど、貴族が買いに来るだけのことはある。彩色があるものもないものも、とてもきれいだ。それに花を題材にしたものは花びらが動くと思えるものもある。


「うわ~、これなら私も欲しい」


「何だい、お嬢ちゃんこれがいいのか?金貨7枚だよ」


「う~~~、仕方ないか。見てよし、調べてよしだ!」


頑張って気に入った一つの細工を買う。高いけど、今の私には再現できないようなものだし、資料的価値も合わせればなんてことは…なくはないけど必要な経費だ。こうして当初の想定よりもお金は消費したものの、満足のいく滞在となったのだった。


---


「いよいよこの町ともお別れですね」


「ああ。そういや言わなかったけど、結局夕食は同じ店で食べて良かったのかい?折角、いろんな国の料理が楽しめたってのに…」


「あっ!そういえば、他の店に行きませんでした」


「ジャネットさんはたまに別の店に行ってましたよね」


「そりゃあね。何度も来るようなところでもないしね」


「はう~、折角の異国料理が…」


「まあ、元気だしなよアスカ。世界中を回るんだったらいずれ食べる機会もあると思うよ」


「そっか、そうだよね。うん!リュートは良いこと言う」


「それがいつのことになるかは置いておくとしてもね」


「も~、気を取り直したらと思ったら…」


「ははは。まあ、旅の醍醐味は成功だけじゃないからね。いいじゃないか。それで、次はどの街に行くんだい?」


「次はですね…ゲンガルの町です!」


「ゲンガル?そこから西に行っても港もないのに?」


ゲンガルはショルバから西北西に位置する街で、主だった産業はない。そこからさらに西に1日進むと海があるのだが、残念なことにそこは岩場や砂地の地帯。魔物も多く大きい港が作れなかったんだ。なので、王国の南側の地方はアルバ西のバーバルからレディト経由で王都ラングリスに向かうのだ。


「でも、ゲンガル周辺にはブルーバードが生息してますから。ティタ用の魔石も補充出来ますよ」


「ああ、そういえばいたね。でも、その後はどうするんだい?」


「そこから思い切って北に進んで、北方都市ラスツィアに行こうと思ってます」


「ラスツィア!?ゲンガルからなら4、5日かかるけど良いのかい?」


「はい。途中に小さいですけど村とかもあるでしょうし、何とかなりますよ」


「アスカの旅って僕が思ってたよりハードだね」


「リュートはどう思ってたの?」


「王都に寄らないまでも、街道を通って各地方都市を回るんだと思ってた」


「それだったら、別に旅の人に話を聞けばいいじゃん。私はみんなが目にすることのないものが見てみたいの!」


「やれやれ、うちのリーダーは困ったもんだ。リュート、ゲンガルでは保存食を頼むよ」


「了解です。それじゃ、次の目的地に行こうか」


ピィ


「ティタ、みずのませきたのしみ」


「ふふっ、ゲンガルはそんなに大きい町でもないし、2人とも窮屈にしなくていいからね」


ショルバは貴族もいるし、人通りも多かったから我慢してもらったけど、次は一緒にご飯を食べられるといいな。こうして私たちは新たな町に向かって街を出発したのだった。




これにて1章は終わりです。2章は冒険者チックを目指しています。

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