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多重水晶とメニュー表2

リュートの作った調味液と私の火魔法によって、生まれ変わった昼食を取ると、再び細工の作業に戻る。食事の途中でリンクさんも戻ってきたので、2人にもよくわかるようにしないとね。


「それじゃ作業再開しますね。最後の水晶の層は結構透明ですからアクセントになるのがいいと思ってます。折角、先の2つにバラの花を描いたので茎とかを描いてみたいですね」


「茎ですか…。描くのは良いとして透明度が高いと見えないのでは?」


「そこはこの塗料を薄めて作ったもので着色します」


色味もバラバラな鉱石や宝石から色別に分けて作った塗料だ。混ざりやすくするために粉々にしている。これを薄めて使えば、透けるような感じの色合いになるのだ。


「まずは内側をそーっと削って行って…」


「思っている以上に細かい作業ですね。あの専用の道具でなければ削れないでしょう」


「ですね~、私も最初に作ったものは簡単な図形しか出来ませんでしたし」


今回のものはバラと茎を使うので、外側の細工はあまり必要ない。ツタ状にするかどうかぐらいだけど、一応葉っぱを表現してみようかな?デザインも決まり細工自体は終わった。MPはと…ギルドカードを見ると残りは200ぐらいしかない。やっぱりこの細工にはかなり持ってかれちゃうな。 


「出来ました!」


時刻はすでに15時過ぎだ。朝からこちらにお邪魔して魔力も惜しげなく費やしたが、やはりかなりの時間がかかってしまった。まあ、2セット作ろうとするとマジックポーション必須だからこんなもんなんだけどね。


「これを後は組み上げていくのか?」


「そうですね。でも、難しいのがここからなんですよ。細工した溝が内と外でぶつかると削れちゃうのでそうならないようにするか、潤滑液で摩擦をなくすしかありませんからね。液も入れ過ぎると変なだまとかになりますし」


ここまで時間かけても入れていく段階で失敗が多いのだ。失敗作は使い回せないのが痛いところだね。


「それじゃ入れていきますね。まずは真ん中のやつに薄く潤滑液を塗って…」


ここでも専用の道具を使う。といってもはけの毛の部分を少なくしただけだけどね。作った時はどれだけ使うかなって思ったけど、線を塗料で塗る時や、こういう大量に塗りたくない時なんかにかなり役立っている。


「実際にここから入れていくんだな?」


「はい。集中するので見ててくださいね」


私はワンピースの魔道具に改めて魔力を通し、失敗しないように祈る。祈るのはもちろん私の尊敬している女神、アラシェル様だ。


「さあ、まずはこの魔石をこの青い水晶にはめて…。今度はそれを外側の水晶に…」


慎重にでも大胆に行う。変にゆっくりだと傷に繋がるのも大変なところなのだ。そして、何とかはめ込めた。後はイヤリングにするための金属部を付けておしまいだ。


「終わりです」


「見ているこっちも疲れたな。これは大変そうだな」


「ええ、ミュラー親方の言う通りですね。2重なら私も何とか作れますが、今すぐ3重には挑めませんね。練習しないと…」


「はめ込むのは慣れも必要ですからね」


「なあアスカ。この専用の道具は売ってるのか?」


「全部自作ですよ。流石にこんな形のは売ってません」


「それを作ってもらう…いや、登録することは可能か?」


「別に構わないですけど、いります?」


「ああ。これまで作っていたのは2重水晶だったろ?それなりに外側もサイズが大きいから、先だけとがったものなら細工が出来たんだ。だが、3重の真ん中になると中央部以外は彫れなさそうなんでな」


「分かりました。またリュートに頼むね」


「いいけど、今度は一人で行った方がいいかな?」


「ずっとついてきたら変に思われちゃうかもしれないし、お願いできる?」


「分かったよ。ところで、設計料はいくらにする?」


「う~ん、大したものでもないし、大銅貨1枚位かな?」


「あっ、もっと高くしておけよ」


「どうしてですか?」


「これが必要になるのは3重水晶が作れる技術があるやつだ。変に値下げてると勘違いした奴も作り出すし、残った鉄なんかで作ろうって鍛冶屋も出てくる。設計料を高くすればそれだけ失敗したものを回せんようになるから品質が安定するぞ。お前も、買ったやつを使う時に品質の悪いものをつかまされなくなるぞ」


そう言えば圧力鍋を作る時も使い方に注意がいるからわざと高めに設定してるって言ってたっけ。悩んだ結果、設計料は大銅貨5枚にすることにした。


「しかし、良いものを見せてもらった。今度時間がある時は俺の方が作るところを見せてやるよ」


「ほんとですか!」


「もちろんだ。といっても、普段から細工はしてるから何時でもいいぞ」


「じゃあ、また来ますね」


ミュラー親方とリンクさんに挨拶をして別れる。


「そういえばアスカ。せっかく作ったそのイヤリングどうするの?」


「そうだね~。別に予定もなかったし、置いとこうかな?次の納品の時の足しにしてもいいしね」


旅をしているとはいえ、2か月に1度はドーマン商会という取引している商会に数点作品を納めることになっている。向こうはレディトだから商人ギルドに預けて届けてもらうのだ。その代わり、その時に今まで商会に納品した商品の売り上げが振り込まれる。これまではずっと宿に泊まって、作るのにいい環境だったけど、旅に出てると野宿も多いし、集中できる環境は少ないので在庫にしようと思っている。


「折角、細工の町に来たんだからここで売って見ないの?」


「う~ん、私がこの町だとどれぐらいか分からないし、3重水晶は目立っちゃうからなぁ」


商会は基本的に仕入れの情報は隠してくれるけど、売るとなれば市場で露店売りだ。きっと入手経路とか聞かれるだろうし、こういう大きい町では避けたいのだ。


「もっと目立たないところで売るよ。それより、明日は食料品の市に行ってみない?」


「良いの?僕は行きたいけど…」


「でしょ?きっとリュートは気になってると思ってたんだ。私の知ってる食材もあるかもしれないし行こうよ!保存食ももっといいのが作れるかもしれないよ?」


「じゃあ、そうしようか。ジャネットさんにも夕飯の時に話をするよ」


「うん。それじゃ、私は一旦宿に戻るね」


「わかった。僕はさっきの道具を登録してくるよ。帰ってきたらまた報告する」


「よろしくね!」


宿の近くでリュートと別れて私は宿に戻る。


「ジャネットさん居ますか~。ありゃ、まだ帰って来てないんだね」


ジャネットさんはいつも私に食い意地が張ってるっていうんだけど、実は町に繰り出す半分ぐらいは飲食店に行っている。知らない間に行ってはお勧めの店と私に勧めてくるのだ。


「まだ食べ歩きか~。ティタもいないし、アルナはお友達と遊んでるだろうし、暇だなぁ~。折角だし細工でもしようかな?」


アルバと違って1人部屋じゃないし、気兼ねなく細工できる環境もあんまりないしね。そう思った私は早速細工道具を準備して取り掛かる。


「緑っぽい水晶が余ってるからトリムを題材にしようかな?」


金属の加工はMPの残りが少ないので難しい。水晶とかなら通常の細工道具で加工できるので、向いているのだ。


「マジックポーションを飲むって手もあるけど、材料費が高くなっちゃうしね」


多重水晶の練習に明け暮れていた時はよくやっていたけど、1本銀貨1枚だから原価に響くんだよね。水晶は言うほど高くないから、いくら技術料といっても限界がある。そこに銀貨1枚足しちゃうと、折角輸送費がタダだから安くなっているのが普通の値段になってしまう。


「ん、これで1セット完成と」


金属をちょっとだけ魔道具で加工して、削った石をはめ込む作業自体は慣れているのでそこまで時間がかからない。これも魔道具様様だ。ミュラー親方も魔力はほとんどないって言ってたから、私はかなり恵まれてると思う。


「アスカ、いる?」


「リュートおかえり。商人ギルドの方はどうだった?」


「うん。問題ないよ。それとはいこれ」


私はリュートから商会のカードを返してもらう。以前はお使いみたいな感じになってたから、使わなかったけど、今回はちゃんと準備しましたって体だ。これでこの前の私も登録が初めてだから商家の娘がちょっとついて来た程度に思われただろう。貴族除けのためならこれぐらいの策はめぐらすのだ。


「ありがとう。ジャネットさんはまだだけど、リュートはどこか行く?」


「うう~ん。この時間でしょ?行っても中途半端になるから宿にいるよ」


「そっか」


「アスカは?」


「細工してたところ。ほら見て。新作、って言っても金属の型にはめ込むだけだけどね」


「きれいな緑色の宝石だね」


「残念。これはグリーンスライムの魔石の欠片だよ。討伐に失敗して砕いちゃったものみたい」


スライム系の討伐はコアを破壊するか、コアを抜き取るか、コア以外を消滅させることで出来る。ただし、コア以外の消滅は難しい。また、コアを抜き取るといっても消化液のある体内に直接手を入れることは難しく、ランクの低いパーティーは通常核を狙う。この核は十中八九魔石になるのだけど、その為入手性が良くないのだ。ランクの高いパーティーは簡単に核を取れるけど、わざわざそこまで強くないスライムには構わないからね。


「グリーンスライムの魔石かぁ。最近値上がりしたし、生息地を見つけたら狙ってみてもいいかもね」


「そうだね。こっちとは反対側の町近くにいるらしいから、まだまだ先だけどね」


「そっちに行く予定はあるの?」


「どうだろ?折角だから、近くにあるゲンガルには行ってみたいけどね。ブルーバードって言う水の魔石を持ってる魔物が住んでるみたいだし」


「ブルーバードと言えば魔石だけど、水の魔法がちゃんと使えるのはティタだけだしどうするの?」


「ティタが魔石好きだから食べさせてあげようかなって」


「そっか。それもいいかもね。でも、今の場所から西に行くんじゃ、スライムは難しいね」


「まあ、結構市場には流れてるしいいよ」


それからしばらくして、ジャネットさんも帰ってきたので約束通り、昨日の店に食事をしに行った。


「いらっしゃ…あら、来てくれたのね。奥にどうぞ」


「はい!」


奥の席に通されると、料理が運ばれてくる。最初に来たのは昨日食べたケバブのような料理だ。


「それじゃ、約束通りメニューを描いていってね。食べながらでもいいわよ。お代わりもあるから」


そう言ってお姉さんは戻って行った。今は食事時だから忙しそうだ。私は早速スケッチブックを出して描いていく。普段から細工用に色鉛筆もあるので彩色もばっちりだ。さささーっと描き終えると食事に移る。そうしてその日は3品目の料理を食べたのだった。


「描けた絵を見せてくれる?」


「これです。こんな感じでいいですか?」


「まあ!上手く描けてるわ。これなら、メニューとして使えるわ。店長にも言っておくから明日もよろしくね。残念だけど、今日と一緒のものは出せないけど」


「分かりました。よろしくお願いします!」


タダでおいしいご飯も食べられるし、絵も描けるしで満足した一日だった。


「明日は食料市かぁ~、楽しみだな」



タイトルと内容が合わないことの解決策で2にしました。しかし、内容は掠る程度。早く次の町に行かないと…。



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― 新着の感想 ―
見本絵付きのメニュー、この店のメニューが現代のファミレスみたいになれば売り上げにもかなり貢献しそうですね。 実際、日本に観光で訪れる外国人でも「見知らぬ国で写真入りのメニューがあると凄く助かる!」と以…
[気になる点] ショルバでは、スクロール大銅貨二枚ぐらいとあったのてすが、今回は銀貨一枚と、値上がりしてませんか
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