第22話
「あら?アイラ様!どうなされたのです?いつこちらに?」
「先程ですわ。この前はせっかくお誘い頂いたのに、こちらの都合でお断りしてしまいましたから。今日はそのお詫びを兼ねて立ち寄ってみたのですけれど。急でしたわね?ご都合がお悪いようでしたら後日またお伺い致しますわ」
「いえ!アイラ様にそんな風に気にかけて頂けるなんて、光栄ですわ!」
この方は何も知らないのね。
自分の父親がなさっていることを。
・・・嘆かわしい限りですわ。
「そちらの方は?」
「私の護衛ですわ。この前は貴方にご心配をおかけしましたので、今日は女性騎手に護衛をお願いしたのです」
「そうなのですね?では、護衛の方も座って寛いで下さいませ。今、用意させますわ」
今頃、ヨシュア様とイノリはこちらに向かっている筈。
私達は今の内に少しでも有利な情報を引き出さねば。
事の起こりは数時間前に遡りますわ。
「・・・今すぐハイトさんに、この事を伝えて動いて貰います。相手に気付かれないよう内密に。その、青い花がどんな物かは分かりませんが恐らく早く解毒しなければ危険でしょう」
「・・・では、私はヨシュア様に事情を話しキルト様を助ける方法を探りますわ。後、お父様にもこの事をお伝えしなければ」
騎士団の方々は本当に仕事が早くて助かりますわ。
事態を把握してから行動を起こすまで、あっと言う間でしたもの。そして、ごめんなさいハイト様。
「では!私はアイラさんとサンチェスト領に行って来ますね?鎧貸して下さい!」
「「「は?」」」
「皆さんお忙しいですから人手不足でしょう?私アイラさんに張り付いてます!」
「・・・・ちょっと?ティファさん?」
「はい!時間ありませんよね?一刻を争います!では、解散!」
・・・・・ティファ。貴方それはワザとですの?
実はティファ、ハイト様にお仕置きされたいのでは?
もう、ハイト様の目が悟りの境地に達した眼差しでしたわよ?
「アイラさん。狙われているのはヨシュアさんですから、勿論貴方も危険です。それでも行きますか?」
「行きますわ。あちらが卑怯な手を使ってくるのなら、こちらもそれ相応の対応をさせて頂きます」
お兄様と鉢合わせする前に行かなければ止められてしまいますから、今すぐに動きますわよ!
そんな訳で私達はサンチェスト領まで乗り込んできた訳ですわ。
何故?あちらが人質をとったのです。
こちらも同じ事をしても、文句など言えませんわよね?
「そういえば貴方お一人なのですか?」
「ええ。母は今、ご友人のお屋敷に招かれて出かけております。何かご用事でも?」
「いいえ。そういえば最近全くお顔を拝見出来ておりませんでしたので・・・おかわりはなく?」
「・・・・ええ。特に変わりなく」
これは、元気ではありませんわね?
もしかしたらご夫人は、この事をご存知なのかしら。
あの花を他の地に植えて様子を見たとおっしゃっていたのですから、何年も前からあの花を利用しようと動いていたのですわよね?気付いていてもおかしくはないですわ。
「そういえば、この前は婚約者様とこちらにお見えでしたが、どこにお出掛けになられたのですか?この辺りは畑や牧場ばかりですから、特にご覧になられる物もなかったのでは?」
「そんな事はありませんわ。普段は街で暮らしておりますから、こちらは穏やかでのんびりと出来ますもの。あ、それに、あの山はとても綺麗でしたわ・・・」
あら?
急に顔色が悪くなりましたわね?
あの山はこの土地の者にとっては昔から有名なのでしょう?こんな風に話のネタに出てくる事など、今まで幾度もあった筈なのでは?貴女、何かご存知なのですわね?
「・・・・ヨシュア様と、その、山に登ったのですか?」
「まさか!下から見ただけですわ!とても美しい風景でしたわ。思い出したらもう一度見たくなりました、この後そちらに立ち寄ってみようかしら?」
「あ、あの。今日は、お止めになられた方がいいと思いますわ。実は、父が隣の領地の方と少し揉めておりまして、その・・・ゴタゴタに巻き込まれる可能性がありますの」
へぇ?
それはあの花を使った隣の領主が、花を求めてやって来たのに、その花が全て失くなっていた事に腹を立て貴女のお父様に噛み付いていたというものですか?その話ならゴルドから聞いてますので知っておりますわ。
「そうなのですの?もしかして、何か隣の領主とトラブルにでも?私、何かお力になれるのではなくて?」
ここは私の父が管理している土地ではありませんが、顔は効きますわよ?ただし、貴女の父親はどちらにせよ間違いなく罪人として裁かれますが。
「本当ですか?では、私と一緒に見て頂きたい物があるのです。実は、一年ほど前からずっと我が家の地下の奥に秘密の部屋があるのですが・・・そこを、アイラ様に調べて頂きたいのです。そして、それが危険なものならばそれを、陛下にお伝え頂けませんか?」
・・・・地下室に隠された部屋?
なんですのそれは。花以外にも、もしかして何かが?
ティファ。どうしましょう?
「私はアイラ様に従います。ずっとお側についております」
バキュン!!
素敵!ティファの鎧姿始めて拝見しましたが、ティファとてもカッコイイですわ!私今のティファとなら、恋人になれますわ!!
「今すぐその地下へ降りられますか?それが危険であれば直ぐに父に相談して陛下にお伝え致しますわ。陛下に、と、仰るぐらいですので、国にとって脅威になるものの可能性があるのですわよね?」
「・・・そこまでは。ただ良からぬ事が行われている可能がありますわ」
ここまで聞いていると単純に父親の悪事を止めたい様にも思えますが・・・貴女、嘘が下手ですわね?
「では、私をそこへ連れて行って下さいまし」
流石、私ですわ。
敵を上手く誘導できているのではなくて?
後でヨシュア様にこってり怒られそうですが、もしかしたら既にここにキルト様が運ばれた可能性もありますわね?
「ここです。この奥なのですが・・・」
ガチャン。
「・・・・一体どういうおつもりですの?何故外側から扉の鍵を掛けたのです?」
「アイラ様。貴女はもう、気付いておられるのでしょう?私の父が、ここから逃げ出そうとしている事を」
「・・・・どういう事です?ここから逃げ出す・・とは?」
「アイラ様にはしばらくの間ここでお待ちいただきますわ。私達が、安全にここから逃げ出すまで・・・」
部屋の中には何もありませんわね?
これは、私をここへ閉じ込めるための嘘でしたのね?
「・・・・貴女は自分の父親が何をしようとしているのか、わかっているのですか?あの危険な花を持ち出しただけでは飽き足らずこの国の、陛下の騎士を自分の欲の為に人質にし、ヨシュア様を脅しております。あの花を更に手に入れる為に・・・」
「嘘ですわ!!あの花を他国の者に売ったのは確かです!でも、あの花はこの土地に穢れを留めた元凶だと聞いておりますわ!それを、ヨシュア様の一族が根付かせたと!」
「何故そんなデタラメな事を・・・一体なんの根拠が・・」
「だって!あの花に触った者は皆、たちまち動けなくなって死んでしまいましたもの・・・薬だって全く効かなかった・・・」
何故そんな事分かったんですの?
もしかして、ヨシュア様の一族が魔女狩りにあったのも、それが原因なのでは?
「父様はずっと叔父様から聞かされていたそうですわ。あの花は呪われている。決して触れてはならない。そして、あの花を作った呪われた一族を根絶やしにしろと・・・お父様はそんな事したくなかった・・・」
一体なんの勘違いでこんな事に・・・。
「・・・・本当は、サンチェストの領主になんて、なりたくなかったんです」




