時代が動く
「…獣人の女、どうやらお前の主人がやってのけたようだ。…先ほどからあった邪悪な気配、恐らく魔族の気配が消えた。」
溢れかえる敵を悉く打ち倒した男、大公家現当主、アルタイル・カルスホルンがその肩に大槌を担ぎながら言う。その視線の先には小刀を2振り持ち、返り血を浴びたユーリだった。
「…はぁ、はぁ、…ありがとうございました。…あの…」
「あぁ、名乗る時間もなかったか。それはレディに対して失礼した。俺の名前はアルタイル・カルスホルン。この国を預かる大公家、猛牛の一族の新米当主だ。よろしくお願いしますよ、美しい戦士よ。」
「た、た、た、た、た、…大公家の御当主さまっ‼︎‼︎。…わ、わ、わ、し、し、失礼いたしました!、私の名前はユーリと言います!。私、そんな偉い方だと、知らなくて、も、申し訳ありません!。」
アルタイルの素性を知ったユーリは持っている剣を手放し狼狽る。普通に生きていれば大公家の人間など目にする機会はあっても言葉を交わす機会などまずない。元々貧しい農村に住んでいたユーリにとってアルタイルはまさしく雲の上の人だったのだ。
「おいおい、そんなに怯えなくても大丈夫だ。さっきまでの戦士の態度はどうしたんだ?。」
「そ、それは馬鹿な私が気づいていなかったからです!。」
「そうか、なら命令だ。俺に必要以上に畏るな。同じ戦場を駆けた戦士同士、気遣いは不要だ。」
あくまで戦士同士のやり取りであり、身分は関係ないと言うアルタイル。貴族にしては珍しいタイプの質実剛健を尊ぶ人柄であった。
「…はい、わかりました。あの、改めましてありがとうございます。多分、私だけじゃここは抑えれていませんでした。」
「ほう、自分の力のなさをはっきり認めるか。…なるほど、なるほど、お前の主人は良い戦士を持ったな。ユーリと言ったな、その名前覚えておこう。そして勇敢な戦士の主人であるオウギという男の名もな。何か俺の領地で困ったことが在れば訪ねて来い。このアルタイルが力になってやる。」
ユーリのことを戦士として気に入ったのか何かあれば力を貸すと言うアルタイル。大公家の当主の約束は口約束であっても強制力が発動するのでこれだけでどれだけユーリとオウギのことを気に入ったのか理解できる。
「…え、あの、ありがとうございます。オウギ様にちゃんとお伝えしておきます。」
それを理解しているのかしていないのか定かではないがユーリが返事を返す。
「そうか、それでは俺は行く。これからの大公の在り方について議論せねばならんからな。と言っても文民の分野では俺は殆ど役には立たん。秘書に任せるだけだがな!。」
今回の一連の事件で大公家の内2つが問題を起こした。1つはノードルマン家夫人の拉致事件を起こしたイシュタル家。更に魔族を手引きして他の大公家の殲滅を企んだハルザーク家。この2つは取り潰しになることが想定される。その場合新たに大公が任命されるのかそれとも五大公になるのか。それなら取り潰しになった2つの家の領地はどうするのか。といった議題が山積みである。それらの処理をこれから残った大公家で行わなければならないのだ。更にこれだけことが大きくなれば大公の上に立つ者達も動かざるを得ないだろう。それも込みで色々と面倒ごとは尽きない。
「…時代は動いているようだ、振り落とされないように励め。お前の主人が台風の目なのかもしれないぞ。」
それだけ言いアルタイルは大槌を持って帰っていく。
「…あの人が来なかったら…どうなってたかわからない。…グーちゃん、もっと頑張ろうね。」
ユーリは新たな誓いを胸にオウギを探しに向かった。




