鬼人族の強さ
「…かなりの距離を潜りましたね。恐らく私の適正値より劣るあなたが良く頑張りました。だがその結果がそれでは、もう何もなりませんよ。」
アネッサと護衛の男はオウギ達から離れたところに出現していた。アネッサの魔法によって影から影へと移動を続けたのだ。それはオウギに迷惑をかけたくないというアネッサの思い故だった。
「…はぁ…はぁ、っはぁ、…」
自分の上位互換の適正を持つ者を無理やり連れての移動はアネッサの魔力を大きく奪っていた。肩で息をしながらアネッサは額の汗を拭う。
「その角、あなたは鬼人族ですね。以前から兵器として恐れられた種族。1人で100人の兵とやり合い、覚醒すれば1000人と斬り結び、更に上り詰め鬼神になれば10000の兵を殺すと言われる理不尽な一族。それ故に使われ、恐れられ、虐げられた。…見たところ半覚醒といったところですか。…状況を考えるに…あの男が主人ですね。」
アネッサの角を見つめながら男が言う。
「私たちを物みたいに言うな!。私たちは生きている、殺したくて殺してるわけじゃ無かった。それしかなかったのだ!。本当は臆病で、でも誰かと一緒にいたい、そんな種族なんだ!。」
「…ふっ、それでも多くを殺した一族であることには変わりないでしょう。…まぁ今では覚醒するものすらおらず種族が淘汰されかけているらしいですがね。あなた達が平和に暮らせる日はこないのですよ。日々怯えて静かに絶滅してください。」
「…オウギさんはそんな私たちを助けてくれるって言った!。その優しいオウギさんの邪魔をする者を私は許さない!。」
アネッサの角に仄かに光が灯る。
(…あれは…気付いていないようですね。なら早めに決めた方がいいですね。…少し魔力が回復している。)
アネッサの変化に気付いた男は腰から小刀を取り出し構える。
「…っ、私はまだ…死んじゃダメなんだ!。オウギさんがダメって言ったから!。」
アネッサも駆け出す。角の光は強さを増しそれに比例するように魔力も増加していく。
「…やはり覚醒が進んでいる。…『影槍』‼︎。」
男の影から槍がアネッサに向けて放たれる。
「…うあぁ!。…ふんっ!…りゃぁぁ‼︎。」
アネッサは迫り来る影に対しナイフを振るう。本来男の槍は影なので普通の武器では防御出来ない。しかし無意識のうちにナイフに影の魔力を纏わせており破壊を可能にしていた。
「…成長が早い!。…もたつくと逆転の目を与えかねませんね。…『影業の侵犯』‼︎。」
男の影が形を変える。細く、長くその有効範囲を伸ばしていく。
「…これは⁉︎…ぐっ、…離れないと…」
「遅い、遅い、遅いですよ!。この距離で逃すことはあり得ない!。」
懸命に回避するアネッサだがついにアネッサの影と男の影が重なる。
「…さぁ、捕まえましたよ。…先ずは1つ!。」
自分の影とアネッサの影が繋がったことを確認した男は指を噛み切り血を影に落とす。そして自分の足元の影に剣を刺す。
「…ぐっ!…」
その瞬間アネッサはその身に訪れた苦痛に顔をしかめる。影業の侵犯は2段階によってなる魔法である。第一段階は自らの影で敵の影を捕らえること。第二段階では自らの血を影に落としリンクさせる。これによって影に与えた攻撃が敵の体に加わるようになる。
「…へぇ、耐えますね。あぁ、鬼人族ですからね。耐久は人よりありますか。なら…これでどうです!。」
男は上着から無数のクナイを取り出し全て影に刺す。
「…ぐっ…うぅ、…うぅ、…オウギさん、…私は…負けない!。」
その場に蹲るアネッサ。その体からは血が流れ血溜まりを作っていた。
「…これだけ血を流せばもう終わりでしょう。」
「…うぅ、…赤に…染まれ!。」
蹲るアネッサが一言呟く。その瞬間アネッサの体から赤い煙が立ち込める。
「…これは…⁉︎、まさか!。それはさせない!。」
それを見た男は慌てて地面に刺さるクナイを踏みつけ更にアネッサにダメージを与えようとする。
「…効かないよ。もうリンクは切れてる。」
悠然と立ち上がるアネッサ。体の傷も癒て無傷となる。
「…体が…軽い。…うっ⁉︎…だけど…時間は無さそう。」
「…無理やり覚醒状態に持っていったと言うのか!。がっ⁉︎…ぐへっ!?。」
男の体が吹き飛ぶ。眼前には手を振るったようなアネッサ。腕を振った風圧だけで男はを吹き飛ばしたのだ。
「…これは確かに理不尽な力だ。.1000と斬り結ぶと言われるのも納得ですよ。しかし…」
男は地面に手を叩きつける。それに反応して影が飛び出しアネッサに向かう。
「…ふんっ!。…赤く…染まれ!。」
飛び出した腕を鷲掴みにして捕らえたアネッサ。そしてその腕に自身の纏う赤い魔力を流し込む。
「…な、なんだ⁉︎これは…⁉︎。…やめろ、やめてくれ!。…体が…体が…あぁぁぁぁ!。」
魔力を流し込まれた男は足元から徐々に体に水疱ができ破裂していく。そして頭まで上り切った時体は紅く染まっていた。そして倒れる男。
「…ごぼっ、…ふふ、一応無傷なんだけどな。オウギさん許して…くれるかな。」
アネッサの体を覆っていた赤い煙が消え角の光も治る。アネッサの体からは力が抜け膝から崩れ落ちる。自分の役目を果たしたことに満足げな表情を浮かべアネッサは意識を手放した。