本丸での異形
「…一気に敵の本陣を強襲します。そうすれば指揮系統が乱れて後ろが楽になるはずです。」
駆けるオウギが隣のアネッサに作戦を告げる。
「初撃は僕がいきます。そのあとの乱戦では期待しています。」
「必ずやその期待に応えて見せます。…あの、そのこの戦いが終わったら…話があるんだ、…です。」
「話し方、別に前のままでいいですよ。…話ですか、…条件があります。…無傷で戦いを終えてくださいね。」
「…っ、わ、分かった。」
オウギからの条件をアネッサが受け入れた時丁度敵の本陣が目の前に現れた。先ほどの言葉通りオウギが一歩前に出る。
「…ではいきます。『波動・白南風』。」
オウギが前に手を向け魔法を唱える。オウギの右手にエネルギーが集まり白い光を漏らす。収束したその光は臨界点を超え衝撃波とした目の前に放たれた。
「…きゃ⁉︎。……なんて魔法…。それに詠唱破棄だなんて。」
光がやんで目の前が晴れた時敵の本陣はほぼ壊滅していた。建物は吹き飛び、一部の兵士のみがかろうじて立っていた。
「ザラスさんに謝らないといけませんね。仕方ないとはいえ街の十分の一を飛ばしてしまいました。」
オウギが頭を掻きながらバツの悪そうな顔をする。
(…強い!。…この方は…本当は私を殺すことなど容易かった)
オウギの魔法を見てアネッサは驚愕する。強いとは分かっていた。いや、分かっていたつもりだった。もしこの力が自分に向けられていたらこの世にはいなかっただろうと理解する。そう理解すると同時にアネッサの額に現れたツノに光が灯る。アネッサ自身は気づかぬまま根元から少し斑らの紋様が入っていた。
「……っは、…それでは私が撃ち漏らしを殺ります。『影踏み』。」
アネッサが自らの影に姿を消す。影を通りまだ立ち上がる兵士の影へと至る。
「…私と面識はなくとも、お互い仕える者を間違った同士。そこで罪を悔いていろ。」
影から腕だけを出し兵士達の足の腱を切る。それによって兵士達は行動不能になる。
「…?…なんか魔力の消費が少ないような気が…」
元の場所に帰ってきたアネッサは不思議そうに首を傾げるが新たに現れた敵に注意が逸れる。現れたのは2人の男。白髪混じりの髪をした大柄な男とまだ年若い青年であった。
「…貴方がハルザーク公ですね。」
「いかにも。我が名はメトロノーム・ハルザーク。この国の空を統べる者なり。更に今日を持ってこの国の主人となる!。」
白髪混じりの男の方が名乗り出る。メトロノーム・ハルザーク、この反乱の首謀者であった。
「…不遜なことを言うのですね。ですがそれは残念ながら阻止させていただきます。」
「オウギさん、護衛は私が。『影踏み』。」
即座にアネッサが攻勢に出る。護衛の青年の足元から突き刺すように飛び出す。
「…おぉ!、びっくりしますね。迷い無く心臓を狙うとは。ですが…残念ながら…同業者なんです。」
アネッサの刃は防がれていた。指で挟むように受け止められている。
『…ポキッ!。』
そしてへし折られるナイフ。アネッサは危険を感じ影に身を隠す。が、
「…言ったでしょう、同業だと。『影絡み』。」
青年が自らの影に手を突っ込み唱える。その影から触手のようなものが辺りを探るように地面に広がりそしてある地点で突然アネッサの影が浮かび上がる。
「…見つけた。さぁ、出てきてください。」
青年が言うとアネッサの影が濃くなり実体化する。アネッサの影踏みは解けていた。
「…残念ながら私の方が適正値は高いようですね。『縛影手』。」
アネッサの足元から這うように影の触手が登り始める。
「これは、…動きが…制限されている。…」
「アネッサさん!今…」
アネッサが動けないのを見たオウギが助太刀に向かおうとするがメトロノームがそれを遮るように声をあげる。
「そうはさせないぞ!。さぁ、新しい契約の元に私に手を貸してくれ!。」
メトロノームの声に応じるように黒い霧のようなものが現れ濃さを増していく。次第に形作られたそれはオウギが見たことのある異形だった。
「…魔族ですか。それにその大きさは…確か第一位階と言われた魔族よりも小さい。つまり…強いということですか。」
『ホウ、ヨクシッテイルなニンゲン。アルビデサマにキイタか。ソウだ、ワレワレはダイサンイカイにイスルモノ。』
『ダイイチイカイのザコとはクラベモノにナラヌチカラをモツモノ。ニンゲン、オマエをクイ、ワレワレはツギのクライにノボル。』
「おい、話はもういい!。早くこいつらを殺してくれ!。そしてこの街の住人も全て殺すのだ。そうすればいくらでも曲げた報告ができる。」
『ワカッテイル。そのスベテをクエバヨンイカイドコロかダイゴ、ダイロクヘトイタレル。』
『ニンゲン!マズはオマエをクッテワガチカラとカエテヤル。』
「…僕は魔族自体に嫌悪感は抱いていません。それでも僕の大切な者たちを傷つけるというのなら…」
オウギの右手に炎が灯る。
『ドゥーーン‼︎』
そしてその腕の一振りで魔族を殴り飛ばす。
「討伐します。」