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アネッサの理由

「この首貰い受ける。」

 アネッサがオウギの首に当てたナイフを引く。それだけでオウギの頭と胴体は泣き別れになるはずだった。


「…それは困ります。もう…僕だけの命じゃないみたいなので。」

 オウギの体から光が漏れ、透過する。アネッサのナイフは空を切る。


「…な⁉︎…精霊化!。…そんなあり得ない!。全身を現象化する程の適性を持ちながら転移も使えて、更に体術も私の速さに対応出来るなんて…。君は一体…なんなんだ。」

 アネッサはその場を飛び退きナイフを顔の前に構えて警戒を最大にする。


「精霊化はいつも使える訳じゃないんですよ。運がついていました。『天覧舞踊』。」

 光り輝くオウギの体から複数の分身が出現。アネッサに三体、ロイドに一体分身がつく。


「なんだこれは!おい!アネッサ!はやくなんとかしろ!。こいつらを殺せ!。」

 喚き散らすロイド。しかし自分では何もしようとはしない。


「…これはダメだなぁ。ご主人、もう終わりだよ。」

 頼みの綱のアネッサは自身を囲むオウギの分身を一目見て両手を上に挙げる。


「何!アネッサ!…お前は…力を持たない同胞を見捨てるのか?。私の庇護下にないお前が果たして何が出来る!。ここでこいつを殺さなければ!鬼人族は滅びるのだぞ。」

 降参を告げるアネッサにロイドが吠える。


「…っ、…くそ…そうなんだよ、私は……止まれないんだ!。」

 ロイドの言葉で一度は降参を選んだアネッサが行動を起こす。その場で円を描くように回転し分身に攻撃を仕掛ける。


「…斬れてない。…それなら…『影踏み』!。」

 アネッサに斬りつけられた分身は微動だにせずその場に佇む。それを見たアネッサは一つ舌打ちをすると自らの影に飛び込み姿を消す。


「…死んでくれ!。」

 そして次の瞬間にはオウギの足元、その影から飛び出してナイフをオウギの心臓に向けて突き出す。


「…あなたの事情はわかりませんが…そんな殺意の篭っていない攻撃、悲しい刃は無意味です。」


「…あぁ、そうなんだよな。私の同胞も…私が人を殺めてまで…保護されることを望んじゃいないだろうさ。でも…それでも…助けたいと思うのは…いけないことなのかい?。」

 しかしアネッサのナイフはオウギに届かない。影から出てきた途端鎖が体に巻き付きその姿勢のまま拘束される。そしてアネッサはナイフを手放し涙を零す。自分がしていることが間違っているこたは分かっていた。もう二度と同胞に顔向けできやしないだろう。それでも滅びかける同族を守る為にその力を振るうしかなかった。そしてその同胞たちを守り続けるために居場所を作る必要もある。それは単純な力では手に入れられないもの。権力が必要だった。


「…そもそも前提が間違っています。何故保護することと殺めることが天秤に乗っているのか。それはそこにいる…男のせいだ。」

 アネッサの悲痛な思いを聞いたオウギは殺気のこもった瞳でロイドを睨みつける。


「ひっ!…な、なんだその目は!。俺はロイド・イシュタルだぞ!。この国にとって必要不可欠な存在だ。お前たちのようなゴミと同列に思うなよ!。」


「全ての人に等しく訪れるものがある。それはどれだけ偉かろうが関係なく…訪れる。」

 オウギがロイドにゆっくりと近づいていく。


「…死です。何人も逃れることが出来ない、そして…音も無く近づく。気づいた時には手遅れで、只々受け入れることしか出来ない。」

 目を見ながら語りかけるオウギの言葉にロイドは歯を震わせ…顔を青くする。


「…さぁ、抗ってみて下さい。あなたが言うように命に差があるのなら。この死も遠ざけれるんでしょう?。」

 青く光ったオウギの目を見たロイドは失禁し、その場で崩れ落ちる。死んだわけではない、強烈な死のイメージに正気を保っていられなかったのだ。


「…お願いしてもいいかな。…厚かましいのはわかってる。だから出来ればで良い。鬼人族を…見かけたらせめて…手を出さないでおいて欲しい。…みんな臆病なんだ、怖がりなんだ。それなのに繋がりを欲してしまう、そんな種族なんだ。だから…」

 オウギとロイドのやり取りを見ていたアネッサが懇願する。自分は意図はともかくロイドに従っていた。ならば当然裁かれるだろう。鬼人族という種族に対しても風当たりが強くなるかもしれない。それに対しての恩赦を求めるものだった。


「お断りします。」

 しかしオウギの返事は否定。


「…っ、そう…だよね。勝手すぎるか。ごめん、忘れてちょうだい。」

 アネッサは全てを諦めたような表情を浮かべこうべを垂れる。


「貴女が助ければ良い。」

 続く言葉はアネッサの予想し得ない言葉だった。


「…でも私は、その男に従って…一杯間違いを起こした。それに君を害した。私は裁かれる。多分…この命で償うことになる。」


「僕が助命を願えば恐らく条件付きですが叶います。貴女は生きて償うべきだ。」


「…そんなのダメだよ。私がそんなの耐えられない。」


「耐えてください。そして強くなってください。」


「……ズズッ…」


「強くなった貴女が同じく道を誤った者を救ってください。その時貴女は許される。自分自身を許すことが出来るはずです。」


「…はい、」


「同族に顔向け出来ない貴女はいなくなる。貴女が胸を張って歩けるようになるまで僕が隣で支えましょう。」


「…はぃ、…はい……」


「生きていけますか?。」


「…この命尽きるまで…生きて…いきます。」


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