イシュタル家護衛の力
「…ん!…きた!。」
ある建物の中。そこに異物が混じり込んだことをアネッサは感じ取っていた。
「…どうしたアネッサ。そろそろあいつらが帰って来たか?。ガキと女が街に出ているのは僥倖だったな。拉致するのが簡単だ。これであの護衛も終わりだ!。」
状況を理解していないロイドが晴れやかな表情で言う。イシュタル家を継いでから裏稼業で財を蓄えたロイド。これまで自分の思う通りにしてきた。それを妨害したオウギを始末出来ると胸が高鳴っている。当然自分達が失敗るとは微塵も思っていない。
「…違う、…あのね、来たのはその護衛みたい。そして全部負けちゃったみたいだね。気配がザラスさんのところに集まってる。」
「なんだと?。…あいつら…しくじったのか!、だが!拉致には成功したと報告を受けている!。そこには転移を防ぐ魔導具を置いているはずだ!。」
有頂天のロイドを突き落とすようなアネッサの報告。
「んー、思ってたより強いのかもしれないなぁ。…あの魔導具は相当強力な奴なんだけどなぁ。…でも魔法系の上位職ってことは分かった。なら…私には勝てないよ。」
「…くそ、ザラスの所にいるとなると俺が企てたばれているということか。…どうする?…このままではいくら大公家と言えど…罰せられる。最悪…取り潰しだ。…」
アネッサの話など耳に入らないようでロイドは爪を噛みながらブツブツと呟く。
「えぇ!それはだめだよ。私との約束を守れなくなっちゃうよ。私が指輪を引き受けているのは…あのことのためなんだよ!。」
「わかってる!黙ってろ。…考えろ、なんとか…これから来る護衛を殺せば…!。そして捕らえられている男達のことなど知らないとシラを切り通せば…。そもそも俺が指示したと言う明確な証拠など存在しない。それでは…大公家を裁くことは不可能のはずだ。…そうさ、護衛さえ殺せばいい!。アネッサ!まだ俺の権力の庇護下にいたいだろ!ならば殺せ。そうすればお前の望みを叶えてやる。」
「…そうなんだよねぇ、私は従うしかないんだよ。…しょうがない、友達になりたかったけど…殺そうか。」
そう言うとアネッサは腕に双剣を持ちそのうちの一本を部屋のドアに投げつける。
「…ばれていましたか。流石にお強い。それで…そちらの方針は決まりましたか?。」
開いたドアから姿を見せるオウギ。
「うん、君を殺すことになったよ。君さぁ、高位の魔法使い…いや、下手をすると魔導師でしょ。」
「な、魔導師だと!。伝説の適性じゃないか!。全属性に抜群の習熟度を誇り、多数を相手取るに至っては最高とされる適性。ザラスめ、一体どこでそんな奴を拾って来たんだ。」
「…貴女は何故この人に従っているのですか?。それだけの強さがあれば自由に生きれるのではないですか?。」
叫ぶロイドのことを無視してアネッサと話をするオウギ。その姿にロイドは怒りを露わにするが相手にされない。
「…ふふっ、それは秘密だよ。私に勝てたら教えてあ・げ・る‼︎。」
その瞬間アネッサの姿は溶けるように消える。
「…っ!。…消えた。…いや…そこか!。」
消えたアネッサ、しかしオウギは気配を背後に察知し振り向きざまに魔法で拳に炎を纏わせ迎撃する。
「…甘い、甘い!。」
オウギの拳は空を切る。そして肩に刺される剣。
「…ぐっ…!。…今のは⁉︎。…転移。」
思わぬ攻撃に驚くオウギ。転移で距離を取ろうと試みる。
「…逃がさないよぉ〜。もうマーキングは済んでる。」
オウギが転移した先にはアネッサが飛び込んで来ていた。転移したばかりのオウギは驚愕の表情を浮かべる。
「…残念無念、はい終わり‼︎。」
突き出されたアネッサの剣がオウギに迫る。
「…嘘。なんで…」
アネッサの突き出した剣はオウギの人差し指と中指に挟まれ止められていた。剣聖の見切りによってアネッサの攻撃は全て防がれる。
「僕は魔導師だなんて一言も言っていません。」
「…っ…。…」
「貴女の技はある職業だけのものだ。」
「…そうさ、私は暗殺者だ。敵の背後に周り、隙を突き、卑怯に襲う。…真っ当にやり合えば勝てない相手でも暗殺なら一瞬だよ。コロッといっちまうんだ。」
「…貴女程の強さなら普通に戦う事も出来たはずだ。」
「そりゃ、出来るよ?でも、それじゃあ目を引かない。一山いくらの実力しかならないよ。魔法と近接両刀の君が羨ましいよ。でもね、これなら私は…誰にも負けない。もちろん君にもね。」
「…っ⁉︎。…これは…体が痺れている。…それに…魔力も…」
オウギの体から力が抜け床に倒れる。
「暗殺者である私が敵の前でなんの意味もなく話すと思うかい?。…剣には毒を塗ってある。魔法使いと近接職両方に効果があるようにね。正直焦ったよ。君が魔法職だけじゃなかったことには。でも…もう詰みさ。」
そう囁きながらアネッサがオウギの耳元に寄ってくる。
「…私の一族の為にはあんな男でも従う方がいいのさ。権力者の庇護は大事なんだよ。」
アネッサが腕に小刀を持ちオウギの首に当てる。
「…今度こそ終わりだよ。その首貰い受ける。」