イシュタルの強者
大公会議の初日は騒乱こそあったものの予定していた議題はこなし、概ね予想通りの回答を得た。
「オウギ殿、今日はありがとう。君のお陰で闇奴隷を含め多くの議題を纏めることが出来た。…元々現イシュタル家当主には黒い噂が後を絶たなかった。今日の反応を見るに…恐らく闇奴隷の大元は彼で間違いないだろう。それを摘発することが出来れば少なくない数の闇奴隷を減らせる。」
オウギとエリザベスそれにザラスは会議を終え屋敷に帰ってきていた。そこでザラスが今日の会議によってもたらされる結果について考察する。
「そうですか、それは良かったです。あまり見ていて気持ちの良いものではありませんから。闇奴隷商達の犠牲になるのは無垢な子供達が大半です。それはこの国の可能性の火を消すことにも繋がります。僕の力がお役に立てて良かったです。」
「オウギ様はとてもカッコ良かったです!。私のことも守ってくださって!。…ってオウギ様?どうかされたのですか?。」
「えぇ、あのイシュタル家の護衛なんですが…弱すぎると思いまして。それに…(あの人がいなかった。)。」
オウギが思い出すのはイシュタル家の無礼な護衛のこと。あの場にいる中で頭一つ弱かった。と言っても世間的には十分強者の部類には入るのだが。
「それはあの男が本来の護衛ではないからだろうね。イシュタル家の指輪の所持者は確か女性だった筈だよ。」
「…となるとあの人がイシュタル家の指輪の所持者か?。」
「オウギ様はご存知なのですか?。」
「多分ですが昨日宿で話をした人だと思います。凄い量のお酒を飲まれていましたのでそれが原因で今日は欠席されたのかと。…こちらとしては助かりました。もし今日の状況になって相手が昨日の女性だったら…ぼくも無事では済んでないかもしれませんから。」
「…魔族に勝ったオウギ殿でもですか…。それは…今後にも影響が出そうですな。」
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「おい!アネッサ!。貴様が来ぬから大変なことになったのだぞ!。」
ロイドがイシュタル家に割り振られた宿で呼び出した女に怒鳴りつける。
「んー?。あー、ごめんねぇ、昨日飲み過ぎちゃったんだよね。でも、なんか連れてったじゃん。偉そうな奴を。」
「…あいつは役に立たなかった。もう…再起不能だ。」
今日護衛に連れて行った男は精神を病み、何かに怯えるようになっていた。
「だよねー、めっちゃ弱そうだったし(笑)。」
「…そのせいで闇奴隷のことを否定出来なかった。クソが、いい金儲けの道具だったのに。調査に入られるとなれば…手を切らざるを得ない。それに俺のことを知っている奴を片付けないといけない。あーっ‼︎最悪だ!。」
ロイドが頭を掻き毟る。
「…ははっ、残念だったねぇ。」
「明日はお前に来てもらうぞ。これ以上こちらに害のある提案を飲むわけにはいかん。」
「いいよー。…そう言う契約だし。私もこの指輪のお陰で好きに出来てるしね。」
「…ノードルマン家の護衛。…奴には俺の失った物をその身で支払わせてやる。…おいっ!。」
ロイドが声をかけると部屋の外から人相の悪い男が数人入ってくる。
「ノードルマン家について調べろ。何か弱みを見つけるんだ。…そうだな、2日以内に何か持って来い。さもなくば消えるのはお前らだ、行け。」
ロイドの言葉に部下達は慌てて部屋を出る。ロイドの言葉には力があり、失敗すれば確実に自分達が消されると知っているからだ。
「…小さいなぁ。」
アネッサの呟きは誰にも聞かれることなく溶けて無くなった。