とある龍の1日
幼龍であるカノンの1日は案外早く始まる。
『…キュ……』
オウギと共に眠るベッドをスルスルと抜け出しパタパタと飛ぶ。勿論自身の隣にいるオウギを起こさないように細心の注意を払っている。
『…キュキュ……コクッ…コクッ…』
まだ半分夢の中にいながらも移動は辞めない。向かわねばならない場所があるからだ。
『ガラガラ…』
カノンがやって来たのは部屋の風呂場。そこでカノンは湯浴みをするのを毎朝の習慣としていた。
『キュ…キュ…』
カノンは浴室の床に敷いた網目の細かい布の上で体を擦り付ける。日々成長しているカノン。脱皮の度鱗が剥がれるのだがそれをオウギには見せたくない。なので毎朝体を擦るのだ。その際にオウギと一緒に買い物に行った際強請った石鹸もその身にかける。その結果モコモコの白い塊となる。その泡を洗い流したカノンは浴室の中で佇む。この時間も何もしていない訳ではない。汗をかくことにより代謝を上げて新たな鱗にツヤを出そうとしているのだ。
『キュァ……キァ……』
程よく汗をかきスッキリしたカノンは湯を浴びる。そして体をふり水気を飛ばす。
『…キュイキュイ…キュイキュイ…』
丹念に体を拭いた後はこれまたオウギに強請った艶出しのクリームを懸命に塗りこむ。仄かに桃の香りのするそのクリームを鱗だけでなく体の部分にもしっかり塗る。この努力はすぐに実ることになる。塗り終えた後はパタパタと飛び再びオウギの眠るベッドに入る。
『…キュ………』
そして二度寝をするのだった。
「…おはようカノン。…カノンは今日もスベスベだね。それに…いつもいい匂いがする。」
目を覚ましたオウギは傍に眠るカノンを撫でながら言う。オウギはカノンの努力を知らない。
『…プイッ…』
撫でられたカノンは内心を隠すかのようにそっぽを向く。当然嬉しいに決まっている。その為に眠い中体と鱗を磨き匂いを纏っているのだ。素直になれないカノンは絶対に認めることはないだろうが。
オウギが目を覚ました後は揃って朝ごはんを食べに行く。最近はビュッフェという食べ放題の宿に泊まっているので食事はカノンにとって楽しみであり戦いであった。
『…キュ!。…キュキュイ…。…キュ!。』
オウギの頭の上に乗ってメニューを吟味するカノン。その目は獲物を狩るハンターの目と言っても良いものだった。そして吟味したメニューを食べていくカノン。少し体重のことが気になるが成長期なので大丈夫だろうと目を瞑ることにしている。そして満腹になると仰向けに寝転がる。実はこれにも意味があった。
「こら、カノンまた…そんな格好して。」
そう言いながらオウギがカノンのお腹を撫でる。これである。カノンはオウギにお腹を撫でてもらうために仰向けになるのだ。優しくお腹を撫でられたカノンは満足そうな顔になる。ご飯で満腹になっているからと思わせることが出来るので表情を隠すことはない。その後はその日によって異なるがオウギの頭の上を占領し甘える。当然オウギから見られることはない。
1日の行程を終え就寝の前になるとカノンは行動を起こす。ブラシを手に持ちオウギの横に転がる。
「…分かったよ。」
それを見たオウギはそのブラシを手に取りカノンの鱗に当て擦る。
『…キュルルル…』
この時間がカノンにとっては至福であった。少し硬めの毛束で擦られると痛気持ちいい。そして何よりオウギがやってくれているという事が大きかった。一通りブラシで擦られた後はカノンは就寝する。夜更かしは肌の質を悪化させるからである。カノンは眠る。また明日の朝その身を磨きオウギに撫でてもらうために。




