不条理を正す力
「ぐぐぉ…ぐふぉ…」
ユーリの手によって捕らえられたガードル。口に猿轡を噛まされフゴフゴ言って転がっている。
「良くやったねユーリ。」
「はい!、…あの…撫でてくれますか?。」
オウギに褒められたユーリはオウギを見つめながら言う。実はカノンが来てからオウギの気がカノンに向くことが多く若干不満だったユーリ。ここしかないとアピールする。
「うふふ…わーい!。」
いくら体が大きくなったとはいえそこはまだ子供。オウギに撫でられるとくすぐったそうにしながら小声で喜びを表現する。
「…じぃ……はっ!、おい!それどころじゃねーだろ。ガードルを捕まえたのは良いけど!こいつはこのままじゃすぐに出てくるんだろ!。私はそんなの…許せない!。」
オウギに頭を撫でられて頬を緩めるユーリを羨ましそうに見ていたクリーナだが眼前に転がるガードルを見て怒りが再燃する。確かにガードルは片腕を失った。それでもこのまま警備隊に突き出せば僅かな期間で出てくることになる。それがクリーナには許せない。
「安心してください。手は考えてあります。」
そう言うオウギの手には1枚のカード、そして指輪が握られていた。
「オウギ様、もしもこの先オウギ様が正すべき不条理に出会った時は迷わずその力をふるっていただきたいのです。」
オウギとの別れ際エリザベスが願い出る。
「悲しいことですが…現在我が領地のみならずこの国では法の目を逃れ罪をなすものが多くいます。当然国もそれを正そうとしてはいます。しかし…財、人、利権が絡み合い中々進展していません。その割りを食うのは民なのです。…私はオウギ様の正義が私の正義と方向を同じくしていると感じています。ですからお願いします。」
「ですがエリー、僕は一介の冒険者だ。それも…ランクを見せることも出来ない。そんな僕がそんな事を…」
「…オウギ様は私が差し上げた指輪を持ってくれていますか?。」
「え?えぇ、勿論。持っていますが…」
そう言うとオウギは首から下げていた指輪をエリザベスに渡す。
「その候翼の指輪はこの国に7つある大公家が信じる者に与える指輪です。なのでその事を知っている人がいればオウギ様の言葉は大公の言葉ということになります。」
「…え、そんな大変な物だったんですか⁉︎。」
「更にこちらのガードをお持ちください。このカードはオウギ様のギルドカードと発生を同じくするガードです。私、エリザベス・ノードルマンの魔力を込めており指輪とこのように近づけると…」
エリザベスがカードと指輪を近づけるとカードの上に小さく薄いエリザベスが出現する。
『この指輪の所持者にノードルマン家の加護を』
小さなエリザベスはそう言うと消えてしまう。
「このように指輪の信憑性を押し上げてくれます。」
「この2つでオウギ様の正義の行く末を私に見せてください。」
「こ、これは…ノードルマン家の指輪‼︎。…ということは…」
「僕がお願いすることは1つだけです。この街で闇に奴隷の取引が行われています。それを取り締まってください。」
「は!畏まりました!。…それにしても…闇奴隷ですか。我々も…不法な取引の取り締まりは強化しているのですが…」
「それは分かっています。エリザベス様もその努力はご存知でした。それでも全てを見ることができないことも。だから僕は光が届かないところを覗く。その中でも理に反する者はけじめをつけてもらいたいと思います。」
「流石…ノードルマン様がお選びになった方だ。それでは私達はこれで。すぐに裏を洗い関与した者を捕らえます。」
「…ふぅ…。…疲れたな。」
「オウギさん、ありがとう。…私はこの恩は絶対に忘れない。絶対に返す。」
「いえ、そんな…」
「だめだ、返す。スラムでは借りは10倍にして返すのがルールだ。こいつらを守ってくれたオウギさんには…えーと、何をすればいいか分からないけど!絶対に返すから!。」