モンスターテイマーの権能
「…ていやぁ!。良し、今ですグーちゃん!やってください。」
ユーリが目の前にいる魔物を剣で斬りつけその場を離れる。
『…ポゥ!』
するとグーちゃんが水の塊を生じそれを魔物にぶつける。ぶつけられた魔物は一瞬怯むが特にダメージが入っていないことを悟りふたたびユーリに向かって襲いかかろうとする。しかし、
「…もう動けませんよ。これで終わりにします。」
魔物の足が地面に縫い付けられたように持ち上がらなくなる。思わぬ体の異変に動揺する魔物の首元にユーリが剣を添えそして引く。魔物は首を落とされ物言わぬ死体となる。
「…やった!グーちゃん、良い感じです。」
剣に付いた血を拭き取りユーリが笑う。そしてグーちゃんを抱き寄せ撫でる。
「成る程、グーちゃんが出したのは粘性のある液体か。それで相手の動きを止めてユーリが決める。…うん、多分現段階では一番良いコンビネーションだと思うよ。」
グーちゃんが現状使えるのは水魔法のみ。それもまだレベルは1。出来るのは水を出すことと性質を変えること。なのでグーちゃんはサポートに徹しているのである。
(…だけど、本当にモンスターテイマーはこれだけなのか?。まだ何か隠された能力があるんじゃないか?。)
ユーリの新しいスタイルに賞賛を送りながらも考えごとをするオウギ。今まで殆ど情報が残っていないモンスターテイマー。その全容はまだ解明されていない。
『ガサガサ…!』
その時ユーリの背後にあった茂みから新たな魔物が現れる。狼のような魔物はその爪をユーリに振り下ろす。
「…な⁉︎…しまった!。」
慌ててオウギがユーリに駆け寄ろうとするが距離が開いているので間に合わない。
「…くそ!、え?…」
オウギは即座に判断。その手に回復魔法の光を灯す。割って入るのは間に合わないので治療に向けて動いていた。しかしオウギの想像を上回ることが起きる。
「…へ?。きゃあ!…何が…」
ユーリは自分に向かって駆け出したオウギを見て疑問の声をあげる。そして背後に迫る魔物に気づくが回避は勿論間に合わない。その時ユーリの体が光り輝きグーちゃんの姿が消える。そして魔物が振り下ろした爪をがユーリを襲う。そう実際に襲ったはずだった。しかしそれは意味をなさなかった。魔物の爪がユーリの体を通り過ぎたのだ。まるで液体を切ったように。そして魔物は驚きその場を走り去ってしまう。
「…今のって…まるで…」
その様子を見ていたオウギは自分の考えが間違っていなかったことを悟る。やはりモンスターテイマーにはまだ秘密がある。
「…グーちゃんの声が聞こえる。私を守ってくれたんですね。」
そう言葉を零すユーリ。もう一度体から光が放たれるとグーちゃんがふたたびユーリの頭の上に姿を現した。
「従えた魔物の性質を取り込むことが出来るのか。」
オウギは1つの結論を出す。勿論まだまだ実証が足りてはいない。それでも今の現象を言葉にするならそれしかなかった。
『…プウ!』
ユーリに抱かれたグーちゃんは満足気に震え鳴き声を出す。
「これで私はもっとオウギ様の力になれます。」
ユーリは満面の笑みでそう言った。自分に自信が持てなかった少女の孵化の瞬間だった。