最高の職人クリーナ
服飾都市マチリアに入ったオウギ達。街の中は服飾都市と言われるだけあった商店が建ち並び活気に溢れていた。
「いらっしゃい!いらっしゃい!。今からくるのはこれ!。この街最高の仕立屋クリーナの新作だよ!。今のうちに買っといた方がいいよー。」
威勢の良い声が響く。
「…クリーナ?。人の名前でしょうか?。」
「どうだろうね、大きな商会なのかも知れないよ。」
「おいおい、兄ちゃんクリーナの事を知らないのかい?。クリーナはこの街が誇る最高の職人さ。って言っても、その姿を見たものはいないんだがな。まぁ噂では渋いおっさんって事になってるがな。」
オウギ達が不思議そうな顔をしていると店主が話しかけてくる。
「姿を見たものがいない?。じゃあどうやって商品を卸してるんですか?。」
当然の疑問をオウギがぶつける。
「あぁ、なんか商業ギルドにいつのまにか運び込まれているらしいんだわ。それをギルドが各所に卸してるって訳。代金は俺たちがギルドに払って、ギルドが指定の場所に送ってるらしい。」
「…その指定の場所に行ったら会えるんじゃないですか?。」
「おいおい、兄ちゃんあんた商人じゃないのかい?。そんな事をしてクリーナの機嫌を損ねてどうする。考えたらわかるだろ、誰にも会わないって事は会いたくないってことだろ。」
「どういう理由で人前に出ないのか知らないが触らぬ神に祟りなしってね。今ではクリーナに会おうすること自体がタブーになってんだよ。」
「成る程、そこまでの影響力がある人なんですね。それじゃあ商品を見せてもらっても良いですか?。」
「おう!是非見てってくれよ。おすすめはクリーナだがそれ以外の商品にも自信があるぜ。なにせこの街の職人達はみんなが一流だ。そっちの可愛い嬢ちゃんになんか買ってやりなよ。」
店主が待ってましたとばかりに商品を見せる。棚には普段着や晴れの服、装飾品などが並べられていた。
「そうだなぁ…。ユーリ、何か欲しい商品はあるかい?。」
「…え、あの…その…」
オウギに尋ねられたユーリはしどろもどろになり答えられない。
「かぁぁ〜、兄ちゃんわかってねーなぁ。こういう時は男が選んでやるんだよ。その子のためにもしっかりと考えな。」
そのやり取りを見ていた店主が割り込んでくる。
「そういうものですか。…ユーリちょっとこっちを向いてくれる?。」
「え、あ、はい…オウギ様。……」
照れたような表情を見せるユーリ。頬も微かに赤く染まっていた。
「うーん、これも中々…。おっ、こっちも似合うなぁ。」
自分の方を向いたユーリに商品の服を当てながら吟味するオウギ。その目は真剣だった。
「…嬢ちゃんも幸せ者だな。俺の言葉のあと迷いなくクリーナの商品から選んだだろ?。クリーナの商品は品質はピカイチだが値段も張る。それを当然に選ぶとは大事にされてる証拠だ。」
「…………ボッ!。」
近くに寄って来た店主の囁きを聞いたユーリの顔は火が出るほど真っ赤になる。
「ならこっちの服と…ん?ユーリどうしたの?。」
「ななな、なんでもないです!。何にもないです!。」
「?、そう?。なら良いけど…ユーリこれを着てみてくれる?。」
「…わ、わかりました。ちょっと待っててくださいね。」
オウギに渡された服を大事そうに抱え試着室に向かうユーリ。
「ふぅ、なんか疲れたな。」
疲れを露わにするオウギ。しかし安息の時間はまだ訪れない。
『…キュ、…。バンバン‼︎』
頭の上にいたカノンがオウギの頭を連打する。
「な、何⁉︎カノン!。」
「はっはっは!、どうやらその子龍も女の子らしいな。自分が蔑ろにされてるのが気に食わないんだろう。」
「えー、カノンも何か欲しい?。」
『パンパン!』
勿論とばかりにオウギの頭を叩く。
「…って言っても何がいいかな。」
「首輪なんかいいんじゃないか?。魔導具ならサイズも最適化されるからずっと使えるぞ。」
「首輪かぁ。それで良いカノン?。」
『…キュア!。』
「それなら…んーカノンは体が真っ白だからね。この青に黄色の模様のが良いと思うんだよね。…どう?。」
『………キュ。』
悩んでいたカノン。しかし最終的にはオウギの持つ首輪を了承する。
「あのー、オウギ様着替えが終わりました。…どうでしょうか?。似合いますか?。」
試着室からユーリが恥ずかしそうに出てくる。白を基調としたワンピースタイプ。裾の部分が青くなっており爽やかを演出している。所々にあしらわれた水滴をイメージしたかのような模様も華やかだ。
「うん、とても似合っているよ、ユーリ。」
「…ありがとうございます。」
「それじゃあこの服と首輪、お会計お願いします。」
「あいよ!。えーと、2つで33万ギルだな。」
「33万⁉︎。お、オウギ様!…。」
ユーリが慌てる。請求された金額が想像の域を軽く超えていたからだ。その額は高級宿に1週間滞在出来る金額であり、Dランク冒険者、一人前の冒険者のユーリでさえ1ヶ月かかって稼げるかという額であった。
「ユーリに似合っていたのは本当だし別にお金に執着はないから。僕はこういうことに使うべきだと思うよ。」
慌てるユーリに向かってそう言いオウギがお金を払う。
「言うじゃねーか、兄ちゃん。気に入ったぜ。3万負けてやる。」
「いいんですか?。ありがとうございます。」
「良いってことよ。んじゃ毎度あり。」
「行こうかユーリ。」
「はい、オウギ様。あの…ありがとうございます。」
そっとオウギの手に自分の手を重ねるユーリ。そして二人は手を繋ぎ街を歩いて行った。