カノン気持ち
「私の名前はクローム。龍と人を繋ぐ者。」
膝の上のカノンを撫でながら女が名乗る。
『キュア!』
カノンは一鳴きすると飛び立ちオウギの頭の上に着陸する。オウギの頭の上はカノンのお気に入りの場所になっていた。
「へぇ、、龍王様の娘が懐くか。お前只者ではないな。」
その様子を見ていたクロームが椅子から立ち上がり言う。そしてオウギの目の前に立つ。
「…え?娘⁉︎。カノン女の子だったの?。…痛い、痛いカノンごめん!。」
クロームの言葉に驚くオウギ。その態度に腹を立てたのかカノンが尻尾でオウギの頭をバシバシ叩く。
「はっはっは!。その子を男だと思っていたのか?。まぁ、無理もない。あまり龍のことは知られていない。」
クロームが笑いながら言う。そしてオウギの事を下から覗き込むように見つめる。その目には妖しい光が灯っていた。
「…それにしてもお前…面白いな。混ざっている。どうやればそんなになるのか知らんが…今まで見たことがない。3つ、いや…5つか?。」
「!。…なんのことですか?。」
クロームの発言に一気に魔力の流れを変えるオウギ。クロームが触れたのはオウギの最も深淵の部分。ユーリにすら全ては話していない事柄だった。この後のクロームの発言如何では魔法を発動することも厭わない状態だった。
「ふふっ、安心しろ、別に誰にも言いやしない。それに中身まで見える訳でもない。」
オウギの耳元で呟くクローム。クロームの真意は分からないが取り敢えず頷くオウギ。体に纏う魔力を霧散させる。
「こらこらあんた達!。朝っぱらから何をしてんだい?。喧嘩するなら外でやりな。」
宿には他に客は無く宿の女主人も魔力を感知できないのかオウギが放つ魔力に気づかない。ただのいざこざと思っていた。
「あ、すいませーん。仲良くしまーす。」
クロームが言う。さきほどまでの妖しい雰囲気は無くなっていた。
「…それじゃあ私はもう行くよ。その子を大事にしてあげてね。…あ、あと名前気に入ってるって。」
クロームが最後にカノンに手を振って食堂から出て行く。カノンはなんでその事を言ったの⁉︎、という風に右の前脚でオウギの頭をバンバン叩く。
「…あのオウギ様。あの方は…」
「…龍と人を繋ぐ者。前にエリックさんが言ってた…痛い、カノン痛い。僕は何もしてないだよ。えーと龍に仕える適性のことなんだと思う。」
「言い伝えでしかないって言ってましたよね。そんな人が突然来てぴっくりです。」
「んーそれは…カノンに引き寄せられたんじゃない?。龍に仕えるって言ってもその龍自体が少ないんだし。」
オウギが頭の上にいるカノンを撫でながら言う。カノンはくすぐったそうに身をよじる。
「カノンちゃん、勝手にいなくなっちゃうダメですよ。もし呼ばれてもいなくなっちゃったら心配するんですからね。」
ユーリがカノンに向かって言う。
「それにしても…名前気に入ってくれてたんだね。…嬉しいよ。」
頭の上のカノンを抱き上げ体の前で目を見て言う。
『…プイッ。』
そのオウギの言葉に対しカノンはプイッとそっぽを向く。そして暴れてオウギの手から抜け出し食堂の机に飛んで行く。そして皿の上の料理に齧り付く。それはまるでやけ食いのようだった。
「ふふっ、カノンちゃん照れてるんですかね。」
それを微笑みながらみるユーリ。ユーリも机に向かい席に着く。
「…ならもうちょっと大人しくしてほしいかな。」
オウギも席に着き食事を始める。こうしてオウギ達の朝が過ぎていった。