魔王、確証
「オウギーー‼︎、大丈夫かぁーー‼︎。」
膝をつくオウギと側に控えるユーリの元へ集団が駆け寄ってくる。ガロウを中心とした上位の冒険者達だった。彼らは魔物の氾濫を収めたのがオウギだということを知っている。突如放たれた埒外の魔力、それに抗うかのように放たれたオウギの魔力。街の冒険者達は意を決して現場に向かうことを決意する。自分たちの街を救ったオウギを助ける為に。
「ガロウさん、…はぁ、はい。大丈夫です。」
オウギが立ち上がりながら言う。それでも軽くふらつくのでユーリが腰に手を当て支える形になる。
「オメェがそんなになるならそれは大丈夫って言わないんだよ。街ではいきなり人が倒れたりしたんだぞ。」
「それで何があったんだ。」
尋ねるガロウにオウギはことのあらましを説明する。突如現れた少女、その身に宿る魔力、そしてあの言葉…
「出来損ないが倒されたと言っていた。多分それは魔族のことです。」
「魔族だと⁉︎いや、しかしそんな情報は入ってきて…」
「その情報は確かです。確かにある街で魔族が討伐されています。」
ガロウ達冒険者の後ろから2人組が現れる。エリザベスとエリックであった。エリザベスも魔力の波動を感じオウギの元に馳せ参じていたのだ。到着が遅れたのは少しおめかしをしていたからというのは秘密である。
「エリザベス様!。」
エリザベスの姿をみたガロウが慌てて頭を下げる。それに習い周りの冒険者も頭を下げる。
「頭を上げてください。今の私はノードルマン家のエリザベスではなく、冒険者、エリザベスです。」
「…分かりました、失礼します。…それでオウギ、その女?の言葉がどうしたんだよ。」
「魔族を出来損ないと表現する存在はこの世に早々はいない。そして魔力の中に混じる系統。そこから導き出される答え。」
「…魔王ですわね。」
オウギの言葉を継ぎエリザベスが口にする。
「魔王だと、それこそ…本当に、いるのか?。」
魔王とは一般人にとって子供の寝物語に出てくるような存在。つまり、ただの空想。…と思われていた。
「魔王は存在します。それは証明されています。ある魔道具が魔王に反応するのです。ですが…ここ50年はその姿を発見されていませんでした。」
「マジかよ…。」
ガロウは驚愕の事実に言葉が出ない。
「あの、それでオウギ様。魔王はどのような姿でしたでしょうか。」
エリザベスがオウギに尋ねる。50年の魔王の姿は伝承では残っているもののあやふやになっている。
「小さな女の子ですね。白い肌、澄んだ青の瞳、燃えるような赤い髪。そして髪で隠れていましたが角が一本ありました。」
「成る程…概ね伝承に残っている姿と同じですね。そうなると魔王は長寿種ということになります。」
「あとは…強い人が好きみたいでしたよ。僕にもっと強くなれと言っていましたから。」
「オウギより強くなれ⁉︎。」
「すすすすすす好き⁉︎。お、おオウギ様は魔王にその、気に入られたのですか⁉︎。いえ、私はその、オウギ様を、えーと、…うーん。」
ガロウとエリザベスが違う理由で驚く。エリザベスに至っては顔を真っ赤にして倒れてしまう。
「オウギ様、実際のところ勝算はどれ程と感じられましたか。」
使い物にならなくなったエリザベスの影からエリックがオウギに尋ねる。今までもいたはずなのに存在を忘れていた。そのことにやはり何者なんだと思いながらもオウギが答える。
「…そうですね、手の内が読めなすぎますね。現段階では…限りなくゼロに近い、と思います。」
「…成る程。貴重な意見ありがとうございました。お嬢様が失礼いたしました。主人に変わってお詫びいたします。それでは…」
オウギの答えを聞いたエリックは表情を変えることはなかった。そして倒れたエリザベスを背中に背負いその場を後にする。
「…くそぉ、やっぱり世界は広れーよ。なぁ、オウギ。俺は旅に出ることにしたんだ。もし、もしもだ、あんたが力を貸して欲しいと思った時、力になれるように。俺はSランクになるぞ。」
「分かりました。その時はお願いします。」
「まぁ、そんな敵なんて現れない方がいいに決まってるんだけどな。おい、お前ら戻るぞ!。俺の出発祝いをしてくれよ。」
賑やかに帰っていく冒険者達。お前が自分でやれよや、なんで自分の祝いを自分で払うんだ等と言った声が聞こえてくる。
「ユーリ、それじゃあギルドに行こうか。ユーリのDランク昇級の申請をしに。」
それを見送ったオウギがユーリと共に街に帰ろうとする。
「…………」
「ん?ユーリ?。」
しかしユーリからは一向に返事がない。不思議に思ったオウギが振り返るとユーリは地面に置いてある黒い球体を見つめていた。それはオウギが膝をついた際に落としたガルガンディアからの預かり物。
「…石がうごいてる⁉︎。」
それが生命の躍動を放っていた。