少女のプライド
次回更新はお休みします。
次の更新は年明けの1月7日になります。
よろしくお願い申し上げます。
「ふぅ、良いお風呂だった。ゆっくり入れるお風呂は良いなぁ。」
オウギが体を拭きながら寝室に入ってくる。
「…待っててくれたんだね。でも…」
オウギが視線を向ける先。
「……こくっ……こくっ……」
オウギのベットに腰掛けていた少女は眠りかけていた。それも仕方のないこと。今回オウギの宿泊代はしている部屋は良い価格である。当然それに比例して家具も良い物を使用している。普段は良くてクッション、なければ硬い床に直接寝ているであろう奴隷の少女が寝てしまうのも納得であった。
「…うぅ〜。…くぅ……はっ‼︎。も、ももも申し訳ありません旦那様!。私…」
船をこいでいた少女が人の気配を感じ目を覚ます。そして目の前にはオウギの姿。慌ててベットから飛び降りそのまま床に土下座をしようとする。
「ちょ、ちょっと待って。落ち着いて。そんな床になんて座らなくてもいいから。こっちの椅子に座りなよ。」
少女の態度にぎゃくにオウギが慌てふためく。
「……………。」
しかし少女はその場から動く気配はない。ピクリとも動かずまるで頭の上を嵐が過ぎるのを待つかのように平伏し続ける。これも奴隷としての生き方が体に染み付いているが故だった。
「はいはい、こっちに座ってね。」
そんな少女を見てオウギは強引な手段にでる。少女の背中から手を通し持ち上げる。そして椅子の上に座らせる。
「え⁉︎、ちょっ…わっ!。」
「ふぅ、これで良しと。やっぱり話をする時は目線を合わせないとね。」
少女を座らせた椅子の正面にもう1つ椅子を運びそこに座る。
「…すいません。…こんな凄い部屋に入ったのは初めてで…ベットに触ってたら…私…寝ちゃってて。」
観念したかのように少女が話始める。
「それは別にいいんだけど…お風呂入らなかったの?。」
「え?、あ、あの…私!…に、臭いますか?。」
オウギの発言を聞き少女が自分の体や着ている服の匂いを嗅ぎ始める。
「…そうですよね、臭いますよね。すいません。」
その結果自身からある程度のニオイが発せられていることを実感した少女は顔を赤くしながら下を向く。
「…お風呂は…背中を流すお仕事の時に…入れるくらいなので…ごめんなさい。」
「…私もう行きますね。旦那様のお役に立てないし…その…臭いし。」
少女が立ち上がり部屋を出て行こうとする。オウギから渡されたお金はきっちりと机の上に置かれたままになっている。
「あーあ、そう言えばこの部屋少し暑いなー。また少し汗を掻いちゃったかもしれない。もう一度お風呂に入ろうかなー。誰が背中を流してくれないかなー。」
それを見たオウギは少女の性格を理解する。こんな幼い少女でも自分のプライドを持っている。理由なき施しを受けることはないだろう。それならば…
「…これは正式な依頼だよ。僕の背中を流してくれるかな?。」
「…!。は、はい!。精一杯務めさせていただきます!。」
「ありがとう。さっぱりしたよ。」
「私の方こそ…初めてでした。」
しばらくして風呂から上がってきたであろう2人。体から湯気を出して気持ちよさそうにしている。少女の服はオウギの魔法によって洗濯され清潔になっている。さらに変わったことがもう1つ。
「…初めて洗髪料という物を使わせていただきました。いつもは…背中をお流しするときの残りで全身を洗っていたので。」
体を洗う石鹸などと比べると洗髪料、シャンプーは高価であった。香料や蜂蜜が入ったそれは高級な宿の特別な部屋にしか置かれてはいない。それを使うことによって少女の髪は光沢を取り戻し頭に生えているケモ耳もフサフサになっている。
「さて、落ち着いただろうし僕と話をしようよ。お金はきっちりと払うから。」
今度こそ話をしようとオウギが言うが…
「…旦那様は良い人です。でも、だからこそ、甘えるわけにはいかないのです。」
少女は椅子には座らずにオウギの目を見て話をする。その目は何か強い意志を秘めた目だった。
「私の仕事はお背中をお流しすることです。…仕事が終わりましたので今日は失礼させていただきます。」
あえて事務的な話し方をする少女。それは自分自身に生きる世界が違うと言い聞かせているかの様だった。
「…ありがとうございました。…私はあなたという人を忘れることはないでしょう。」
それでも漏れ出す本音。奴隷として生きてきて初めて出逢った変わった人。その思い出は強く刻まれることになる。
「そうか。…君の名前を教えてもらってもいいかな?。」
「私は奴隷です。旦那様に教えれるような名前は持ち合わせておりません。」
「どこに行けば君と会える?。」
「それは分かりませんが…この街から私が出ることはないです。」
「…サヨナラは言わないよ。」
「もとより奴隷には勿体無いお言葉です。…失礼いたします。」
去り際ドアが閉まる瞬間の少女の顔。
「……なんだかな。」
オウギの言葉は広い部屋の中で消えていったのだった。




