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中核都市と、ある奴隷

「おぉー、でかい街だ。凄いなぁ。」

 オウギの眼前に広がるのは大きな門。それに沿うようにして壁が築かれている。


『中核都市 アルカディア』

 この地方、ノードルマン家が治める領地の中で指折りの都市であった。工業や魔法が発展し冒険者も実力者揃い。常に人で賑わう大都市。


「…おい!。そこの男、止まれ。」

 門を潜ろうとするオウギを呼び止める声が聞こえる。制服を身に纏った男であった。


「はい?どうかしましたか?。」


「お前見ない顔だな。どういう目的でここで来た?。ここに手を置いてみろ。」

 男が手に持つのは魔法の玉。当然やましいことのないオウギはそれに応じる。


「んー目的ですか?。特に目的はないですけど…約束で世界を周ることにしてるんです。それで立ち寄っただけなんですけど…」


「ふーん、…そうか、悪かったな呼び止めたりして。最近盗賊が増えてきているらしくてな。なんでも領主様のご令嬢、エリザベス様も襲われたらしい。その時は腕利きの者に助けられたらしいが…。そんなわけで見覚えのない人には鑑定をさせてもらってるんだ。お前は大丈夫だったよ。」

 なんの反応もない球を見て、男がオウギに頭を下げる。一般的に兵士は平民に横柄な態度をとりがちだがここノードルマン領ではそんなことはなく対等に接している。


「…へぇ、そうなんですね。…ちなみにその腕利きの者ってどんな人なんですか?。」


「そこまでの情報は入ってきてないな。だがきっと名のある冒険者に違いないと思うがな。あんたは商人か?。頑張ってこの街で良い商売をしろよ。この地方は成り上がるには最適だ。横領する役人なんかいないからな。領主様のお陰だ。」


「ようこそアルカディアへ。」







「…むふー…。柔らかいベットだ。」

 オウギはある宿の一室で疲れた体をベットに預けていた。大きなベット、10畳程の部屋ともう1つ同じ大きさの部屋がある。『アルカディア』、まさしくこの街の名を冠するに値する素晴らしい宿だった。当然それなりのお値段なのだがオウギは前回の魔族討伐の折、百万ギルを手渡されていた。それは一般的な宿であれば100日は宿泊出来る金額である。その金を使いこの宿を3泊前払いしてある。宿泊代は十五万ギル、通常の5倍である。


「…仕方ないよね。あんまり空いてる宿がなかったんだし。部屋もあんまり空いてなかったし。」

 言い訳するかのように1人呟くオウギ。


「…風呂に入ろう!。この部屋には風呂がある。」

 そう、珍しいことにこの部屋には風呂が備え付けられてある。それも2つ。人目を気にせず入浴することが出来るのである。


『トントンッ…。トントンッ…』

 ドアをノックする音が聞こえる。その音はどこか遠慮するかのようであった。


「はいはい、今開けます。」

 オウギがドアを開く。そこには


「だ、旦那様お背中をお流ししましょうか?。え、えーとその他にも、マッサージもします。あの、その代金は五百ギルになります。」

 少女が立っていた。紺色の髪を肩の高さにした少女。しかしその姿は少し薄汚れているように見えた。その少女はつぶらな瞳でオウギを見つめる。


「……!。……それじゃあお願いしようかな。中に入ってよ。」

 オウギの目線は少女の首元と頭に向けられていた。少女の首元には青い首輪。それは奴隷の証に他ならなかった。この国では奴隷が公に認められている。青い首輪は借金奴隷の証。他には赤の犯罪奴隷、緑の戦争奴隷がいる。


「わぁ!。ありがとうございます!。」

 オウギの色良い返事を聞き歓喜の表情を浮かべる少女。その感情を表すかのように頭の上のあるモノがピコピコ動く。


「…(これが獣人か。)可愛いな。耳触りたい。」

 少女の頭の上には動物の耳のような物が付いていたのだ。人の耳の位置には何も付いていない。獣人…人のような見た目ながら耳と尻尾が生えている。かつては差別を受けていたが現在この国では一般の国民となんら変わりはない。


「…へ⁉︎。あ、うぅ、あの…し、失礼します!。」

 オウギの言葉が聞こえたのか少女が顔を赤らめながら耳を両手で抑える。そして照れを隠すかのように部屋の中に入る。


「…広い部屋…。…羨ましいな…。私は…このまま…。」

 中に入った少女はオウギの滞在する部屋を見て声をこぼす。そこには憧れと諦めの感情が込められていた。


「まぁ、ゆっくりしといてよ。僕はお風呂に入ってくるから。」

 そんな少女にオウギはなんでもないように言う。


「え⁉︎、まっ、待ってください。私は旦那様のお背中をお流しする為に…」

 当然少女からも戸惑い、焦りの声が聞こえる。オウギの意図が理解できない。


「あぁ、違うよ。僕は君の時間を買ったんだ。その時間をどう使おうと僕の勝手だよね。」


「部屋の中の物は勝手に使って構わない。風呂に入ってもいいよ。なんかもう1つあったから。」


「時間も気にしなくていい。」

 そう言いオウギが机の上にあった紙幣を手渡す。1枚千ギルの紙幣が5枚。少女の一晩の稼ぎとしては十分過ぎる額だった。


「そんな!こんなに頂けません!。私なんて…」


「その先の言葉は言ってはダメだよ。言葉には力が宿るからね。」


「もし、あれだったらそのお金を持って帰っても構わないよ。そのお金はもう君の物だ。」


「だけど…僕は君と話がしたいから…居てくれたら嬉しいな。」

 そう言い残しオウギは浴室へ向かって行った。

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