抗う者達
「フッ…フハハハハッ‼︎。ザンネンダッタナニンゲン。ニンゲンハミステレナイ。ソコガチメイテキナヨワサダ。」
丸まった状態から立ち上がり魔族が言う。その足元には血溜まりに沈むオウギの姿があった。
「オウギ殿!。なんでこんなところに!。いや、それよりもコール!。オウギ殿を任せたぞ!。」
地に伏したオウギを見たマスターは斧を振りかぶりながら魔族に接近する。オウギを魔族と引き離すためである。
「お、おぅ。お前らいくぞ。」
コール達がオウギを隅に運び手当を始める。
「アルク、オウギの状態はどうなんだ?。」
「これは…くそ、駄目だ血が止まらない。俺の回復魔法じゃ効果がない!。」
アルクの手に白い光が灯り、オウギの体を照らすがオウギの容態が良くなる気配はない。
「なんとかしろよ。オウギのお陰で街のみんなは無傷だったんだぞ!。」
「分かってる!。それでも…この傷はここでは無理だ!。ギルドで多展開魔法陣を使えば…」
多展開魔法陣。幾人もの魔力を折り重ねて強力な魔法を発動する装置。貴重な物のため各街に1つしか設置されていない。
「…それにはここから出ないといけない。それに…あそこで倒れてる奴らの中の魔法使いの力もいる。」
ゲンが倒れている街の人々の中にギルド所属の魔法使いがいることを伝える。
「…ってことは。アルクお前はオウギのそばに控えていてできるだけもたせてくれ。」
トーマが双剣を鞘から抜き構える。
「…死ぬなよ。」
「お前こそ絶対に死なせるなよ。」
そう言いコール、トーマ、ゲンの3人がマスターの加勢に向かう。
「…クククッ。オシイナニンゲン。キサマガアトサンジュウネンワカケレバイイタタカイニナッタカモシレンナ。」
「はぁはぁ…あいにくと人間は歳をとるものなんだよ。」
マスターは魔族との戦闘で既に傷を負っていた。斧にもヒビが入り欠けてしまっていた。魔族の体から出る棘を突破することができていなかった。
「マスター!。その腕は…!それに…」
「ふん、暫く使っていなかったからな、なまくらになっちまってたらしい。」
「それよりオウギ殿はどうだ。」
「ダメだ。少なくともこの場所を出ないことにはどうにもならんらしい。」
「…そうか。なら…使うしかないな。あとは…頼むぞ。」
マスターが胸元からビンを取り出す。中身は『運命のいたずら』。命と引き換えに相手の魔力を空にする魔道具であった。マスターは自身の命を糧に魔族を討つ覚悟を決める。しかしマスターは失念していた。目の前の魔族は空間魔法を使うということを。
「…ニンゲン、ミョウナモノヲモッテイルナ。…ドレ『ゲート』。」
マスターのビンを持つ手の前に黒い空間が現れそこから出た魔族の手がマスターの腕ごとビンを奪う。
「⁉︎…くぅぅぅぅぅ、!。…くそったれが。…魔道具を奪われた。」
肘から先を引きちぎられたマスター。腕を抑えながら歯をくいしばる。自身の腕が引きちぎられたことより唯一の勝機であった魔道具を奪われたことに自分を許せない。
「フン、マドウグカ。コレガオマエラノキボウトイウナラ…」
『バリンッ‼︎』
「コレデオワリダナ。…アトハタダシヌノミ。」
ビンを砕いた魔族は絶望が染み渡るのを待つかのようにゆっくりと首を回す。
「うおりゃぁぁぁぁ‼︎」
「ナンダムシカ。ソコデオトナシクシテイロ。ジュンニコロシテヤル。」
後ろから忍びよったコール。その決死の一撃も羽虫を払うかのように払われてしまう。
「…サテ、チヲナクシスギダナ。スグニラクニシテヤル。」
魔族の腕がマスターに振り下ろされる。その場の全ての人が目を瞑ってしまっていた。
「…ナンダ?。コレハ…イッタイナンダァァァ‼︎‼︎‼︎」
突如魔族が叫び声をあげる。本来来るはずの痛みがこないマスターは不審に思い顔をあげる。そこには…
「…イッタイナニガオコッテイル。」
マスターと同じく肘から先を失った魔族の姿があった。