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アネッサの迷い

 領主様との話し合いが終わった。私達鬼人族をちゃんと保護してくれると約束してくれた。その時には大公の証での証文まで渡してくれた。この証文の拘束力は高い。もし違えればその大公家の信用は地に落ちる。そこまでの証拠を提示して保護を約束してくれたのだ。私は不覚にも涙を流してしまった。それは安堵からなのか一抹の寂しさからのか分からなかった。でも、これで、これで…


「…安心して死ねます。オウギさんには御免なさいと伝えていただけますか?。」

 これは初めから考えていたこと。オウギさん私の罪を許してくれた。共に旅に出ようと誘ってくれた。でも…私のしてきたことは簡単に許されることではない。いや、許されてはいけない。ロイドの命を受け私は暗殺を生業としてきた。勿論同胞を守るためだ。それでもこの身の罪は消えない。オウギさんと一緒にいたら迷惑がかかる。だから同胞の安全さえ確保されたらこの身でその罪を贖うつもりだ。今まさにその時。


「…オウギ殿はお主の罪を受け入れると言っているぞ?。」


「オウギさんに迷惑はかけたくない。私はロイドの元で闇の仕事をこなしてきた。当然恨まれている。その復讐の刃が私に向くならいい。でもオウギさんやユーリちゃんに向く可能性もある。その可能性が捨てきれない以上私は怖くて一緒にいられない。」

 私のせいで傷ついたらと思うと目の前が暗くなる。それならいっそここでこの命を断ちたい。


「…本当にそれで後悔はないのか?。私は亜人種の保護の為そこら辺の学者よりも学を修めていると自負している。君のそのツノは…覚醒に伴うものだろう?。…見つけたんじゃないのかい?心から臣従する相手を。」

 …その通り。オウギさんのお陰で私にはツノが生えた。鬼人族にとってツノは忠誠の証。同族間では決して発生せず発生すれば隔絶した力を手に入れることができる。私の場合はまだ半覚醒だからそこまでだけど。鬼人族は怖がりで臆病、だけど繋がりを欲してしまう。それはこのツノが原因かもしれない。


「…まだオウギさんにはツノのことは話してません。話すとオウギさんは優しくしてくれるから。…離れ難くなっちゃう。」

 決めた覚悟が揺らいじゃう。


「…成る程。……オウギ殿ということらしいですよ。」

 …え?何…?…いきなりオウギさんの気配が出現した。今の聞かれてた。


「…なんで…魔法を使い過ぎて休みに行ったんじゃ。」


「そんな顔をしてれば僕でも気付きますよ。アネッサさんはいつも種族の為に体を張ってきた。今回も同じことをするつもりなんだろうなと思いました。」

 …バレてたのか。暗殺者の適性を持つ者としてポーカーフェイスには自信があったんだけどな。


「僕は罪は受け入れますが…命を断つことは許していません。貴女には僕と一緒に生きてもらいます。そう言いましたよね。」

 ダメ、オウギさん。そんなこと言わないで。覚悟が…ヒビがはいる。


「でも!私のせいでオウギさん達に何かあったら…。そう考えるだけで…胸が痛むんだよ。」


「それは貴女が優しいからです。誰よりも自己犠牲的で生きてきた貴女だからです。そんなアネッサさんを僕が守ります。」

 オウギの言葉を聞いているとツノが熱くなるのがわかる。…これはひょっとして…。


「…それでも僕と一緒に来てくれませんか?。」


「…私といると復讐の巻き添えになるかもしれない。」


「僕が退けます。」


「私といると反亜人種の場所で何かされるかもしれない。」


「僕はアネッサさんもユーリもカノンもグーちゃんも守りますよ。それに僕も本当に人か分かりませんしね。」


「私といると…私といると…わたし…」

 ダメだ、自分を抑えられない。せっかく覚悟を決めたのに。…生きたい自分を抑えられないよ。


「…アネッサ、僕と一緒に来い。」


「…っ!…はい。」

 オウギさんの強い口調を聞いて私のツノの熱は最高に達する。あぁ、これが…心からの忠誠を誓うってことなんだな。私はその時人生で一番満たされていた。この瞬間の私は世界で一番幸せだ。そう確信した。

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