第20話 魔導書
投稿が遅くなってしまいました、済みません。<(_ _)>
服を着替えて(もう、四の五の言わないが、またピンクの服だよ、ひらひらだよ、今度は横の縞々だよ、はぁ……いや、めげるな俺)、ご飯を食べて、腹ごなしに持ってきて貰った魔導書を読むことにする。ストレッチはその後だな。
お姉ちゃんはソファに座っている俺の隣に陣取り、一緒になって何かを読んでいるみたいだ。
1冊目の魔導書を手に取り表紙を見る。
「えーと、なになに……」
『魔導書 一般民生魔法』
表紙にはそう書いてあった。普通の人向けの日常生活用魔法といった所だろう。
右開きの魔導書の表紙を捲ると、右側に見た事の無い紋章が、左側に本文が現われた。
紋章はよく魔法使いとかが持っている杖が斜めに描かれ、その後ろに六芒星を基本とした図形が記されていた。いかにも魔法らしき紋章だった。
『1:魔法初心者の皆さんへ、人は皆誰でもが魔法を使うことが出来ます。そしてこの魔導書は魔法の説明書です。幾多の種類の魔法が記載されています。この中から貴方が必要とする魔法を選び習得して行きましょう』
成る程、使いたい魔法を探せば良いんだな。ただ、魔導書って雰囲気じゃあない気がする。もっと、こう、仰々しい書き方をしてるものだと思っていたよ。なんか説明書みたいだ。
『2:習得したい魔法の魔法陣を覚えましょう。魔法陣を正確に覚えないと魔法が発動しません。繰り返し見てよく覚えましょう』
……魔法陣覚えているよな、俺。ちゃんと頭の中に浮かび上がるし。
『3:魔法陣を覚えたら、次に呪文を覚えましょう。これも間違えると魔法は発動しません、一言一句間違えずにきちんと覚えましょう』
……うん、呪文も覚えているよな。
『4:2と3が正確に出来ると、貴方の頭の中に魔法の発動キーが浮かび上がります、それで魔法の習得は成功です。万が一発動キーが頭の中に浮かび上がらない場合は、その魔法の習得は失敗になります』
……ちょっと待て、習得は失敗になる? 何で? どうして? 誰でも使える筈じゃあなかったのか?
『5:例え失敗しても、嘆いてはいけません。時を経てから再び挑戦しましょう、何らかの要因で成功することもありえます、自らを信じて再び挑戦しましょう』
……なにか凄く胡散臭い文章に見えるのだが、気のせいだろうか。まあ、魔法なんてよく判らない代物だから、そう云う事もあるのだろう。
『6:何度か挑戦しても駄目な場合は駄目なので諦める事も肝心です、それだけの時間があれば、他の魔法を習得するのが利口というものです』
……もしかして喧嘩を売っているのだろうか。
結局は習得することの出来ない魔法もあるって事か。
確かに魔法陣を見て、呪文を読んで、発動キーを手に入れた。つまり、俺は昨日、今日と魔法を習得できた訳なのだが……。
『7:無事魔法を習得出来ても、直ぐ様に魔法を使える訳ではありません。次に、魔法の使用方法及び制御方法を学び会得に至らなくてはなりません。貴方が習得した魔法と同じ魔法を会得した術者を探し、指導を受けましょう。では健闘を祈ります』
……成る程ねえ、自分が習得した魔法を既に会得している人に教えて貰って学べと云う事か。しかし、魔法別にそれをしなければならないのだろうか。それに、随分と投げやりな様に思えるのだがなあ。
まあ、習うのは別に嫌じゃない、そうやって鍛えて貰って来た訳だしな。今の処、俺はミランダさん、コリーンさん、アイリーンさんに魔法を教えて貰うのが現実的だが、禁止されている相手に、何処まで教えてくれるのだろうか。あ、ジェシカさんも民生魔法を使えるとか言ってたよな。
そして次の頁を捲ると、見開きで、右側の頁には魔法の説明文が、左側の頁には魔法陣が描かれ、魔法陣の下には呪文が記されていた。さあ、魔法の始まりだ。
『火花[スパーク]』:火花を発生させる。消費魔力:1。属性:継続。効果範囲:術者周囲・任意位置。
何に使うんだこんなもん。火でもおこすのに使うのか。
術者周囲・任意位置と云うのは、俺の体の周りの一定範囲内の任意の場所に魔法が発動すると思って良いんだろうか。
そうすると俺の魔法力は大きいから、結構遠距離でも火花を発生させる事が出来るのかも知れない。だとすると、爆発物に遠くから火を付ける事が出来るかも知れないな。
だとすれば使い道はあるのかも。
ん?発動キーが書いてないな。そうか、発動キーを手に入れる事が出来なければ魔法の取得には失敗している訳だから書く必要が無いのか。と云う事は魔導書があっても魔法を使う事も出来ない訳だ、成る程ね。
『水滴[ウォータードロップ]』:水滴を発生させる。消費魔力:1。属性:継続。効果範囲:術者周囲・任意位置。
これはちょっと使い道が判らないな。
『薄い光[ペイルライト]』:小さく淡い光を発生させる。消費魔力:1。属性:継続。効果範囲:術者周囲・任意位置。
全然使い道が判らない。蛍の光ぐらいの明るさなのだろうか。何の為にあるんだ。あ、俺だったら通信手段として使えるかも知れない。
『暖かい空気[ウォームエアー]』:熱を持つ風を発生させる。消費魔力:2。属性:可変継続。効果範囲:術者掌内。
これは、お風呂で使っていたドライヤー魔法だ。ようやく参考に出来る魔法が出てきた。属性が継続なのは風を送り続けるからかな。可変と付いているのは多分LVがあったからそれだな。LVによる違いは聞いてみないと判らないと云う訳だ。風が出るのは掌からって訳だ、うん、そうだった。
『明かり[ライト]』:あかり程の光を発生させる。消費魔力:2。属性:継続。効果範囲:術者掌内。
おっと、出てきた、明かりの魔法。ミランダさんに教わった通りにやって掌の所に出た訳だが、遥か上空に中心があったと思うんだ。まあ掌が中心だったら、あの時の俺は明かりの真っ只中にいた事になった訳だから、きっとあれで良かったのだろう。
その後も色々と魔法が出てきた。ほとんどの魔法が消費魔力1~3ぐらいだった、民生魔法だから、エコノミーで負担の掛からない魔法なんだろう。
最後に開いた頁には、左側に身分証明書と同じ様な小さい魔法陣が付いた縁が描かれていた。『紋章刻印[クレスト・スタンプ]』の魔法陣だ。しかし、その中には何も書かれていなかった。何なのだろう。
2番目の魔導書を開く。
『初級治癒師魔法 魔導書』
今度は治癒師の魔導書だ。アイリーンさんの専門だな。
『眼球治療[キュアアイズ]』:軽微な眼球の損傷を治療する。消費魔力:300。属性:単。効果範囲:術者・接触。
これか、間違っていたのは。属性は一回こっきりの魔法だったから、これで良いんだろう。効果範囲が接触ではなく、術者周囲って事になった訳だ。
他にも傷を治したり、骨折を治したりと魔法が細かい。消費魔力は民生魔法と比べて、いきなり跳ね上がっていた。
この魔導書にも最後に『紋章刻印[クレスト・スタンプ]』で描かれた頁があった。
最後の魔導書を開く。
『初級魔術師魔法 魔導書』
魔術師用の魔導書だ。コリーンさんの専門だ。
『魔力解析[マジックアナライズ]』:消費魔力:1。属性:継続。効果範囲:術者・接触。
この魔法はここに書かれていたのか。民生魔法の様な気がしてた。
他にも爆発やら、雷やら、攻撃用の魔法や障壁等の防御用の魔法やらその他やら一杯あった。
この3冊の魔導書の魔法は全て習得していることは判った。道理で沢山の魔法を覚えていた訳だ。しかもどう考えてもこれが全てではないと思う。だって初級だの、一般民生だのだからね、むしろこれ以上の数の魔法が有るのかも知れない。
さて、一通り目を通した訳だが、結局この魔導書はリファレンスマニュアル見たいなものなのだろう。
しかし、魔導書だけでは魔法の使い方は判らなかった、これは困った。
明かりの魔法であんなことになったんだ、物理効果を起こす魔法を使うことは出来ない。精神に効果を及ぼしそうなマユリの魔法もこれ以上は危なくて使えない。エリック紋章官の魔法は使い方が判らないのと今の処使い道がないのとだ。
そう思いながらマユリを見る。早くマユリに掛けた魔法が解けないものだろうか。そうすれば使い方だけでも聞けるのに。
他に影響を及ぼさない魔法は無いものかと、再び、魔導書を捲っていたら、治癒師の魔導書で気になる魔法を見つけた。
『疲労回復[ファティグ・リカバー]』:疲労した体の体力を回復する、消費魔力:2000、属性:単、効果範囲:術者・接触。
もしかしたら自分で自分に触って魔法を掛ければ。魔法訓練場からの帰りにへばった時に、これを使えば帰ってこられるかも知れない。それに体力の回復だ、よしんば目を治した時の様な事があったとしても体力が回復するんだ、害にはなるまい。
しかし治癒師の魔法は消費魔力が多いな、これは特に多い。アイリーンさんの魔力はどれぐらいだったかな、使っても何回かって所だったかな。確かに俺の魔力だと贅沢に魔法が使えそうだが、なんかそれは狡い様な気もする。そしてやっぱり気になるのは魔法力がどう影響するかだな。
兎に角この魔法はアイリーンさんに後で聞いて見るか。
そして、この魔導書にも最後に『紋章刻印[クレスト・スタンプ]』で描かれた頁がある。もしかすると奥付みたいな物でも書いてあるのかも。
一通り目を通して、魔導書を閉じる、さてストレッチでもと思ったら、お姉ちゃんが俺に寄りかかるようにして眠ってしまっていた。やっぱり早起きさせちゃったのかな。
お姉ちゃんを起こさないように、ソファの背にもたれかかるようにしてあげて、その場を離れる。お姉ちゃんからなるべく離れた所に座ってストレッチを始めた。
おおっ、昨日よりも体が動く、もしかしたら、その前まで臥せっていた所為だったのかもしれない、全然調子いいじゃないか。女の子の体の方がやはり柔軟性が高いのかもな、その点だけは良いことだ、うん。
どれぐらいストレッチをやっていただろうか、額にうっすらと汗をかき始めた頃。
「へくちっ! んぁ あっ、ローズマリーどこっ!」
くしゃみで眼を覚ましたお姉ちゃんは、俺がいたはずの空間を手探りして、俺が捕まらなかったので慌てていた。
もしかして朝起きた時もこうだったのだろうか、だとしたら悪いことをしちゃったな。
しかし、なんか慌てた顔が可愛いな。
「お姉ちゃん、ここだよー」
俺は手を上げ、お姉ちゃんに向かって振った、開脚屈伸に挑戦していた俺はソファの影に隠れてお姉ちゃんからは見えなかったみたいだ。
それは兎も角、お姉ちゃん、よだれ、よだれ、早く拭きなよ、お姉ちゃんはお姫様なんだからさ。
「もうっ、又どこかに行って迷ってしまったのかとお姉ちゃん慌てちゃったじゃないの」
今度はほっぺたを膨らませた、うん、これも可愛いな。
でも、お姉ちゃんは俺が迷ってないかを心配してたんだね。
「うん、ごめんね、お姉ちゃん」
「ううん、ローズマリーが居てくれるのなら、別にいいのよ」
ん? お姉ちゃんもストレッチかな、両手を組んで、体を左右に捻ったりしている。
コリーンさんが手配した侍女さん達が、昨日の様に部屋にお昼を持って来てくれたので、お姉ちゃんと一緒にそれを食べる。
食べ終わった後で、片付けを手伝おうとしたら「姫様が招かれたお客様に、その様な事をさせたと知れたら、怒られてしまいます」と断られた。昨日、片付けを見ていたから、つい片付けを手伝おうと思ったんだが。
侍女さん達にとっては、多分今の俺はアロマなんだろう。お姉ちゃんも知らない顔だったらしく、大人しく食事をしていた。
お昼寝(侍女さんに寝かしつけられたんだ、きっと伯爵の意趣返しに違いない)をしている間に侍女さんたちは戻っていったみたいだった。因みにお姉ちゃんもお付き合いと称してお休み中であるのは言わなくても判るよね。
と云う訳で、お姉ちゃんは寝かせてあげといて、再びストレッチに勤しむ。
その内に、コリーンさんとマシロさんが帰って来た。
「姫様方~只今戻りました~仕立て職人の手配も完了しました~後ほどこちらに来られますよ~」
「あ、お帰りなさい、コリーンさん、マシロさん、ご苦労様です」
ストレッチを止めて、二人を出迎える。すると、残る二人は絵師の手配かな。
「お気遣い、有難う御座います、ローズマリー姫様」
マシロさんは丁寧に礼をしてくれた。
「姫様は汗をかいていらっしゃいますね~採寸の前に汗を流しに参りましょうか~」
コリーンさんが笑顔で言ってくる、楽しそうだ。
まあ丁度いいかも、かいた汗に髪がくっ付いて気になりだしていた所だったし、ちょっと服も汚しちゃったからね。こう云う事にはもっと無頓着にしていた筈なんだけどな、何故か今は気なってしまう。
と云う訳で、大浴場へと向かった。コリーンさんが付いて来て(実際は案内してだな、迷うかも知れないからね)くれて、マシロさんはお姉ちゃんと一緒だ。
道すがら思った、ミランダさんはいないけど、丁度良いので、昨日言っていた事を聞いてみようと。そう云えばミランダさんに今日はまだ会ってないな。
「コリーンさん、今日はまだミランダさんに会っていませんけど、どうしたんですか」
「ミランダ様は~今日はお仕事がありまして~お会いできないのです~」
そうなのか、残念だけど仕事があるのなら仕方ないよな。
「コリーンさん、昨日言ってましたよね、どうしたら魔法が使えるようになるのか知っているかって。俺、さっき、持ってきてもらった魔道書を見たんだけど、結局、魔法の使い方が解らないんですよ、出来れば、魔法を使えるようになるまでの説明をお願いできませんか」
ミランダさんがいないけれど答えてくれるかな、駄目だったら、ミランダさんと会うまではおあずけかな。
「姫様は魔法をお使いになりたいのですか~」
「別に積極的に使いたい訳では無いですよ、ただ、使えるようになっておきたいだけで」
「どうして魔法を使えるようになりたいのですか~」
「一つは性分かな、使えない技、知らない技があれば自分の技にしたくなるんですよね。もう一つは、お姉ちゃんを守りたいからです、あの笑顔を守りたいから」
魔法なんてものは使えるなら、その時になって使えばいいやぐらいに思っていたが、いきなり禁止になってしまった。
禁止になるぐらいならまだいい、俺も真剣が禁止になった事はある訳だしな。
だが、昨日はマユリの魔法にしてやられた、この体になってしまったばかりだったとはいえ、魔法であってもやられてしまった事は俺にとってはやっぱり許せる問題では無い。
だから、魔法を何とかしたい、戦う力が足りない分を補ってくれそうな魔法もあるようだから尚更だ。
そして、お姉ちゃんを守る為にも魔法が使えるようになりたい。
力なんて今すぐ手に入る訳はない、死ぬ前だって小さい頃から鍛えられて来た結果の力だ、だから魔法もすぐに使える準備を始めたい。
「そうですか~では私が知っている範囲で良ければお話ししましょう~魔法を取得する方法は魔導書で読みましたね~ですが普通は魔導書を開き魔法陣を見ながら呪文を読んで発動キーを手に入れます~それで魔法の習得は完了します~」
有難うコリーンさん。魔導書には覚えろと書いてあったけど、まずは本に書いてある魔法陣を使って、発動キー取得までを先に済ませればいいのか。やっぱり聞かなきゃ解らないものだな。
昨日俺は既に魔法を習得していたから、試しに使う為に、自分で地面に魔法陣を描いて、呪文を唱え、発動キーを使った訳だけど、普通はそうやってまず呪文を習得するのか。案外、簡単に習得できるんだな。
「今簡単だと思われましたね~ですがそれが簡単ではないのです~魔導書一冊を全て習得出来る人はほとんど居ないのです~それどころかほんの幾つかしか習得できない人の方が多いくらいです~ミランダ様は恐らくラドック様に次いで習得した魔法の数が多いと思われますよ~でも全部ではないかもしれませんね~」
たらーりと冷汗が流れる。習得できないかも知れないとは魔導書には書いてあったけど。俺、3冊全部習得してるんだよな、それに魔法陣を見ただけで結果的には習得してるんだ。やっぱりそれっておかしいと思うんだ。だからコリーンさんはどうやったら魔法が使えるようになるか知っているかと聞いて来た訳だ。これは言った方が良いのか、言わない方が良いのか、いや、マユリの魔法でおかしいと思っているだろうから言った方が良いよな。
「顔色が悪いですね~どうかされましたか~」
判ってるんだ、コリーンさんの笑みが強くなっているから間違いない。ちゃんと正直に言おう。
「あの、コリーンさん、俺、魔導書3冊全部習得してるんですけど、あとマユリの魔法と、さっきエリック紋章官の魔法と全部……」
「あら~全部話して頂けたのですね~有難う御座います姫様~いい子いい子して差し上げましょうか~」
子供扱いしないで……そういや子供だっけな。ええい、今はそれはいいんだ。
「いえ結構です、それよりもその先をお願いできますか」
話をしながら歩いている内に大浴場までたどり付いた、俺とコリーンさんは脱衣室の扉を開き中に入る。
「判りました~発動キーを入手して魔法を習得しても~それは習得しただけで~魔法を会得した事にはなりません~これは魔導書に書かれていましたね~会得するには~まず魔法陣を覚え込みます~魔法陣をそらで正確に書けるようにならないと~魔法陣魔力展開をしても意味はありません~それが出来ない人は魔導書や魔法陣を描いた物品を所持します~」
成る程、あの魔導書にはそう云った使い道があったのか。だとすれば、魔法陣と呪文の頁と簡単な説明しか書いていない事も理解出来なくはない。持ち運びには軽い方が良いからな。
「そんなに覚えるのが大変なんですか、さっき魔導書見たときは、はっきりと覚えてましたけど」
「では~エリック紋章官から覚えた魔法陣を~魔力展開してみてください~」
俺は『紋章刻印[クレスト・スタンプ]』と『封印[シール]』の魔法陣を順番に魔力展開し床に描いた。
「最初の魔法は『紋章刻印[クレスト・スタンプ]』で~後の魔法は『封印[シール]』ですね~確かに姫様はちゃんと魔法陣を覚えられていますね~1度だけで覚えてしまうなんて大変素晴らしいのです~」
よかった、ちゃんと魔法陣を覚える事が出来ていたみたいだ。魔導書にあった魔法陣は既に記憶にあった魔法陣だったが、これは新しく記憶した魔法陣だから、きちんと覚えていられて良かった。
「魔法を会得する上で大事なのは~魔法を使う感覚をどれだけ自分の物に出来るかに尽きるのです~先程姫様が言われた性分と似たような事なのですね~会得までの手順を説明しますと~まず師となる術者から魔法の使方方法と注意点を学びます~例えば『明かり[ライト]』は姫様が使った方法で宜しいので他に言うべき事はありません~一番簡単で単純な魔法の一つですね~」
だから一番最初に基本の『明かり[ライト]』を勧めてくれたのか。だけど、俺が使った『明かり[ライト]』はあのようになってしまった。
「そして魔法取得直後の術者は魔法の制御方法を知らないのでまずはこうなります~これは一切の制御をしていませんので~姫様が使ったときと同じ状態と考えて下さい~」
コリーンさんが上げた掌に明かりが灯る。『明かり[ライト]』の魔法を無音発動したんだ。ちょっと眩しい電灯ぐらいだろうか。
「そして私が普段使う時はこうなります~これが師となる術者が手本として教える~魔法を制御した状態です~」
魔法によって灯された明かりが、少し暗めの電灯ぐらいになった。
「魔法習得直後の状態から~師が教えた手本の状態になる様に心がけながら繰り返して魔法を使用し~近づけて行く練習をしていかなければなりません~こうです~」
習得直後の明るさに戻り、そこから徐々に明るさが落ちて行く。そして手本の明るさになった所で変化が止まった。
「今は短い時間で変化をさせましたが~本来はこの魔法制御を会得するまでにはかなりの時間を必要とするのです~この時に師となる術者は制御する為のコツなども教えます~ですがこれを会得出来ない術者もいるくらいなのです~ですから一つの魔法の会得までには時間が掛かるのです~」
『明かり[ライト]』を消したコリーンさんは俺が着ている服を脱がし始める。早く服を自分で着たり脱いだり出来るようになりたいのだがなあ。
「勿論それを会得しなくても~普通の術者なら使って使えない事はありません~しかし攻撃魔法などは会得できないと非情に使い勝手が悪くなってしまいます~なぜなら魔法の制御が出来ないと~必要以上の損害を出してしまう事もあるからです~そして手加減をする事も出来ないのです~何よりも姫様が『明かり[ライト]』を魔法を制御できずに使った場合があれ程のものだったので~ミランダ様は姫様に魔法を使用しないように考えられたのだと思います~これが私達の常識なのですね~」
俺は魔法の制御をする方法を知らないから、どの魔法を使っても最初は出力全開、確かにこのままの魔法力で全開状態の魔法を使うのは危険と考えるのも解る。そしてローズマリーは頻繁に魔法の練習に行ける状態ではなかったのだろうから(何せ臥せってしまうような状態だったのだから)魔法は取得しても会得は出来ておらず、結果、ローズマリーは何らかの方法で魔法力を下げる事が出来ていたはずだと考えたのだろう。
そんなに魔法の制御とは難しいものなのか、やったことがないから良く判らないけど、やっぱり危険と考えるのだろうな。しかも俺の魔法力だと魔導書がその通りかどうかが怪しくなってきた訳だから余計なのだろうな。ちょっと釈然とはしないけど、ミランダさん達はその常識の中で生きてきたんだ、郷に入っては郷に従えだよな。
でもだからといって勉強をしない理由にはならないよな、魔法を使えるチャンスが来たときの為にもね。
「そうですか、判りました、有難う御座いますコリーンさん」
「いえいえ~どう致しまして~」
汗ばんだ体と髪を洗い流し、お風呂から上がった後、コリーンさんは『暖かい空気[ウォームエアー]』のLV1、例のドライヤー魔法を使い俺の髪を乾かし始めた。俺は横目でその様子を見て、風速や暖かさ、手からどのぐらいの範囲で風が流れているか等、つぶさに観察し覚えてゆく。
えっと手をこう上げて、手のひらを前に開き、ちょっと肘を曲げる。大体掌辺りから風が前に、暖かさは家にあったドライヤーよりも少し温いかな、風の強さは軽く髪が靡くくらい、で発動キーが『暖かい空気LV1』あっ、やべっ。
頭の中でうっかり発動キーを唱えてしまった俺の掌から風が出るのと、コリーンさんの掌から出ていた風が止むのとは同時だった。
俺の目線とコリーンさんの目線が交差する。しばしの沈黙。
「こ~」
こ?
「こ~」
こ?
「これは~!!!」
一歩、又一歩と後退り、驚愕した表情になっていたコリーンさんは、叫ぶなり突然走り出し、脱衣室の扉を「バンッ!」と大きな音を立てて飛び出して行った。
「おーい、コリーンさーん、タオルを巻いただけの姿だよー、と言っても聞こえないよな」
しかし、困ったな、まだ髪は乾ききっていないんだよな。『暖かい空気[ウォームエアー]』は上手く使えたようだから、自分で乾かす事にしよう。
俺は自分でわしゃわしゃと髪を乾かし始めた。
ご意見、ご感想、お待ちしています。




