第三十三話:薬物と彼女事情
ドラッグ。この言葉を聞いた事が無い人は少ないと思う。
一度服用した者は、一時期集中力が高まり、勉強に集中出来たり、食欲が無くなりダイエットに成功するが、どんどん服用していくうちに依存症になり、知能障害や、手足が麻痺状態になる事や、死に至る事もある。つまり逃げたい人の必死アイテムって奴だ。他にも逃げる方法はあるのにわざわざ死に至るようなものを服用するなんて元から頭がおかしい奴なんだ。
そんなドラッグが、またニュース番組で特集されてるのは俺んちの近くの公園で起きた、少年殺人事件だ。
俺んちがテレビで映ったって喜んでたのも束の間、小さい頃から遊んでいたこの公園で起きたというショックの方が大きかった。
なんか被害者の遠い親戚のような気分で、今ニュース番組を見ている。
今見ていたニュース番組で分かった事は、少年の周りに粉末の覚せい剤がばらまいてあって、少年の制服のポケットから覚せい剤の粉末と注射器もあり、手首には注射を打った後があるため、薬物を服用した事に間違いないと言えるだろう。だが、薬物で死んだとは言えず、腹部には何者かが刃物で少年を刺した後があるため、刺殺であるだろう。少年の死体はベンチの上に置いてあったという。
これは本当に青春小説?と読者が思うのでここでこの話は止めよう。
「でも気になるよな。あの事件の犯人」
ありゃま。話を戻されちゃったよ。
屋良とも仲直りをし、いつもの音楽準備室で話をしていた。やっぱり近所で起きた事件だもの。気になるよな。
「やっぱり。俺もあの事件の後あの公園を通ったらパトカーや報道陣や野次馬とかいっぱいいて焦ったい。しかも取材されてとりあえず『ボスロトをやっても二億円は当たりません』って言っておいた」
「関係ねーだろ」
屋良のボケと大沢のツッコミも復活した。でも屋良は硲がいるのに何故ここへ?
「屋良、なんで麻里ちゃんの所に行かねーの?」
俺は4人と話す時は麻里ちゃんと呼んでいる。そう呼ばないとなんか屋良がキレるからだ。キレる屋良は怖いぞ。
「たまにはおめーらとも話したいなって思って」
なんていい奴だ。だから麻里ちゃんも惚れるんだな。
「ところで大沢は凛ちゃんとどうなん?」
「結構離れてるから会えないんよ。しかも年上だぜ」
「何!?」
全員が驚いた。aikoが30歳だと同じくらい驚いた。まだ高校生かと思ってたのに…。
「んで何歳なん?」
興奮した大塚が聞く。
「19歳」
「19!!??」
尚更驚いた。来年成人式やん。暴れちゃうのかな?
「てか付き合ってねーし、池永が勝手に俺を師匠扱いしてくっ付こうとしてるだけ」
「じゃあ池永は大沢の事好きって事じゃん」
「おん」
「うぜー!!大沢がやってるから尚更うぜー!!」
「わりぃか?」
「おん」
屋良と大沢の会話を聞いてある事に気付いた。
屋良には麻里ちゃんがいるし、大沢には凛ちゃんがいる。大塚には30人増えたメルアドの中から一人、愛ちゃんと何回か会っている。恋愛関係についていけないのって俺だけ!?
うわぁ。出遅れた。あの三人が輝いて見える。頼むから黒崎に女が出来て欲しくないな。
もう高校生でいられるのもあと一年半、エンジョイな高校生活を送れるのはやっぱり彼女だ!!よし彼女を作ろう!!
「ところでさぁ、新曲出来た?」
偉大なる決断をした俺に大沢は聞いてきた。
「新曲って…?」
全然知らねーんだけど。
「えっ…!?福元が作った曲を今週中に完成させるんだぜ」
思い出した!!1ヶ月前、ライブハウスの中で福元に楽譜を配られて…。
『1ヶ月後にまた練習を行う。それまでに完成しなきゃあ…キヒヒヒ』
悪魔の笑みで俺達に言った福元はやる気満々だった。
配って以来楽譜見てねー。てか捨てたかも。てかこの小説がバンド小説だって事も忘れてたよ。
「楽譜…捨てたかも」
「マジかよ!?」
「あらら…」
「バイバイ稲垣」
「ギターソロもいくつかあったぜ。大丈夫かよ」
あんのかよー!!
俺は絶望の崖に立たされ、今、崩れる瞬間にいる。俺ピンチ!!
「頼む!!楽譜貸して!!」
「俺の楽譜ベース用だし」
「俺もドラム用」
そんなぁ…。
俺は諦めずに大沢に近付く。
「大沢、ギターソロがあるの知ってるなら楽譜あるよな。貸してくれ」
すると、大沢は沈黙して、俺から目を逸らしこう言った。
「合体されてるのを福元に見せてもらっただけだから家にはない…」
がーん。
絶望の崖が崩れ、俺は永遠に続く地獄谷へと落ちていく。福元という大王がいる地獄谷へと。
まずはゴミ箱から楽譜を探して一晩で完成させて、彼女を作るためのフリー女子高生リストを作って…ああ、忙しい!!
誰か俺に永遠という時間を下さい。有効に使う事を誓うから…。
そんな事を言ってもくれるはずがないからとりあえず早退して楽譜を探す旅にでた。
病気でも無いのに帰る時の帰路はなんて気持ちがいいんだろう。これを自由研究にして発表したい。
その時、なんとなく向いた視線にとんでもない物が映る。
橋の下の支える部分に背中をつける女子学生。茶髪のロングヘアーにすらっとした体、まさしく俺のタイプだ。俺はしばらくの間、女子学生を見ていた。
すると、女子学生がこっちを向いて笑顔を送った。その笑顔が可愛いのなんの。俺もたまらず笑顔で返した。
「どうしたの?うちの顔になんか付いてる?」
「可愛い顔がついてる(笑)」
「何、ナンパ?あたいはナンパだけは受け付けないねぇ(笑)」
「あたいって何時代だよ(笑)」
「時代じゃねーだろ(笑)」
いい!!こうゆう感じ。会話を途絶えないようにする努力に俺は今感動している。
「名前何てゆうの?」
「普通名前を教えてもらう場合は自分の名を名乗ってから聞く。これ礼儀の基本だよ。テストに出るよ」
「あたいにはテストも礼儀もないね(笑)でもうちの名前は鈴木亜里紗。あんたは?」
「俺、稲垣誠。17歳」
「17歳!?じゃあうちより年上じゃん」
「えっ?何歳?」
「華の15歳ですけど何か?」
「いや、全然何もないけど」
「きっぱり言うなよー!!てか誠って言うんだ。じゃあまこちん決定☆あたいに二言はないよ」
まこちん決定。何故女子は俺をまこちんとつけるのだろう。何かにつけてちんって付けるのが好きなのか?そういえばピカチュウをピカチンって呼んでたな。ゲームフリークに謝れ。
急に亜里紗はケータイを取り出して、俺に突き出した。
「メアドとケー番教えて☆」
「分かった」
俺はケータイを受け取るとやけにジャラジャラ付けてるストラップが電話番号などを打ってるうちにボタンの上などに落ちてすげー邪魔になる。それに苦戦しながらも俺は登録を終了した。
「サンキュ☆早退したん?風邪?」
「まあそんな感じ」
「大丈夫?もう帰った方がいいんじゃん」
心配の眼差しで俺を見つめる亜里紗。…可愛い。こんな目で見られるのは大ダメージだ。
「ありがとう。じゃあ帰るわ」
「またにん☆」
伸びている爪を見せびらかすように手を振る亜里紗。俺もそれに答えるように手を振った。
初対面でこんなに親しくなるなんて…もしやこれってチャンスって奴?やべー、青春を胴上げしてー。
俺はずっと亜里紗の顔を思い出しながら帰路を歩いた。
いつも読みにくい小説を読んでいただき、誠にありがとうございました。